« カラヤン/BPO('77-'78) ブラームス 交響曲第4番 | トップページ | C.クライバー/VPO ブラームス交響曲第4番(1980年) »

2008年4月11日 (金)

ヴァントのブラームス交響曲第4番(1985年)

Wand_brahms_3_4ブラームス
 交響曲第4番 ホ短調 作品98

 ギュンター・ヴァント指揮
  ハンブルク・北ドイツ放送交響楽団

  〔1985年〕

11:51/10:46/6:24/9:28

ギュンター・ヴァントは、20世紀末に特にブルックナーの指揮で、神のように祭り上げられた指揮者だった。その人気は、日本は勿論本場のドイツでも凄かったようで、ベルリンフィルにも客演した。しかし、ヴィーンフィルとはかつての喧嘩別れの影響か指揮台に上ることはなかったと聞く。

そんなヴァントだが、私のいつもの天邪鬼が出て、多くのファンが熱狂的に誉めそやした朝比奈隆同様、これまでほとんど聴いたことがなかった。この録音は、1980年代に録音した古い方の全集がブックオフで売っていたので、そろそろヴァント封印を解いてみようと気軽な気持ちで購入して聴いてみた。

RCAレーベルだが共同制作としてハルモニアムンディと北ドイツ放送が名を連ねているのはどういう背景があってのことか分からないが、相当力の入った制作であるようだ。

先日のカラヤン/BPOの77年録音に続いて今回も第4番を聴いてみた。有名なカルロス・クライバーの録音は1980年3月なので、ヴァントの録音は1985年ということでこの後になる。

先日のカラヤンは、その音響的な美しさとダイナミックの巧みさによって意外とも言える思いがけない感動を与えてくれたが、このヴァントの録音は、それとは異なった部分で感銘を与えてくれる演奏だった。

緻密であいまいな細部を残さない非常に透徹した演奏で、マスの響きが充実していないわけではないのだが、それよりもなめらかなフレージングによる流動感と、対位法的な線的な絡み合いの妙がくっきりと演奏され、細部までよく描かれた細密画のようで、ブラームスの綿密な書法が見えてくるようだ。特に、副次的な声部や音型が微妙なバランスを保って聴こえてくるのが面白い。

指揮者の意思が細部まで行き通った相当練習を積んだ演奏だと思うが、チェリビダッケ的なテンポの遅さはなく、また、はるか昔のメンゲルベルクのように細部まで徹底していながら主観的と言われた奔放さはなく、頑固一徹にブラームスの楽譜を忠実に再現しようとしているようだ。そう書くと、これまたやけに古めかしく、また凡百の楽譜忠実主義かと思えてしまいがちだが、透明で首尾一貫したビジョンを持っていることを感じさせてくれるとことが違う。音響もそれだけで酔わすようなカラヤン的な官能性からは遠く、非常に清楚な印象を与える。かと言って渋いわけではなく、みずみずしさも残っている。全体に、静謐な印象をもたらすため、やや熱気には不足する印象を持つ。

ブラームスの交響曲は、古典的からロマン的まで様々な解釈や演奏スタイルを許容する奥深さを持っていると思うが、この指揮・演奏は、スタティックな演奏としては最右翼に位置するものかも知れない。

記憶にあるジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団のLPの演奏に近いものだが、セルのものは、1960年代の録音ということもあり、これほど細部まで聞き取れなかったように思う。また、スタティックというよりもセルの個性であるリズミックさが感じられたように記憶している。

このようなヴァントの指揮で聴けるブルックナーはまだまともに聞いたことがないので、楽しみだ。

参考:カラヤン/BPO 〔1977〕12:48/11:05/6:04/9:57

次は、カルロス・クライバー/VPOを聴い直してみたい。そして、どういうところが自分の気に染まないのだろうかを考えてみたい(もしかしたら気に染むかも知れないが)。

追記:2008/04/12

「ヴァント ブラームス 全集」で検索したところ、「にんじんタイム」というブログに詳細な録音データが掲載されているのを発見。転載・加工させていただいた。HMVのサイトでは、このCDのリマスタリング盤が紹介されている。

なお、この交響楽団がブラームスの生まれ故郷のハンブルクのものだということを書こうと思っていて忘れていた。ドイツの放送オーケストラはそれこそ枚挙の暇もないほどだが、このハンブルクのオケもヴァントの薫陶の賜物か素晴らしい演奏だと思う。

■録音・・・第1番 1982年10月26-29日&12月17日 ハンブルク フリードリヒ・エーベルト・ハレ

第2番 1983年3月 ハンブルク フリードリヒ・エーベルト・ハレ

第3番 1983年9月6-21日 ハンブルク フリードリヒ・エーベルト・ハレ

第4番 1985年 ハンブルク ムジーク・ハレ

|

« カラヤン/BPO('77-'78) ブラームス 交響曲第4番 | トップページ | C.クライバー/VPO ブラームス交響曲第4番(1980年) »

コメント

おはようございます。
ヴァントがビックネームになる以前ですが別冊FMファン誌において故長岡鉄男氏が優秀録音盤として取り上げていたので全集で購入しました。

私には漠然とは思っていてもそれを文章にする能力がありません。貴殿の分かりやすく的確な文章を読んでいると羨ましい限りです。ほんと一つ一つ頷きながら読ませていただきました。
蛇足ですが私も朝比奈隆氏には?です

投稿: 天ぬき | 2008年4月12日 (土) 10:29

天ぬきさん、いつもコメントありがとうございます。楽章ごとの丁寧な感想ではなく、印象を大まかに書き綴った自己流のコメントでお恥ずかしい限りですが、共感をいただき恐縮です。

また、このヴァント盤は、長岡氏の優秀録音盤ですか。それはうれしいです。本来はきちんとスピーカーを通して聞くべきなのでしょうが、ステレオイアフォンで聞いても、非常に細部まで緻密に録音されており、歪みも感じられませんでした。FM放送で長年音楽を楽しんで来たものにとっては、優秀な装置でなくても充分楽しめますが、この録音のように静謐な雰囲気のあるものは聞きやすいですね。

投稿: 望 岳人 | 2008年4月12日 (土) 11:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヴァントのブラームス交響曲第4番(1985年):

» 横浜関内の中国語教室 日本中文学院 [横浜関内の中国語教室 日本中文学院]
中国語を、お茶をしながら楽しく勉強できます。発音はピンインからしっかりやるので、使える中国語が身についてゆきます。 [続きを読む]

受信: 2008年4月11日 (金) 22:23

« カラヤン/BPO('77-'78) ブラームス 交響曲第4番 | トップページ | C.クライバー/VPO ブラームス交響曲第4番(1980年) »