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2008年12月21日 (日)

Wolfgang の 日本語での表し方は?

学生時代に第2外国語として履修して、辞書を使ってドイツ語のハンス・ケルゼンの憲法学の論文などを購読(輪読)した経験はあるが、いまやそれも霧のかなただ。

さて、ドイツ語の綴りで、文末の g を k (日本語表記では ク)と発音するということは、ドイツ語初級の教科書には必ず出てくる。

それで、学生時代から相当時間が経った一時期、Der Ring des Niebelungen を日本語的に表記すると デル(デア)・「リング」・デス・ニーベルンゲン か 「リンク」になるのだろうか、ニーベルングかニーベルンクか と迷ったことがあった。また、指揮者のKurt Sanderling については、雑誌やネットでは ザンデルリング と ザンデルリンク が混在している。これも 語尾の -ng の表記の問題だ。

さて、Wolfgang Amadeus Mozart や Johann Wolfgang von Goethe の 名前で知られる Wolfgang だが、こちらは ヴォルフガング と 最後の -ng が 「ング」とされる表記が一般的だ。これについては、 ヴォルフガンク という表記は、目にしたことがなかったが、中野雄『モーツァルト 天才の秘密』(文春新書 487)を読んでみたところ、「ヴォルフガンク」 という表記になっており驚いた。ヴォルフガンクという珍しい表記についての注釈はどうも見当たらない。ヴィーンの著名な環状道路のことは「リング」(環状線) p.240 と記述されているのにも関らずである。

この著者の著書は文春新書で『丸山眞男 音楽の対話』『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』、宇野功芳などとの『CDの名盤』などを読んでおり、内容はそれなりに面白いとは思いつつ、どこで自分と波長がずれるのか分からないが、重箱の隅的な部分が目に留まることが何度かあり、自分にとってのその著書全体の信頼度が低下するということがこれまで結構あった。

『ウィーン・フィル』では、ジョージ・セルとヴィーンフィルの『エグモント』全曲の録音年の間違いや、『CDの名盤』では安易にドホナーニをハンガリー系の指揮者として分類していること(自分でもうっかりそうしてしまいがちだが、この人の場合、祖父が著名なハンガリー出身の作曲家だからハンガリー系とされてしまうので、仮に二代前の血筋を問題にすれば独墺系の音楽家でもハンガリー系とされる人は結構多いはずだ)とか、『考える人』の音楽特集での『アンナ・マグダレーナ・バッハ』の『バッハの思い出』をアンナ・マグダレーナ自身の筆になるもののように紹介していたこととか、つっこみどころが多いように感じている。(著名な演奏家の漏らした言葉など誰かの権威に頼る癖とかも気になる。)

モーツァルト生誕250周年の2006年に出版されたこの新書を最近入手して読み始めたところ、早速上記のような瑣末な表現が気になってしまった。

海老沢敏の大部の『モーツァルト』では、通称ナンネルとか表記されているヴォルフガングの姉の愛称を、ネンネルルとか、ヴォルフガングの愛称 ヴォルフガンゲルルとか特別な呼称で表記していて、そのこだわりがすごいと思っていたのだが、中野『モーツァルト』はあくまでも一般向けの読み物なので、どのようなこだわりがあったのか分からないが、普通の表記にしておいた方が、このようなつっこみがなくてよかったのではあるまいか?

まあ、それでもこのような表記の不統一については、自分でもうっかり知らず知らずでやっていることだろうし、外国語をそもそも日本語表記すること自体に不完全さが常に伴うので、その著書の中で一貫していればいいのかも知れないが。

p.s. 映画『アマデウス』はよくできた映画だったが、モーツァルトの有名な歌劇が英語台詞で歌われていたり、コンスタンツェがモーツァルトの愛称を呼ぶときに英語風の「ウルフィー」と言ったのは少し鼻白んだ。なお、漫画『のだめカンタービレ』で主人公ののだめが「モツアルト」「ベトベン」と舌足らず気味に言うのは主人公のキャラクター造形上の設定がそうなので違和感はあまりないが、それを他の人が真似するのは少し見苦しい。NHKやマスコミの社内規定表記の「ベートーベン」「バイオリン」問題もあるにはあるが、のだめ的な表記はオリジナリティの問題も絡むので。

