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2007年7月21日 (土)

カラヤン/BPOのモーツァルト 交響曲集

Morzart_karajan

モーツァルト 後期交響曲集

第29番 イ長調 K209 〔1965年8月、サン・モリッツ:S〕
第32番 ト長調 K318 〔1977年10月、フィルハーモニー: P〕
第33番  変ロ長調K319〔1965年8月、S〕
第35番 ニ長調K385『ハフナー』〔1976年5月、P〕
第36番 ハ長調 K425『リンツ』〔1977年10月: P〕
第38番 ニ長調 K504『プラハ』〔1977年2月、10月:P〕
第39番 変ホ長調K548 〔1975年12月:P〕
第40番 ト短調K550 〔1976年5月、1977年2月:P〕
第41番 ハ長調K551 『ジュピター』〔1976年5月:P〕

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ADD  (DG 429 668-2 Made in West Germany)

ヘルベルト・フォン・カラヤンの全盛期にクラシック音楽を聴き始め、その八面六臂の活躍を眺め、またその激しい毀誉褒貶を知り、カラヤンの逝去も音楽界を越えた大ニュースとして体験した世代の者だが、その頃のクラシックファンに多く見られた「アンチ・カラヤン」を気取っていた一人だった。

もちろん、今のように廉価ボックスや中古盤で、「自分の贔屓ではない」演奏家のディスクを気軽に買えることはなく、せいぜいFM放送から流れてくる音楽で、彼の音楽を知るのが関の山だし、当時購読していた『レコード芸術』誌で毎月のように発売される彼の新譜や再発盤の評論を読むことが多かった。中でもいまだに忘れられないのは、畑中良輔氏がカラヤン指揮のモーツァルトか何かの宗教曲集の録音の批評で、「この演奏には、カラヤンのやる気がまったく感じられない。いわゆるやっつけ仕事だ」というような内容で酷評してあったのを思い出す。日本の音楽評論界は、吉田秀和氏や、黒田恭一氏あたりを除けば、こぞってアンチ・カラヤンだったように(少々誇張しているかもしれないが)思い出す。

それでもLP時代には、父か母が買ってくれたチャイコフスキーの『悲愴』(1960年代DG録音)、リヒテルとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲、そしてモーツァルトの『レクィエム』が実家にありそれこそ繰り返し聞いた。またその後学生時代にヴァーグナー入門用に買ったEMI録音の管弦楽曲集2枚組みが、カラヤンのLPとしてのすべてだった。ウブな学生だった頃はカラヤンは、スタイリッシュなスーパー実業家であり、その音楽は自己顕示のためだけで、作曲家に奉仕するという姿勢などなく、そのアンチテーゼとして作曲家への献身性の高い職人肌のベームやセル、「音楽啓蒙家」のバーンスタインがいるというのが、自分の脳中での位置関係だったように思う。

ただ、そのような風潮の中で揉まれていただけではなく、実際1970年代のカラヤンのベートーヴェンは、よくFMで掛かったものだが、そのあまりのレガート重視と、音楽内容の表現に奉仕するのとは別のベクトルを目指したかのように磨きぬかれた音色が、「こんなのはベートーヴェンではない」というような激しい反発を抱いたのもの確かだ。それでも晩年の『第九』は意外なほどの若々しさで驚かされたが。

近年、主にCDの中古盤によってだが、これまで聞かなかったカラヤンに触れる機会が少しずつ増えてきた。子ども達に聞かせる親しみやすいオーケストラ曲などで入手しやすいのがカラヤンだったということもある。プッチーニ『トゥランドット』ハイライト(VPO)、ビゼーの「アルルの女、カルメン組曲集(BPO)、チャイコフスキーの三大バレー組曲集(VPO)、ロッシーニ・スッペ序曲集(BPO)、アダージョカラヤン1,2(BPO)、ホルスト『惑星』(VPO,BPO)、ハイドン『天地創造』(BPO)、『英雄』(BPO)、『幻想』(BPO)、ムターとのブラームスVn協奏曲(BPO)、リヒテル・オイストラフ・ロストロポーヴィチとのベートーヴェンの三重協奏曲(BPO)、R.シュトラウスのオーケストラ曲集(『英雄の生涯』『ドン・ファン』『ツァラトストラはかく語りき』(BPO))、ハイドンの交響曲集などだ。最近入手した新ヴィーン楽派のオーケストラ曲集とこのモーツァルトもそのようにして聞くようになったものの一つだ。

