加藤廣『信長の棺』を読む
童門冬二の『直江兼続』を読み返し、続いて司馬遼太郎の『関ヶ原』を読み返した。その間、書店で目に留まった谷口克広著『信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書 1907)』も併読し、以前ベストセラーとなったときに買って読んだ加藤廣『信長の棺』を本棚の奥から探してきて読み直した。
太田牛一(おおた‐ぎゅういち(おほたギウイチ) 安土桃山時代の武将。通称資房など。織田信長、豊臣秀吉、秀頼に仕えた。著「信長記」「太閤軍記」など。一五二七~一六一〇頃Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) ゥ Shogakukan 1988/国語大辞典(新装版)ゥ小学館 1988より)という実際に信長、秀吉に仕えた武将であり、「信長公記」「太閤さま軍記」を著した「歴史家」を主人公に据え、大胆な仮説により、信長の政治構想と宮廷の対立、光秀の謀反と宮廷および家康の伊賀逃亡・秀吉の中国大返し(反転)のつながり、秀吉の出自と桶狭間の戦勝などを活写した歴史ミステリーに分類される小説で、著者の小説としての処女作であり、相当話題を呼んだものだった。著者は、その後、この本に加えて、秀吉、明智左馬頭(さまのかみ、光秀の娘婿)を主人公とした小説を上梓して、三部作にしたようだが、後二者は未だ読んでいない。
先日、京都の町並みから信長当時の本能寺跡の一部が発掘され堀と石垣があったらしいという新聞記事が掲載されていたが、明智光秀による信長への謀反は、司馬遼太郎がよく引用する安国寺恵瓊の「あおのけに高転び・・・ 藤吉郎はさりとてはの者にて候」という予測にぴったりの、権力の頂点へもう一歩で上り詰めようとしたときに起こった驚天動地の事件だった。
この明智光秀による本能寺の変は、現在でも歴史家たちによりその主犯(共犯)と動機について多くの説が唱えられている。この小説での加藤廣の説も、現在唱えられている陰謀説(黒幕説)の一つとして分類されるものだが、この小説で面白いのは、信長の事跡を伝える点で最も価値が高いとされる『信長公記』という歴史書の著者である太田牛一を主人公の謎解きの探偵にして、消えたとされる信長やその小姓森蘭丸長定等の遺骸(遺骨)の行方を追ったところだろう。また旧本能寺が城郭的な構造を持っていたらしいというので、作者の建築上のフィクションも相当の蓋然性を持つだろう。なお、京都の阿弥陀寺という寺を開基した高僧が大きな役割を果たすのだが、その上人と織田家とのつながりはフィクションなのだろうか?
また、丹波焼(丹波国多紀郡今田(こんだ)村から産出した陶器。奈良・平安時代には須恵器を産し、鎌倉時代に中世陶器(焼締め陶)に転化した。日常雑器を焼いたが、桃山から江戸時代には茶陶にみるべきものを残している。Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) ゥ Shogakukan 1988/国語大辞典(新装版)ゥ小学館 1988)の工人たちが、隆慶一郎の小説の主題であるいわゆる「自由民」(サンカ)的な性格を持たされ、彼等が歴史の陰で重要な役割を果たしているという設定も少々とってつけた(必然性に欠ける)ように思われることもあったが、面白かった。
読み終えた後、『信長公記』をネットで検索してみたところ、原文をPDFで読めるようにしたサイトもあった。これには、この小説で言及された『信長公記』の首巻も掲載されており、また、信長・家康による武田攻めについても詳しく書かれていた。以前、ルイス・フロイスの【完訳フロイス日本史〈1〉将軍義輝の最期および自由都市堺―織田信長篇(1) (中公文庫)】を3巻まで購入して読み進めたことがあったが、これと併せて読めば、また非常に面白そうだ。
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