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2008年11月19日 (水)

亀山『カラマーゾフの兄弟』(光文社文庫)全5巻読了

読んでいる途中で、亀山東京外語大学学長のロシアからの勲章授与があったり、新聞に大々的な広告が出たり、『罪と罰』の新訳の発売が開始されたり、誤訳騒動が起こっていたことを知ったりして、少し読みのペースが落ちたが、第3巻から第5巻のエピローグ、生涯、解題まで一息に読み続けることができた。こういう内容だったのか。面白かった。

若者というよりも、どうも退職年齢の団塊の世代によく読まれているという話だが、どこまで本当なのか分からないものの、混迷の時代への指針を求めている雰囲気も感じられないではない。

第2巻では、次男イワンによる有名な『大審問官』の朗読と、その前に書かれたあまりにも『現代的』なイスラム教徒によるキリスト教徒への残虐行為(旧ユーゴスラビアを想起)、当時でのロシアでの児童虐待。このような現実を見て、それでも『汝の敵を愛せよ』と言い得るのかという切実な問い。異教徒である私でも、このように書くと少し震えが来るほどだ。

第3巻、第4巻は、思索的な第2巻と違って、それほど難しいことは考えずに、ストーリーを追うだけでも楽しめた。特に、『誤審』の章では、真犯人を知っている読者として、事実と食い違いを見せながらも、どのように検察官がもっともらしく、論理的にストーリーを組み立て、弁護人による論駁、情に訴える弁論によっても、先入観に捉われた陪審員たちの印象を覆すことはできず、ミーチャには有罪判決が下される。当時のロシアでは未だ公開裁判のような司法制度が開始されたばかりのようで、控訴・上告の制度はなかったらしい。冤罪、誤審という観点からも興味深いストーリーだった。

書かれざりし第2の小説について、亀山氏は大いに熱弁を振るっている。確かに、作者にとっての主人公アリョーシャは、現存する『カラマーゾフの兄弟』では、十分に描かれていないし、少年達、リーズ(リーザ)・ホフラコーワとの関係もこれから予断を許さないようにも思える。この第1の小説で完結とすると、そのような伏線が中途半端に放り出されたという感じを抱かせ、それらの持つ意味が不明という扱いになりがちだが、第2の小説を想定すると所を得る感じが確かにする。誤訳批判派は、どうもこの第2の小説の可能性を小さく見たいという意見が強いようで、その辺りに批判の根底もあるのかも知れないなどと思った。


少し、今回のカラマーゾフブームをネットで調べてみた。

http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20070724bk07.htm

新訳「カラマーゾフの兄弟」 売った「仕掛け」

今月完結したドストエフスキーの新訳『カラマーゾフの兄弟』(亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫)が売れている。第1巻の11刷、7万1000部を筆頭に全5巻で累計23万部に達した。

好色で金に汚い父フョードル殺害をめぐるドミートリー、イワン、アレクセイの三兄弟の物語は、長い会話文やロシア特有の人名の複雑さで、なかなか読み通せない作品だ。なぜ、これほどの反響を呼んだのか。東京大学で22日に開かれたシンポジウム「ビバ!カラマーゾフ」で、東京外大の亀山教授が苦労の一端を明かした。

新訳出版の最初の障害は、自身の心理的抵抗感だった。1970年代に訳した原卓也、江川卓は教えを受けた世代にあたり、「新訳は先行訳を否定する面がある。どこかにやましさがあったが、読みやすさを心掛けた」と話す。

同じ19世紀ロシアの作家でも、チェーホフやトルストイは比較的読みやすい。ドストエフスキーの原文は逆接の接続詞や関係代名詞が多く難解だが、亀山訳はすいすいと頭に入る日本語に置き換え、東京大学の沼野充義教授は「驚くほど自然に読むことができる」と絶賛した。

先月出版された『21世紀ドストエフスキーがやってくる』(集英社)は、大江健三郎や加賀乙彦など作家や研究者らが文章を寄せ、日本文学に与えた影響の大きさが分かる。この本のため初めて『カラマーゾフの兄弟』(新潮社版、全3巻)に挑んだ金原ひとみは、上巻こそ3か月かかったが、中下巻は3日間で読み通した。「いろんな人の精神におぼれて、最後にちょっと息ができるような体験だった」と話す。世界の混沌(こんとん)を体現した魅力は現代も色あせていない。

亀山教授による『カラマーゾフの兄弟』というブランドイメージが、読者の知的好奇心を刺激した面もある。古典の名作文学を読み継ぐため、多少の「仕掛け」が必要なことも、今回の成功は実証した。(待田晋哉)(2007年7月24日  読売新聞)

「カラマーゾフの兄弟 翻訳 米川 江川」についてのgoogle検索。

http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLJ,GGLJ:2006-43,GGLJ:ja&q=%e3%82%ab%e3%83%a9%e3%83%9e%e3%83%bc%e3%82%be%e3%83%95%e3%81%ae%e5%85%84%e5%bc%9f%e3%80%80%e7%bf%bb%e8%a8%b3%e3%80%80%e7%b1%b3%e5%b7%9d%e3%80%80%e6%b1%9f%e5%b7%9d%e3%80%80


亀山ブログというのもあるらしい。
http://karamazov08.blog17.fc2.com/

木下豊房(千葉大名誉教授、国際ドストエーフスキイ協会 Vice President)による誤訳批判
http://www.ne.jp/asahi/dost/jds/dost125.htm

http://www.ne.jp/asahi/dost/jds/dost120e.htm

http://homepage2.nifty.com/~t-nagase/kameyama.html

http://d.hatena.ne.jp/kinoshitakazuo/20080713

国際ドストエーフスキイ協会

http://www.dostoevsky.org/
http://www.dostoevsky.org/links.html

カラマーゾフの兄弟 英訳

http://books.mirror.org/gb.dostoevsky.html

http://www.bibliomania.com/0/0/235/1030/frameset.html

『星の王子様』の翻訳問題

http://www.shoshi-shinsui.com/book-prince.htm


ドストエフ好きーのページ
http://www.coara.or.jp/~dost/1-9.htm

地下室の本棚 
http://homepage3.nifty.com/coderachi/index.html

 (翻訳の試みをされている方のサイト)

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