さて、それほど期待をせずにカラヤンのモーツァルトを聴いてみたが、第36番の『リンツ』交響曲の遅くもたれるテンポに違和感を覚えただけで、すべて大変楽しめて聞くことができた。ことに、カラヤンでは重いのではと予想していた若きモーツァルトの傑作第29番(これは古くから愛好してきた曲だが)が、軽快とは言えないものの、磨きぬかれたオーケストラによって丁寧に奏でられており、非常に感心した。『プラハ』以降の後期の傑作群も、ベートーヴェンやハイドンでは違和感を覚えたレガート多用がまったく気にならず、私の「イデア」としてのモーツァルト像とはかけ離れたものではなく、かえって近いものだった。

収録曲の中では、あまり普段聞くことがないが、『ジュピター』音型が出てくる第33番ニ長調K319の演奏も輝かしい音色ながら鈍重ではなく、しゃっきりとしており聴き応えがあるものだった。カラヤンの審美眼にとっては、初期のモーツァルトなどはあまり興味がなかったかも知れないが、このような高性能なオーケストラで奏でられれば、モーツァルトの初期の曲も単に年齢だけが興味を呼ぶだけとは言えなかったのではないかと思った。

なお、パンフレットの解説は、英独仏伊とも別のライターによるもの。1991年の没後200年の前に発売されたものらしい。

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コメント

望さん、こんばんは。
カラヤン、エエですね。大好きです。批判も多かった指揮者ですが(外面を磨き上げる演奏、レガート奏法など)、僕は好きです。
望さんがこのエントリーで挙げられたカラヤンの演奏、同じものを僕も多数所有しています。うんうんと頷きながら望さんの文章を読んでおりました。
モーツァルトもよかったと思います。1970年代初頭のEMI盤も、後半のDG盤もどちらもカラヤンらしい演奏でした。
DGの方がより軽快だったかなと思います。

投稿: mozart1889 | 2007年7月22日 (日) 03:24

カラヤンの演奏、LP時代に持っていたのは、サンプラーLP「HiFi Karajan」だけでした(^_^;)>poripori
その後、シューマンの「春」やシベリウスの交響曲、ビゼーの組曲など、いくつかのCDを聴いて、レガートの美しさに開眼しました。演奏はたいへん魅力的ですが、ドル箱らしく強気の高値販売が多かったのはレコード会社の販売政策でしょうか。反感を持たれる原因はここらへんにもあったかも、ですね。
カラヤンの演奏は、若い頃と晩年とではずいぶん違うように思いますので、全貌がつかみにくい人かもしれません。

投稿: narkejp | 2007年7月22日 (日) 07:46

mozart1889さん、おはようございます。

1960年代から1970年代のクラシック音楽(業界?)が最も活気があった時代の中心は、いまさらながらカラヤンだったと感じております。カラヤン没後、バーンスタインが辛うじてスーパースターとして屋台骨を支えていたように感じましたが、その後急速に凋落が始まったように感じています。

アンチ・カラヤンだったことをカミングアウト(^_^;)してしまいましたが、このような形で比較的容易に入手できるようになった音盤も多いので、それこそ拘りを捨てて聞き直して見たいと思っています。


本文には書き忘れましたが、クレーメルの西側デビュー盤の一つだったカラヤン/BPOとのブラームスのヴァイオリン協奏曲は、冒頭からBPOの分厚い音が楽しめるLPで、実家では愛聴しておりました。

投稿: 望 岳人 | 2007年7月22日 (日) 09:37

narkejpさん、おはようございます。

確かに、自分の小遣いが乏しい時代には、レギュラープライス盤がEMIからもDGからも多数発売されているカラヤンは、文字から入る情報が多いこともあり、なかなか買うことのできない演奏家の一人でした。ある種のルサンチマン感情がアンチカラヤンの心情的な背景だったかも知れないと自省しております。

トスカニーニスタイルの若き日のカラヤン、BPOというドイツ圏最高のオーケストラのシェフとなった昇り龍のカラヤン、narkejpさんの記事で教えていただいたセル/クリーヴランド管と出会って精密なアンサンブルを志向するようになったカラヤン、CDが発明されて再録音を大量に開始したカラヤン、BPOと破局しVPO中心に活動するようになった衒いや気取りを放棄した晩年のカラヤンと確かに時代時代でカラヤンのスタイルは異なるように思います。録音をそれほど聴いているわけではありませんが(^_^;) 

これまであまり聞くことのなかったカラヤンですが、別の記事でも書いたように、ヴァーグナーの『指環』が相当面白そうで、次は是非この全曲を聞いてみたいものだと思っております。

投稿: 望 岳人 | 2007年7月22日 (日) 09:51

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