聖地チベット ポタラ宮と天空の至宝 上野の森美術館 12/20観覧
Tibet Treasures from the Roof of the World と名づけられた、いわゆる「チベット展」に、昨日日曜日出かけてきた。 新聞販売店からもらった招待券が2枚あり、長男と妻はそれぞれ外出したので、次男と一緒に観覧に行った次第。この冬は、暖冬という長期予報だったが、この朝は特に寒く、クルマにはビッシリと霜がおり、長男を送っていく早朝には、霜スクレーパーを取り出して使うほどだったし、上野公演も日陰ではひどく寒かった。
上野の森美術館は何度もその前を通り過ぎたことはあったが、入館したのは今回が初めてだった。こじんまりした美術館だが、今回の規模の展示にはちょうどよかったのかも知れない。
ほとんど展示物についての予備知識はなかったが、チケットが美麗な千手観音立像の写真だったことや、朝日新聞に多少紹介記事が出ていたこともあり、子どもには少々早いかもしれないとの危惧はあったのだが、果たして本当に少々妖艶過ぎる仏像が多かった。
かつてはラマ教と呼ばれ、現在はチベット密教と呼ばれることの多い仏教には、男女が抱擁する形の仏像が多いように聞いていたが、今回の展示にも「父母仏(ふもぶつ)」と呼ばれるそのような形の彫刻、絵画が何点も展示されていた。
解説によれば、このページで書かれている(ユガナッダ(YUGANADDHA)般若(知)と大悲(愛)の融合を男女の交合で表現したタントラの本尊)ようなことを具象化して象徴したものが、このような父母仏という形式なのだという。歓喜仏という言い方もあるようだ。
密教といえば、司馬遼太郎の『空海の風景』を高校生時代に読んだことがあり、その中で真言立川流を伝える「清らかな」僧侶のことが書かれていたように記憶している。その中で、理趣経について触れられており、禁欲を旨とする仏教にあって、密教のどこかしら怪しげで神秘的な様子の奥にはそのような考え方まで世俗化した思想があったのかと驚いたことがあった。また、その立川流を伝えた文観という僧侶に後醍醐天皇が帰依したということも最近知って驚いた。言ってみれば、チベット密教のこのような性的な密教の本家のような存在だったようだ。
理趣経的なこと http://www.daitouryu.net/1180876505715/
理趣経の問題点 http://www5.ocn.ne.jp/~ono13/
父母仏立像について http://junsky07.blog89.fc2.com/blog-entry-895.html
チベット展と理趣経 http://plaza.rakuten.co.jp/atsushimatsuura/diary/200908280000/
後期インド密教を受け継いだチベット仏教のエロチックな仏像については上記の通り聞き知っていたが、ポスターにも使われた父母仏という仏像とは違う2階に展示されていた巨大な父母仏立像(ヤマーンタカ父母仏立像 Standing Yuganaddha Yamantaka) では、赤裸々な交合までも表現されていたほどだった。理趣経では妙適というらしい。
だきにてん【荼枳尼天・ 枳尼天】(お稲荷さんと習合)、またらじん【摩多羅神】など、日本に伝わって日本化した神々の像も展示されていた。
奔放な想像力、創造力による極彩色で精密、きらびやかな仏像は、日本的なわびさびに通じる古仏の魅力はまったくないが、非常に官能的であり、感覚に訴えかける力が強い。シャングリラ Shangri-la とは、このチベットを指すという説があるのかどうか、青、白、赤、緑、黄 の五色が、天、風、火、水、地の五大をさすように、とても色彩に溢れた場所ではあるようで、そのような世界の屋根の強烈なコントラストがこのような仏教美術の背景にあるのかも知れないなどと思った。
会場を出ると、この展覧会に反対する「侵略された聖地チベット ポタラ宮と天空の盗まれた至宝」というキャッチフレーズの団体が静かに抗議をしており、パンフレットをもらって読んだ。
まだ1年前のことなのに、2008年4月27日 (日) 北京オリンピック聖火リレー 長野 と書いたことでさえ、既に忘却し始めていた。オリンピック聖火リレーへの反対運動は、チベットでの独立運動への弾圧がきっかけだったのだった。
この展覧会は、中華人民共和国(中華文物交流会、中国チベット文化保護発展協会、中国国家文物局、中国大使館、中国チベット自治区文物局、中国文物交流中心)が名を連ね、朝日新聞社、TBS、文化庁などが主催者、後援者として同じく名を連ねている。
また、既にこの展覧会は、福岡、札幌で開催され、東京の後は、大阪、仙台でも開催されるのだというし、さらにはその前に欧米各国を巡回してきたらしい。
チベット仏教に触れるきっかけとしては、めったにない機会ではあるが、特に、中国がさらに経済的、政治的な重みを世界に示している昨今でもあり、いろいろな意味で複雑な感慨を持たされた展覧会ではあった。
今晩のBGM
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