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2007年8月18日 (土)

リヒテルの『平均律』

Weltempered__s_richter

.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集 第1巻、第2巻全曲

スヴャトスラフ・リヒテル(p:ベーゼンドルファー)

〔1972年8月,9月。1973年月。ザルツブルク、シュロス・クレスハイム(Schloß Klessheim, クレスハイム城またはクレスハイム宮)〕

グールドの『平均律』全曲の4枚組みのCDは、20年ほど前に購入したものだが、それ以来ずっと心の友だった。グールドによるこの多彩な鍵盤楽曲集を耳にすると、バッハの音楽の明晰性とグールドの挑発的な演奏により眠気が飛んでしまうので、カセットテープ4本に全48曲をダビングして、ドライブのときにはよく聴いたものだった。ただ、今聴いている曲が何番の何調ということを意識せずにもっぱら聞いてきたので、今でも第1巻の第1番と2番以外は、音楽と番号が結びつくことはないのだが、おそらくほとんどの曲をそれこそ何十回も聞いたのでは耳なじみになっている。ただ、それとは別の演奏、このリヒテルやグルダのものも手元においてじっくり聞いてみたくなり、探したところ、リヒテルのこの名盤が比較的廉価で入手できるので、購入した。

何十回となく耳に馴染んだグールドの音楽の記憶が「刷り込み」としてあるので、このCDでリヒテルの『平均律』を初めて聴くときは、さすがに緊張した。その演奏、録音の差異は相当よく分かった。これは素晴らしい演奏で、非常に楽しめた。

よく言われることだが、リヒテルの録音場所は、ザルツブルクのクレスハイム城内で行われたため、非常に残響が多く、音楽が滑らかでレガート気味に聞こえることが多い。ただ、ピアノは、ベーゼンドルファーであるというが、残響のためその特徴的な響きはそれほど実感できない。

グールドは、ノンレガートでの高速な楽章のめくるめくような明晰な運動性が特徴だが、リヒテルの方は、テンポの遅い曲の深沈とした響きの音楽にその真骨頂が発揮されているように思われる。HMVかAMAZONのコメントで、リヒテル自身が G.G.(グレン・グールド)の演奏を評価していたようなので、このような残響は、残響のない直接音主体のグールドのノン・レガートのアンチテーゼだということも考えられる。

音響上の特徴により、聴き始めこそ違和感を受けるが、しばらくするうちにそのようなことはまったく気にならなくなってしまう。

確か、先日の吉田秀和氏の特集番組で、奥様を亡くされて、音楽を何も聴きたくなくなったときに唯一耳に入ってきた曲ということで、バッハの平均律のことを話されていたが、そのときBGMで流されたのが、このリヒテルではなかったろうか?

クラシック音楽と癒しということがよく話題にされるが、深い悲しみの心の底にも届くような音楽こそがその人にとっての真の音楽なのかも知れないなどと思った。

以下は備忘録として。

このほかピアノ演奏では、グルダやシフ、、アファナシェフ、ソ連のバッハ弾きニコライエーワのものもあるし、最近はアシュケナージも録音したようだ。また、バレンボイムは最近の来日で全曲演奏をしていった。デムスは、ピアノだけでなく、フォルテピアノ、ハープシコード、オルガン、クラヴィコードでも弾いている。ジャズのキース・ジャレットの演奏もある。最近話題のアンジェラ・ヒューイットも。ホルショフスキーも。フィッシャー。ギーゼキングも。このほか、ケンプも弾いているはずではないか?ロシアのフェインベルクという人のものを高く評価する人もいるようだ。

もちろんハープシコードでは、ヴァルヒャ、レオンハルト、カークパトリック、ランドフスカも、ギルバート、コープマン、アクセンフェルトも、スコット・ロスも。

HMVの「平均律」のカタログでも見られるが、とにかく膨大な数の鍵盤楽器奏者が弾いている。

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ディスク音楽04 独奏」カテゴリの記事

コメント

残暑お見舞い申し上げます。
リヒテルの平均率、いいですね。大好きです。
夢見るような残響とロマンティックなピアノがとても印象的です。
ピアノの音はとても綺麗ですし、リヒテルのベーゼンドルファーの深々としたビロードのような音が素晴らしいですね。
心落ち着かせたいときに、この演奏を取り出すことが多いです。
名盤だなぁと思います。
今、この名盤が恐ろしく廉価で買えるようです。昔は高かったんですが。。。。

投稿: mozart1889 | 2007年8月20日 (月) 07:57

残暑とは名のみで、猛暑が続きますね。東日本もまだまだ暑さが和らぎませんが、四国も暑いことと存じます。

平均律全曲といえば、グールドしかほとんど聴いたことがなく、ヴァルヒャとグルダとこのリヒテルの何曲かをようやく聴いたことがある程度でしたが、このリヒテルの演奏は、さすがに長らく名盤とされてきたものだけのことはありました。(その後のライヴ録音も音響条件が違ってまた聴き応えがあるそうですね。)

ベーゼンドルファーの独特の響きは私のステレオではどうもはっきりとは聞き取れないのですが、昨日は第1巻を楽譜を眺めながらじっくりと聞きなおしたところ、本文の記事で書いたことを少し訂正する必要がありました。楽譜にはテンポ指定がないもので、グールドとリヒテルは当然別のテンポで弾くことが多いのですが、リヒテルもトッカータ的なプレリュードなど、ノンレガートで目にも止まらぬはやわざで駆け抜けることがあったり、全体的にペダルはほとんど使っていないようだというのも分かりました。安易にレガート重視と書いたのは誤りでした。

本当にこの名盤が廉価で入手できるようになり、逆に申し訳ないような感じがしておりますが、グールドともどもじっくりと付き合えるものが入手できたと思っております。

投稿: 望 岳人 | 2007年8月20日 (月) 21:25

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春の暖かさ。日中は汗ばむほどでした。 春風が吹きます。桜吹雪を眺めておりました。 今日はピアノ曲です。 J・S・バッハの平均率クラヴィーア曲集 第1巻 BWV846‐BWV869。 スビャトスラフ・リヒテルのピアノ独奏。 1970年7月、ザルツブルクのクレスハイム宮での録音。ピアノはベーゼンドルファー。 夢見るような残響、ロマンティックなピアノ。 リヒテルはリヒテルの道を行く。これがバッハかいな、と思うが、やはりバッハは偉大であって、こんなにロマンティックに弾いても、バッハ... [続きを読む]

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