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2006年11月11日 (土)

トスカニーニのヴァーグナー前奏曲集

Wagnervorspiele_toscanini_

Richard Wagner (1813-1883)

『ローエングリン』第1幕への前奏曲(8:42),第3幕への前奏曲(3:06)
  〔1951年10月22日、カーネギーホール(以下同所)〕

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲(8:58)
 〔1946年3月11日〕
同 第3幕への前奏曲(7:01) 〔1951年11月26日〕

『パルジファル』第1幕への前奏曲(15:25)、聖金曜日の音楽(10:38)〔1949年12月22日〕
『ファウスト』序曲 (10:48) 〔1946年11月11日〕

アルトゥーロ・トスカニーニ Arturo Toscanini 指揮 NBC交響楽団

定価ではまず手にすることのなかったCDだが、ブックオフで目に留まり興味半分で購入した。

1940年代以前には短いぶつ切りのフレージングの悪夢にうなされることのない実演を繰り広げて、欧米の聴衆に非常に深い感銘を与えていたと言われているトスカニーニだが、私の所有している1950年代のNBC響とのベートーヴェンの『エロイカ』(LP)、第九、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、ローマ三部作などではその短いフレージングと残響の少ない録音のために、骨格だけの非常に奇異な音楽に聞こえて仕方がなく、音楽の持つ異様な迫力はわかりつつもどうも敬遠してきた。

トスカニーニは、相当早い時期からバイロイトにも招かれ(このCDにもバイロイトでの1930年のトスカニーニの写真が掲載されている)、ヴァーグナーを得意にしていたのだという。そのような断片的な知識しか持たずにあまり期待せずにこのCDを聞いてみたところ驚いた。

このヴァーグナーは、フレーズもぶつ切りではなく、寸詰まりさはほとんど感じられない。先日聴いたベームとVPOの『マイスタージンガー』第一幕前奏曲の演奏の方がいわゆる「トスカニーニ」スタイルだったほどで、本家トスカニーニの方がずっと余裕のある演奏なのだ。録音年代や場所も、上記のベートーヴェンの第3や第9とそう違いはないし、リマスタリングもチャイコフスキーのピアノ協奏曲と同じシリーズなのでそう違いがあるわけでもないだろう。トスカニーニの音楽的な解釈が、ヴァーグナーの『無限旋律』に長いフレージングを与えようという意識での演奏なのだろうか?非常に息の長い輝かしいカンタービレに酔って思わずウルウルしそうになる。(単純にトスカニーニのヴァーグナーと私の相性がいいだけなのかも知れない。)

録音年代は、1940年代から1950年代前半で、もちろんモノーラルだが、非常にエネルギーのあふれた締まった音響で、リズム的にも前のめりではなく、輝かしい素晴らしい演奏になっている。レーグナーの非常に残響の多い録音で親しんでいる音楽だが、このトスカニーニの録音は私の許容度をはるかに越えるものだ。彼の残した他のワーグナー録音も聴いてみたくなった。

トスカニーニがその輝かしい指揮者人生に自ら幕をおろしたのは、このCDと似たヴァーグナーの名曲集のコンサートでの振り間違えが原因だったというのは有名な話だ。極端に視力の悪かった彼は、その驚異的な記憶力により暗譜でそれを克服していて暗譜での指揮の嚆矢だったのだが、すでに70歳を越えていた彼の記憶力に衰えが生じ、確信を持って振り下ろした指揮棒がオーケストラを混乱させてしまったことが自ら許せなかったのだという。その時のコンサートはMusic & Arts というアメリカのレコード会社から発売されているのだという。(それもステレオ録音の実験的な試みが行われていたためステレオで聴けるのだという。)少々心が痛むが、これも聴いてみたいと思う。

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ディスク音楽01 オーケストラ 」カテゴリの記事

コメント

望 岳人 さん こんばんは。
トスカニーニのワーグナーは、大変スマートな演奏で気に入ってます。
トスカニーニのラストコンサートのCD持っております。RCAのプファイファー&チェイスのコンビによる録音です。1954年3月にシカゴで正式にステレオ録音開始した直後、このコンサートの前後のカーネギーホールでのカンテルリ録音の為の機材を使い録音されていたとのことです。
乾燥気味の録音、同時期のシカゴ、ボストンとの録音に比べれば失敗に近いでしょうか、カンテルリのフランク録音も70年代迄ステレオは発売されませんでした。同様の音です。

投稿: あるべりっひ | 2006年11月11日 (土) 23:48

あるべりっひさん、コメントありがとうございます。

トスカニーニのヴァーグナーには驚きました。1946年の『マイスタージンガー』の音は、1950年代の音よりも新鮮ですし適度の残響も伴っているように感じました。

ラストコンサートについて詳しい情報をありがとうございます。音質的には乾燥気味の音ですか・・・ 少々残念ですね。トスカニーニの振り違いでストップする場面まで録音されているようですが、そこは痛ましいですね。

投稿: 望 岳人 | 2006年11月12日 (日) 01:54

トスカニーニのワーグナーのステレオ盤はすごい迫力でした。
でもあの哀しい出来事のドキュメンタリーになってしまったのですよね。TBさせてください。

投稿: yurikamome122 | 2006年11月15日 (水) 21:56

yurikamome122さん、トラックバック、コメントありがとうございました。

記事を拝見しました。トスカニーニが引退を決意したコンサートというのは、リハーサルの段階からその兆しがあったんですね。なおさら痛ましい思いですね。老いに愕然とし、翌日の本番でも同じミスをしてしまうとは・・・

投稿: 望 岳人 | 2006年11月15日 (水) 23:01

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» トスカニーニのラストコンサート [yurikamomeの『祝.「鎌倉スイス日記」復活。ああよかった』]
 この生々しいドキュメントの録音を私が持っていたことは、ちょっと複雑な感慨があったりする。  リハーサル風景で、トスカニーニ唯一のステレオ録音であるこれが、彼の指揮台から去らねばならない記録であった。  ワーグナーの「神々の黄昏」の夜明けで、あのNBC交響楽団の素晴らしく豊で力強い響に酔っていると、いきなりまるでヒトラーの演説のようなトスカニーニの怒鳴り声が聴こえ、これが彼の斷末魔であった。そして何度かその箇所を繰り返し、自分のミスに気づく彼。  そしてスタジオを去ったらしい。そして翌日のコン... [続きを読む]

受信: 2006年11月15日 (水) 21:56

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