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2007年8月21日 (火)

海音寺潮五郎『天と地と』を再読

20年ほど前に一度読んだことがあったが、最近の『風林火山』ブームもあり、再読してみた。この名作も、時代の波に洗われて、2004年に復刊になるまでは長いこと絶版だったようだ。海音寺潮五郎の作品は、たまたま父の蔵書の『武将列伝』が面白く、何回も読み直したり、最近では『日本名城伝』や『乱世の英雄』『悪人列伝』なども少しずつ読んでいる。

さて、記憶力とはあいまいなもので、『天と地と』を以前読んだときには、それほどじっくり読まなかったのか、上杉謙信(長尾景虎⇒輝虎)の幼少時代から関東管領就任までに相当多くの紙数が費やされていることに改めて驚いた。

また、クライマックスは、井上靖『風林火山』と同じく、川中島の戦いでの輝虎と信玄の一騎打ちではあるが、井上靖の作品が、山本勘助を主人公の一人としているのに対して、この『天と地と』は、山本勘助は実在したが山県昌景配下の身分の低い兵士説に基づいていた(下巻p.430)。

小学校2年生か3年生のときにちょうど大河ドラマ『天と地と』が取り上げられたのだったが、当時は放送局自体でヴィデオテープが貴重なものだったため、『ひょっこりひょうたん島』などと同じく、いまではその映像もNHKの資料として短時間残されているだけで、ほとんどが消滅してしまったらしい。自分としてもほとんど映像の記憶はないが、その後雑誌か何かで見た謙信と信玄の一騎打ちの場面が微かに思い出される。若き石坂浩二と渋さが魅力の高橋幸治の表情などは今でも目に浮かぶのだが。

謙信については、女性説のような奇説も唱えられるほどで、一風変わった性格の持ち主でもあったらしい。ついに生涯独身を通し、また子を残さず、北条家からの養子景虎と、姉の息子(実の甥)でやはり養子の景勝のどちらを後継者とするかを決めずに突然死(卒中と言われている)してしまい、その後の上杉家の飛躍を妨げたような部分もあり、最後の関東管領職として室町幕府並びに皇室への忠誠心を持つ権威主義者、保守主義者でもあったようだ。『天と地と』では、相思相愛ながらもついに結ばれることのなかった重臣宇佐美定行の娘との悲恋がこの小説の一本の筋糸のようになっているが、当時の武将として、なぜ子孫を残そうとしなかったのか。非常に不思議ではある。

また、激戦だった永禄4年(1561年)の第四次川中島の戦い(八幡原の戦い)での、海津城(松代城)を眼下にみおろすような敵の懐とも言うべき妻女山(この辺りは、以前長野に住んでいた頃、何度か訪れたことがあるし、現在上信越道が妻女山をトンネルで貫ぬいている)に陣を構えたというのも、戦術的には相当無謀ではなかったかと思われる。直線距離でたった2kmほどしかない。信玄が初めに陣を張った茶臼山は、現在長野市の動物園や恐竜公園になっているが、茶臼山と妻女山とも直線距離で約7kmしかない。謙信が第2陣を置いた善光寺は、海津城と茶臼山の線で連絡が途絶えるところにあるわけで、いったいどのような勝算があったのか、天才謙信の戦略は計り知れないものがある。乾坤一擲ともいうべき大勝負に出たというのがやはり真相なのだろうか?

我が家では、当時、父と弟は謙信びいきで、私は信玄びいきだった。自分の故郷を信玄に荒らされたという史実を知りながらもいまでもそういう傾向はあるのは我ながら不思議だ。

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コメント

「天と地と」、懐かしい番組ですね。当時、たしか原作も読んだはずだと思うのですが、まったく記憶にありません。もう一度読んでみたいです。
私も、上杉ゆかりの県に住んでいますが、好みからいうと信玄です。謙信は軍事的には偉大なのだと思いますが、統治者というか政治家としては信玄のほうが上のような印象を、なんとなく持っています。
まぁ、例によって何の根拠もない話ですが(^o^)/

投稿: narkejp | 2007年8月25日 (土) 09:14

こんばんは。
TV版「天と地と」の頃はまだ幼児でしたので殆ど記憶がないですね。
当時の配役陣を見ると諏訪御寮人=中村玉緒、 宇佐美定行=宇野重吉という所が「アレ?」という感じで目を引きます。まあ、玉緒さんは昔はお姫様女優でしたから良しとして、イメージと若干合わない気もしますが名優・宇野がどう宇佐美を演じたか。あーん、気になります。
この原作、数年前に絶版とは知らずに各書店を探しまわったのを覚えています。新田次郎の「武田勝頼」等も絶版なんですよね、世知辛い世の中です。

投稿: 花岡ジッタ | 2007年8月25日 (土) 21:22

narkejpさん、コメントありがとうございます。

長らく絶版だった『天と地と』の文春文庫版が2004年に復刊したとのことで、久々に読むことができました。読まれるとすれば、図書館などでは恐らく古い朝日新聞社の全集版などが蔵書であるものと思います。

現在の大河ドラマ『風林火山』では、現在上杉謙信に焦点が当たっておりますが、Gacktというミュージシャンの女性的な容姿と、エキセントリックな立ち居振る舞いが、石坂浩二の謙信とは違うユニークな謙信像を描き出しているようで面白く見ております。

米沢の地は、上杉氏ゆかりの地であり、直江兼次や上杉鷹山の事跡もあるということなので、いつかは訪れたいと思っております。

戦国の竜虎、信玄と謙信の対照的な人間像は、まったく面白いものだと思います。

投稿: 望 岳人 | 2007年8月26日 (日) 01:26

花岡ジッタさん、コメントありがとうございます。

改めてwikipediaで調べたところ『天と地と』の放送は1969年でした。すでに38年も昔諏訪御料人が、中村玉緒というのは、当時彼女が30歳ということで少々御年が、という感じですが、ほとんど印象に残ってはおりませんでした。wikipediaの登場人物を見ると、原作ではあまり触れられていない武田信玄側の関係人物が多数登場していて驚きました。ちょうど今回の『風林火山』の原作と脚本との関係と裏表のようですね。

宇佐美定行は、原作では非常に重要な人物として、冒頭から大団円まで登場しますが、宇野重吉の演技も、私が幼かったこともありまったくといっていいほど記憶にありません。

『武田勝頼』は講談社文庫で購入して読みましたが、こちらも絶版でしたか?どこの書店でも、文庫本は棚から溢れるほど並べられていますが、過去の名作、話題作やいわゆる古典の類がどんどん棚から姿を消しているようですね。出版不況のあおりなのでしょうが、悪貨が良貨を駆逐するでは困りますね。

投稿: 望 岳人 | 2007年8月26日 (日) 01:39

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1934年1月10日日本の俳優。本名は加藤 晃夫 (かとう あきお)。京都府京都市中京区生まれ。日本を代表するベテラン俳優の一人。戦後、映画製作を再開した日活に入社。 [続きを読む]

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