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2008年7月17日 (木)

オーヴェルニュの歌 デ・ロス・アンヘレス

Chants_dauvergne_de_los_angeles

マリー=ジョゼフ・カントルーブ=ド・マラレ(Marie-Joseph Canteloube de Malaret)編曲 

オーヴェルニュの歌 (Chants d' Auvergne)

ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス Victoria de Los Angeles (ソプラノ)

指揮: ジャン=ピエール・ジャキャ Jean-Pierre Jacquillat
コンセール・ラムルー管弦楽団 Orchestre des Concerts Lamoureux
〔1969年2月10日-19日、9月9日-17日 録音〕

夏に涼風を運んで来てくれる音楽としては、水や山に関係のあるものが多いけれど、この歌曲集は、フランスのヘソと呼ばれるオーヴェルニュ地方に伝承された歌(民謡)を、(通常カントルーブ編と略されるが実は上記のように大変長い名前の)作曲家が、収集、編曲(オーケストレーション)した全5巻27曲の歌曲集が「オーヴェルニュの歌」だ。あの「フランスの山人の歌による交響曲」を作曲したヴァンサン・ダンディに師事したことも、民謡に目を向けさせた要因のひとつだろうか。

このビクトリア・デ・ロス・アンヘレスのEMI盤は惜しいことに全曲は収録されておらず、24曲が収録されている。

オーヴェルニュ地方は、ミネラルウォーターVolvic が採取される ヴォルヴィックという村があるいわゆる火山性の中央高地で、日本で言えば長野・山梨・岐阜辺りの高原地帯のようなところだろうか。この曲集は、オーヴェルニュ方言ということもあり、詳しい解説と対訳はついていても、いつも聞き流すだけなのだが、春、秋、冬よりも夏に聴きたくなる。カントルーブのオーケストレーションの特色なのだろうが、爽やかな山を渡る風が身体を包むような感じを受けるからだ。

第1集の有名な「バイレロ」だけでなく、第3集「牧場を通っておいで」、第4集「牧歌」などいつ聴いても爽快な気分になれる。

絵本『木を植えた男』(ジャン・ジオノ作)は、このオーヴェルニュ地方よりも南、アルプスと地中海に囲まれた荒々しい自然のプロヴァンス地方(あのビゼー・ドデーの「アルルの女」のアルルもこの地方の町)の荒蕪の地での感動的な物語だが、『オーヴェルニュの歌』の牧歌的な明るさの間に見られる陰りは、やはり山地特有の自然の厳しさも感じさせないではない。

高温多湿の日本の夏だが、私の故郷の信州の高原は高燥な気候で降雨量も全国的にも意外なほど少ない。特に軽井沢などの浅間山麓から上田に掛けての佐久・小県地域は、標高の高さと降雨量の少なさで、本当に避暑には適した場所なのだろう。

軽井沢は、英国の宣教師ショーが避暑地として紹介するまでは、避暑などという習慣もなく、中仙道の重要な宿場町とは言え碓氷峠や和田峠という難所を控える高冷地として非常に物寂しい地域だったようだ。その後、外国人に続いて日本のブルジョア階級や文人達が訪れ、避暑地として活況を呈すわけだが、最近はバブル期のような繁華さは少しは納まって相当落ち着いたというか沈滞した雰囲気になってきて私的には結構好ましい(地元経済とか言うと話が複雑になるが)。

この軽井沢というよりも浅間山麓のどこかの眺めのよい場所で、この曲を聴けたら楽しいことだろうと想像する。残念ながら私の実家からは浅間山は眺められるが、いわゆるパノラマ的な風景が見える場所ではないので、このCDをクルマに積んで行って、第4集の「向こうの谷間に」あたりを聴きながら見晴らしのいい山道を走りってのんびりするのもいいかも知れない。

聴きながらいつの間にか夢想の中に入ってしまった。この夏も帰省する予定だが、原油高騰とは言え、この時期だけは道路も鉄道も混むことだろうと思うと現実に引き戻される。

追記:ブログで「オーヴェルニュの歌」を検索したところ、TARO'S CAFE オーヴェルニュの歌 ~名画と名曲・42という面白い記事を見つけ読ませてもらった。

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コメント

この曲などを真面目に聞いた事がないので心しておきましょう。しかしこの地方は車で通っただけですが、六月の太陽と人口密度の少なさで印象に残っています。目的地であったレスコーの洞窟を通ってのボルドーや南仏とは違う緑の美しさと清々しさがあったのは事実です。

なるほど信州の一部と比較するのは強ち当て外れとは云えませんね。

投稿: pfaelzerwein | 2008年7月18日 (金) 03:44

pfaelzerweinさん、今晩は。といっても、ドイツでは長い夏の昼の昼下がりでしょうか。未だなかなか梅雨明け宣言が発令されませんが、それはどうもまだ夏の高気圧の支配下になかなか入らず、寒気と暖気が日本列島の東側でぶつかりあって不安定な天気になっているからのようです。とは言え、この夕方、短く強い雨が降ったこともあり、猛烈な湿度と温度になり、耐え難いほどの不快さでした。

家路を歩みながら、この曲をどこで聴くのがいいかと未だ思い浮かべていましたが、ようやく相応しい光景が浮かびました。美ヶ原の溶岩台地の上です。あそこには妙齢の羊飼いの女性などいるはずもありませんが、中央高地のちょうどヘソのような場所で、飛騨山脈、浅間連山、関東山地、八ヶ岳、南アルプス、遠く富士山まで見渡せる爽快な草原です。20年ほど前に現代彫刻を集めた高原美術館なるものが出来、それなりに面白いのですが、そちらには向かわず、テレビ・電波アンテナの林立する王ガ鼻方面に向かって高原台地を歩むときに、携帯プレーヤーなどで聴けたらいいかも知れませんし、美しの塔の周辺でこのような類の歌曲のコンサートが聴ければいいなどとも思いました(実際、そんな企画があるわけではないのですが)。

投稿: 望 岳人 | 2008年7月18日 (金) 22:29

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