J.S.バッハ 『フーガの技法』
『音楽の捧げもの』に続く、バッハの絶筆となった作品。バッハの壮年期においても『フーガ』は既に古い技法とされ、少し先輩のヴィヴァルディなどは、通奏低音は用いてはいるものの、既に和声的な音楽を多数作曲していたし、同時代のテレマンも既にギャラント様式に傾き、ヘンデルでさえ、『メサイア』などでフーガ技法を効果的に用いてはいるが、バッハに比べるとより平明な感じの音楽を作っているように思われる。
その最晩年に、自らの記念碑を立てるかのように、バッハはフーガのありとあらゆる技法を網羅した曲集を作曲しようとし、そして未完のまま世を去った。この曲集には、特に楽器指定はなく、その意味でも、非常に抽象化、理念化された音楽だと考えられている。
実際の演奏では、下記のようにオルガン独奏によるものや、室内オーケストラ(アンサンブル)により演奏されることが多い。
私にとってこの曲は、モーツァルトのロマンティックな伝説に彩られた『レクィエム』とは異なり、非常に精緻な音の建造物ゆえに、作曲家の絶筆だという生命の終焉という観念には結びつかず、音による抽象思考の極致であるように思われる。それでも、12音技法とは異なり、情緒的・感覚的な聴く喜びをももたらしてくれるものだと思う。
学生時代に、FM放送でこの曲の全曲演奏があり、その際に全集版のポケットスコアを購入して、譜面を追いながら聞き入ったのを懐かしく思い出す。
その後、CDでは、以下のような録音を入手したが、このような音楽は、ヘッドフォンで深夜に一人静かに聴くのが似合っているようで、現在の騒々しい生活環境ではなかなか集中して聞く機会には恵まれていない。
◎カール・リステンパルト指揮ザール放送室内管弦楽団
ヴィンシャーマン(オーボエ)、ゴリツキ(オーボエ・ダモーレ)、グッチュ(コール・アングレ)、トゥルーク(ファゴット)、ヴェイロン=ラクロワ、ドレイフュス(チェンバロ) 録音不明 ○P1989(関連記事:フーガの技法の余白に)
この演奏は、名オーボエ奏者のヘルムート・ヴィンシャーマンの校訂(楽器指定)版によっており、オーボエ属とでも言うのだろうか、チャルメラと同じダブルリードの楽器群のアンサンブルによってこの曲集の中のいくつかが演奏されているが、息の長い少々鄙びた音色の楽器によって演奏されるContrapunctusは、非常に美しい。全体的にテンポが緩やかで、静けさが部屋に満ちるような演奏である。
◎ラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティクヮ・ケルン:弦楽合奏 録音1984年ハンブルク
先鋭的なバッハ演奏で知られるMAKによる弦楽合奏とチェンバロによる演奏で、テンポが非常に速い。そのため全曲がCD一枚に収録されるほどで、リステンパルト等のものに比べると違う曲であるかのように聞こえる部分もある。彼らの演奏は、速いテンポによりエネルギッシュさと現代的な焦燥感を示しているかのように聞こえることもある。
◎グレン・グールド:オルガン演奏 (Contrapunctus1-9) 録音1962年トロント(関連記事:J.S.バッハ クラヴィア協奏曲第3番ニ長調)
珍しくグールドがオルガンを弾いたもの。オルガンに置いてもスタッカート、マルカート気味の演奏をする部分もあるが、さすがに音価が保たれる楽器だけあり、オルガン的な重量感のある響きが聴かれることが多い。ペダル演奏も専門のオルガニストではなくともさすがにグールドは達者なものだと思う。グールドによるバッハの他のオルガン曲の演奏は実行されなかったものだろうか?クラヴィア曲だけでなく、ペダル付きとは言え同じ鍵盤楽器の曲もグールドの手にかかればどのように聴けたものだろうか?
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