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2006年11月 3日 (金)

パッヘルベルのカノン 聴き比べ

子どもが「音楽の授業でパッヘルベルのカノンを合奏で練習しているのでCDを聞かせて」というので、まずは、『カノン100%』というコンピレーションCDを出してきたが、他のCDにもいろいろ収録されていたはずだと思って棚を探したところバロック音楽の愛好曲集には大体入っているためいつの間にか何種類も集まっており、聞き比べが楽しめた。並べてみると期せずしてちょうど西欧と米国の代表演奏のようになっていた。

ヨハン・パッヘルベル(1653-1706) 3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ 二長調 

Johan Pachelbel  Kanon(Canon) und Gigue für drrei Violinen und Basso Continuo D-dur

1.ホグウッド/アカデミー・オブ・ザ・エンシェント・ミュージック(AoAM) (英国代表) 
    カノン 3:44  ジーグ 1:25 (タイミングは実測)

オーセンティック(ピリオド、古楽器)派の演奏なので、「原曲」を編曲せずに演奏しているのだろうか?

一般に聞き慣れたものよりカノンのテンポは倍近く速く、AoAMの演奏の特徴でもある中ふくらみのデュナミークが付いた弦楽器奏法が少々耳に付くが、全体として乗りのよい意欲的な音楽になっている。通奏低音にはオルガンを使用? カノンに続いてジーグも演奏されるが、特にバロック団体の録音ならばこのジーグはもっと演奏されてもいいものだと思う。

2. パイヤール/パイヤール室内管弦楽団 (フランス代表) 6:04

下記の『カノン100%』にも同じ団体の演奏が収録されている。冒頭から楽譜にない分散和音のピチカートと、チェンバロの通奏低音が聞かれ、テンポもゆるやか。この団体らしくヴァイオリンの旋律線を明確に際立たせないので、一番ヒーリング音楽的でソフトな演奏になっている。中間部(第27小節あたり)では、ヴァイオリンが引っ込み、チェンバロの分散和音が表に出るような工夫もしている。編曲の手が入っているのだろうが、特にクレジットはされていない。パイヤール自身の校訂、楽器法の指定だろうか?

3. イ・ムジチ(ディジタル録音)  (イタリア代表) 4:42

通奏低音のチェンバロの演奏はパイヤールに比べてやや単調だが、ヴァイオリンの絡み合いの明快さはさすがにイ・ムジチという感を抱かせる。ヴァイオリンは、レガートを用いず、マルカート的に音価を短めにして歯切れよく演奏している。終盤にかけてクレッシェンドしてクライマックスを作っている。2との印象の違いは、アルプスの南と北の違いだろうか。

4. カラヤン/BPO(『アダージョ・カラヤン』所収)  (ドイツ代表)  5:06  〔1984年録音〕

この聴き比べ中では唯一の現代フルオケによる演奏。カラヤンらしく余裕のある演奏。弦の数も他の室内オケよりも多いのだろう。主要のメロディーを浮き立たせたり背後に回らせたりは、さすがに指揮者に統率された現代オケの演奏だ。バスの拍節の強調は5のオルフェウスが似ている。編曲者としてマックス・ザイフェルト(Max Seiffert)という人の名前が記載されている。編曲者名がクレジットされているのは珍しい。5のオルフェウスでも聞かれる第39小節からの対旋律的な別のメロディーも中ほどでよく聞き取れる。

5. オルフェウス合奏団 (アメリカ代表)  4:11 〔1989年、1990年録音〕

ホグウッド盤に次いで速い、現代的な華やかな演奏。二拍子系(4分の4拍子)の拍節感を強調するように通奏低音のバスは大きめのバランスで奏でられる。チェンバロは比較的目立ち、自由に演奏。ヴァイオリンもややデュナーミクの変化をつけており、表情が豊か。ピアニシモでフェルマータしないであっさり終わる。

6.「カノン100%(パイヤール、カナディアン・ブラス、富田勲。編曲ものも含めて全8曲収録)」 Canon_in_d

冒頭に挙げたコンピレーションもの。「原曲」の演奏が2種。いくつかの編曲ものほか、現代の作曲家による編曲、インスパイアされた作品などが収録されている。

(1)パイヤール/パイヤール室内管弦楽団 6:03 〔1989年録音〕
 上記2の録音よりもチェンバロが独特な動きをするので別の録音だろう。個人的にはこのテンポと表情付けが最もしっくりする。

