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2010年1月20日 (水)

世界の歴史 12 『明清と李朝の時代』(中央公論社)

岸本美緒(中国明清史)、宮島博史(朝鮮社会経済史)著。1998年初版印刷、発行。

隣国である韓国、北朝鮮及び中国の情勢に、日々耳目を驚かされており、それについてああだこうだ言いながらも、肝腎のそれらの国の歴史、特に朝鮮史については高校生の世界史の教科書程度の断片的知識しかなく、日本の近世史、近代史にとっても様々な意味でかかわりのあったこれらの国の前史を知りたいと思っていたので、先日の「大モンゴル」に続いてこの本を手に取り、ようやく読み終えた。

数年前日本でも人気を博した韓国の歴史テレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」では、李氏朝鮮の中宗(1506即位-1545)の宮廷が舞台であり、そこに登場する政治家達は両班(ヤンバン)という階層に属し、また奴婢などの階層のことも描かれていたが、朝鮮の政治史ということで、特にヤンバンについては16世紀に生きた一人のヤンバン柳希春(1513-1577)という人物の『眉岩日記』という史料を元にしてて詳しく書かれており、興味深いものだった。ちょうど文禄慶長の役(朝鮮側からいうと壬申倭乱1592、丁酉倭乱1597という)の直前の時代の人物だった。

この歴史書の中では、第10章 ヒトと社会 - 比較伝統社会論 という章があり、一般の歴史叙述ではなく、東アジアの日本、朝鮮、中国の伝統社会比較についての考察が書かれているのが興味深かった。適当な抜書きだが、このようなことが書かれている。

 中国人にとっての家の意識の根本にあるもの:男系の血筋を通じて脈々と受け継がれる生命の流れの感覚=「気」。なぜ朝鮮半島の朝鮮民族が中国(漢族)に吸収されなかったのは、この「気」の感覚を持たなかったから、すなわち、漢族になるということは「気」の感覚を持つこと。
 日本のイエの強固さを支えたものは、究極的には、天皇制だった。それぞれの家業をもって社会的分業の一翼をになうが、その頂点に位置するのが天皇家だった。日本のイエが最も強固になったのは、近代天皇制(明治から敗戦まで)においてだったのは偶然ではない。
 朝鮮のチプ(家)ははるかに流動的だった。それは天皇制のような凝集力を欠いていた。李朝を開いた李成桂も成り上がりものであり、最高権力への道は可能性として、常に存在し続けた。

また、清朝時代に、清朝がチベットからジュンガル勢力を追い出し、清朝の駐蔵大臣とチベット側の支配者(ダライ・ラマ)が協力してチベットを統治するようになったのが、現在まで続く、チベットが中国の領土だったという根拠になっているとのことも書かれていた。「清朝とチベットとの間は、たんなる支配、被支配の関係ではなかった。チベット側からいえば、清朝皇帝はチベット仏教に帰依してこれを守る仏教の擁護者であり、そのような視点からみれば、清朝のチベット支配はチベット仏教の教えが清朝まで広まったということでもあった。」とされている。そして、「チベット仏教は、少なくとも、清朝を支える勢力の一つであるモンゴルを統合する重要な鍵であった。」とされている。先の、中国政府によるチベットの天空の至宝展覧会の歴史的背景をかなり遡れば、このような背景もあるのだという。これがそのまま、現代におけるチベット併合を正当化する根拠にはならないのは当然だが。

 

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コメント

ほんとに、この年になって、歴史が興味深いですね。私も、同シリーズを手にして、ときどきひろい読みしています。面白いときは、一気に通読することもあります。隣国のお話、意外に知らないことばかりです。韓流ドラマの流行のときは、妻にずいぶん勉強させられました(^o^)/

投稿: narkejp | 2010年1月21日 (木) 20:23

narkejpさん、この世界の歴史シリーズは、編集方針が相当自由度が高いそうで、それぞれの歴史研究者の個性が相当出ていて、読み易い記述やそうでないものなど千差万別ですが、この明清と李朝は比較的読み易いほうでした。

「チャングムの誓い」は再放送で見たのですが、後から調べるとほとんどがフィクションだったそうですね。この本を読んで、それでもヨンサングンという中宗の異父兄が稀に見る暴君だったことや、政権内部での派閥抗争、いわゆる島流しなど、史実に基づいてはいたのだということが分かりました。普通はヤンバンの抗争史を漠然と読んでいても面白くはないはずなのですが、チャングムの場面場面を思い出すことで結構興味深く読み通すことができました。

投稿: 望 岳人 | 2010年1月21日 (木) 23:07

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