キングズ・シンガーズ タリス『エレミアの哀歌』、バード『モテット集』
トーマス・タリス Thomas Tallis (c.1505-1585)
エレミアの哀歌
ウィリアム・バード William Byrd (1543or1544-1623)
モテット集
1.Gaudeamus Omnes 2.Ne Irascaris, Domine
3.Domine, Salva Nos 4.Haec Dies
5.Vide, Domine, Quoniam Tribulor 6. Ave Verum Corpus
キングズ・シンガーズ
アルト(カウンター・テナー):ペリン、ヒューム
テノール:トムソン
バリトン:ホルト、カリントン
バス:ケイ
〔1977年6月録音、ロンドン〕
プロ・カンティオーネ・アンティクァ、タリス・スコラーズ、ヒリヤード・アンサンブル、モンヴェルディ合唱団など尚古的なコーラス団体はイギリスに多いが、キングズ・シンガーズは自分にとってはその中で最も親しみ深い団体だった。彼らの演奏では、愛唱歌集やビートルズなどに接する機会が多かったのだが、このCDは本格的なイギリス・テューダー楽派の宗教曲の録音。
時代は、イギリスのルネサンス期にあたる。イギリスのルネサンスというとシェークスピアだが、その生没年は1564-1616 で阿刀田高流ではヒトゴロシ・イロイロだそうだ。ほぼ同時代者なので、シェークスピアはタリスやバードの音楽を聴く機会もあったかも知れない。ちょうどヘンリー8世の離婚・再婚問題という最も俗っぽい問題に端を発したイギリス宗教改革の時代。カトリックからの破門、国教会(アングリカン・チャーチ)の成立、カトリックへのゆり戻し、そして再び国教会の確立など当時の音楽家、聖職者は一連の出来事に右往左往し、それにより命を落とした人も少なからずあった。
(なお、ルターの宗教改革のきっかけである「95箇条の意見書」にしても、ルター自身はそこまで事態が進むとは予見していなかったという説もある。とかく事件は意図せざるなにげない事柄から大きくなるものなのかも知れない。)
その時代、あのタリス・スコラーズの名前の元になったトーマス・タリスによる『エレミアの哀歌』と、イギリスの音楽の父と言われるウィリアム・バードの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』などのモテットを聞くことができる。特に後者は、エリザベス一世(1558-1603)との関係が深いという。
『エレミアの哀歌』は、預言者エレミアがエルサレムの荒廃を嘆くの悲しみの歌だが、キングズ・シンガーズの歌唱は、アルト(カウンターテナー)が少々ハスキーな声質であることもあり、音色的にも悲哀に満ちた音楽になっている。それに比較してバードのモテットは、カウンターテナーに暗い響きはあまり感じられず、パートの溶け合いも美しい。1曲目の「いざ我らゆによりて喜べ」はリズミカルで非常に「喜ばしい」感情が表現されている。
ただ鑑賞面からだけ言えば、現在のタリス・スコラーズなどの女声の無理のない発声が加わった古楽の合唱を聞きなれた耳には、少々音色的な魅力の点で欲を言いたくなる。贅沢なものだとは思うが。
なお、古楽が丁寧に解説されているサイトは、Stock book というこのページ。以前ホームページの「音楽の茶の間」でもリンク集に登録させてもらったもの。初心者にとって非常に頼りになる。
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コメント
コメント お久しぶりです。
私は合唱をやっていることもあって、紹介されたキングスシンガーズをはじめ、ヒリアードアンサンブル、タリススコラーズ、コンソートオヴミュージック、などの来日公演を何度か聴きました。
どこも上手くて個性的なグループでした。
特にキングスはルネサンス期のモテットからビートルズやタケミツまで幅広いレパートリーで聴き手を飽きさせないエンターティナー6人組みだと思います。
最近はすっかり生演奏から遠ざかっていますが、機会を見て聴きに行きたいと思います。
投稿: ピースうさぎ | 2006年10月28日 (土) 13:40
ピースうさぎさん、コメントありがとうございます。
コーラスを今でもやられているようでうらやましいです。私は田舎に居たときに第九の記念演奏会からコーラスに入ったクチで、活動したのは5年間もありませんでした。それまで合唱音楽にはほとんど関心がなかったのですが、そこで出会ったアカペラの響きには心を奪われてしまいました。
記事で紹介したトップクラスの団体の実演は聴いたことがないのですが、その点お聞きになったピースうさぎさんがまたしてもうらやましいです。人間の声による音楽の素晴らしさというものを再認識させてくれますね。
投稿: 望 岳人 | 2006年10月28日 (土) 16:23