追記:2008/12/23

中野雄『モーツァルト 天才の秘密』(文春新書 487)を通読した。2006年2月25日の第3刷だが、不思議な表記があった。モーツァルトの晩年を金銭的に支えたフリーメーソン仲間の商人Puchbergのことだと思うが、p.224ではプーホベルクと表記されており、p.248ではプフベルクとある。予備知識がなければ、この二つの表記では別人だと思ってしまうだろう。(私が知らないだけで、別人という可能性もあるのだが。) また、p.250 では、ワルター/ニューヨークフィルの『レクィエム』のモノーラル録音の録音年が1956年のはずが1965年と二回も繰り返されて記されている。1965年は既にステレオ録音時代なので、「モノラル」と書かれているので新発見の録音でもあったのかと思ってしまった。

読み物としては、中野氏特有の読みやすい文体でスラスラと読めるというのは、『丸山眞男 音楽の対話』『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』と共通するところだったが、重箱の隅をつつくような指摘なのだが、表記の問題、あっさりと年代を間違えているようなところなど、あとがきで「遅筆、締め切り無視」などと弁解をしているが、編集者がまともに校正の仕事ができていない証拠ではあるまいか、とも感じてしまった。当時の時代背景や他国情勢、音楽家の地位などに記述を及ぼして、分かりやすい評伝になっているのは感じたが、「遅筆、締め切り無視」などをせずに、編集者とじっくり想を練れたら、もっと信頼性が置ける一般向けの伝記になったのだろうと思うと惜しい気がした。父レオポルトへの従来の俗説的な批判に対する擁護は結構読ませるものがあったが、なぜレオポルトが法律専攻の大学生から音楽家への道をあえて選択したのかの説明に(史料も乏しいのだろうが)十分な説得力がなかった。

『天才の秘密』については、最近流行りの脳科学を援用しているが、素質(遺伝)と環境の合成であるという議論に特に目新しいものはなかったし、旅がモーツァルトを育てたというのも従来から言われていたことだった。

晩年の『落魄』については、貴族制への批判が含まれるオペラ『フィガロ』『ドン・ジョヴァンニ』『コシ』が貴族層の反感を買っていたのではないかということが、はっきりとではないが語られていた。また心情をあらわにした晩年の諸傑作が「難しすぎて楽しめない」という理由で貴族層を中心とした聴衆、素人演奏家から見放されてしまったという点は従来の説通りだった。ただ、ここの書きかたは、自分の記事にも引用したがロビンス・ランドンの『モーツァルト - 音楽における天才の役割』の方がより納得のできるものだった。

P.158には、「しかしモーツァルトが、こうした壊滅的な家計の状態に陥った理由についてはよく判っていない。つい先日までの人気者に対して、なぜ ウィーンの上流階級がこのように急激に掌を返してしまったのかは、謎に包まれている。もし、こうした急展開を解明する資料があるとすれば、それらは失われ たのか、あるいはウィーンの膨大な古文書の中に埋もれているものであろう。」 また、P.162には、「1791年の12月にモーツァルトが死んだ時、 ウィーンの新聞は、このできごとをほとんど報じなかった。それは極めて異常なことであり、多くの点でいまだによく判らない謎であるが・・・」とある。

ハイドンは、当時滞在していたロンドンでモーツァルトの死去の便りを聞き、大変嘆いたというが、当時モーツァルトは神聖ローマ帝国の宮廷作曲家(楽長ではない)の地位にある公人でもあったので、現代の我々から見れば非常に不思議なことではある。

晩年、ロッシーニなどに人気を奪われて、ヴィーンでは人気音楽家ではなくなっていたベートーヴェンの葬儀にあたっては数多くの市民がその葬列に連なり、あのシューベルトが棺を担ぐなど音楽史的に見ても非常に印象的なものだったので、後世偉大な音楽家とされる人物の葬儀はすべからくこうであるべしという風に思ってしまうのだが、全欧から尊敬されていたハイドンにしてもそれほど盛大な葬儀ではなかったようなので、逆にベートーヴェンの葬儀自体が特別のことだったのかも知れない。

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