(2)ゴールウェイ/スプリーン編 パッヘルベルのカノン ゴールウェイ(fl) スプリーン/オーケストラ 3:19 ムード音楽風の編曲でフルートソロは、原曲の対旋律的な変奏。微妙。フレーズの途中で息継ぎをするような息の短さはいかがなものか?音は細いが美しい。

(3)ミルズ編 パッヘルベルのカノン カナディアン・ブラス 4:30 (Trp*2, Hrn, Trb, Tubの編成)
  各楽器の音域の関係で完全な再現はできないはずがよくできた編曲で、演奏も楽しい。

(4)ロックバーグ曲 バリエーションズ(弦楽四重奏曲第6番より) コンコード弦楽四重奏団 8:14
   作曲家については知らないが、カノンの旋律を素材として用いた面白い音楽になっている。

(5)レーン/ダンクワース編 『ハウ、ホエア、ホエン? (How, where, when?)』 レーン(vo),ゴールウェイ(fl),ダンクワース 3:44 レーンという歌手による歌詞のついた歌。こちらにもゴールウェイが参加。

(6)ウィリアムス/ノルドリ編 アース・エンジェル ハンプトン弦楽四重奏団 4:18
  弦楽四重奏用の編曲だが、原曲にはあまり忠実ではない。作曲者、編曲者についても、このCDの情報があいまいでよく分からない。

(7)カノン・オブ・ザ・スリー・スターズ
 富田勲&プラズマ・シンフォニー・オーケストラ 5:47
 比較的忠実な編曲の富田勲のシンセサイザー。ただし、ベースはポピュラー音楽風に四分音符を付点8分と16分音符の引きずるようなリズムに変えているし、パイヤールのピツィカート風に分散和音を入れている。長野県の野辺山電波天文台で観測された星からの電波を可聴域まで変換したものを音源にしていると聞いたことがある。"Canon of the three stars" 「三星のカノン」という洒落た題名になっている。

(8)エットーレ・ストラッタ/バロック室内管弦楽団 4:47
  まったく知らない指揮者、団体で比較的古い録音だが、奇をてらわずに演奏されている。ただ、第27小節から第34小節の8小節が省略されているのが珍しい(楽譜をみて初めて気がついた。)

P.S. 戸川純『玉姫様』所収の『蛹化の女』(ようかのおんな?むしのおんな?)もこの曲の比較的原曲に近い伴奏に乗ってシュールな歌詞を歌ったもの。学生時代に流行ったなと思い出し、WIKIPEDIAでパッヘルベルを調べてみたら、このカノンについて基礎的な部分から非常に詳しく解説したサイトが紹介されていた。ヒットしているポピュラー音楽のコード進行についても書かれており、「ヘエ」の連発だった。WIKIPEDIAの『カノン(パッヘルベル)』のサイトではリンクをたどるとPDFでジーグ付きの楽譜も入手できる。

この楽譜を見ながら演奏を聴くと面白い。第1声部から二小節遅れて第2声部が追いかけ、その後を同じく第3声部が追いかける。旋律は4小節単位で、それが次々に変奏されていくのだが、縦で見るとそれぞれ上手く協和しているのが見事だ。高度な対位法の技術なのだろう。楽譜を眺めてようやくこれがカノンだということが分かった。ベースは2小節の同じ動きをその間ずっと続けている。3つの声部をそれぞれ別の楽器で演奏するのも立体的で面白いかも知れないと思った。オーボエ、フルート、クラリネットとベースのように。

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コメント

望さん、おはようございます。
パッヘルベルのカノン、大好きです。
この曲でクラシック音楽に入門しましたので、思い出深い、思い入れのある曲でもあります。
それにしても、このエントリーはすごいですね。パッヘルベルのカノンを殆ど網羅してますね。
僕はパイヤール盤(旧盤)とバウムガルトナー盤(DGの旧盤)を好んで聴きます。

投稿: mozart1889 | 2006年11月 4日 (土) 05:58

mozart1889さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

mozart1889さんのひそみに倣って10月以来毎日エントリーをしていますが、毎日続けるのは大変なのを実感しております^_^;

さて、この記事へのお褒めありがとうございます。いつの間にやら集まってしまっておりました。本当にこの曲はいい曲だと思います。今回初めて原曲の楽譜を見てみたのですが、本当に数学的ともいうべき「輪唱」と変奏だということが素人ながら分かり、改めて感動しました。

投稿: 望 岳人 | 2006年11月 4日 (土) 13:54

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