ベートーヴェン 交響曲第1番 第1楽章 序奏部最後の2種類の演奏の仕方
以前、クルト・ザンデルリング指揮フィルハーモニア管弦楽団のベートーヴェン交響曲全集を聴いたときに、交響曲第1番の第1楽章の序奏部(Adagio molto 八音符=88と指定)最後の32分音符4個による下降音階(ソファミレ:ハ長調読み)がゆっくりしているのに驚いて、IMSLPのスコアで確認したことがあった。
◇第1番 第1楽章序奏から主部に移行する下降音型がゆっくりなのがユニーク(と思っていたが、ブロムシュテット/SKDも同じだった。IMSLPでスコアを確認<pdfファイル>してみたら、序奏部最後のソファミレは主部のテンポではなく、序奏部のテンポで奏されるのが正しいようだった)。
先日ガーディナーの指揮によるピリオドアプローチの第1番を聴いたときはあまり意識していなかったが、改めて聞いてみるとこちらは下降音階の部分は第1楽章主部の速いテンポで演奏されていて、まったく違和感がなかったので、「ゆっくり」で演奏しているのはどれだろうと、改めて手持ちを聴き直してみた。すると、
ゆっくり派
○ブロムシュテット/SKD 〔1976年録音〕
○ザンデルリング/フィルハーモニア管 〔1981〕
のみで、
速い派
○クリュイタンス/BPO 〔1958〕(第1&2番のカップリングはLP時代から聴いている)
○セル/CLO 〔1964〕
○バーンスタイン/VPO 〔1978〕(CD時代に最初に求めたもの)
○ガーディナー/オーケストル・レヴォルショネール・エ・ロマンティク 〔1993〕
○ジンマン/チューリヒ・トーンハレ 〔1998〕
○飯守泰次郎/東京シティ・フィル 〔2000〕
となった。ジンマンは第九以外は使用している版の問題があるが、飯守は新ベーレンライター版での演奏だとはっきり謳っている。その新版楽譜を持っていないので、そこでの指定かどうかははっきりしないが、この「速い」解釈はこの中でもっとも古い1950年代末のクリュイタンスや、1960年代前半のセルも採用しており、こちらの方が私の手持ちでは多数派だったといことから、解釈の問題という可能性が強いように思う。
IMSLPに登録されている楽譜はいずれも、コピーライトに問題がないほどの旧版だろうと思うが、これを杓子定規的に解釈すると「ゆっくり派」の方が妥当だと思う。序奏部のAdagio molto 八分音符=88のゆっくりしたテンポがこの最後の32分音符4つ(8分音符一つ分)まで適用されるからだ。4分の4拍子1拍分になおすと、四分音符=44の遅さになる。
一方「速い派」として、この旧版楽譜に基づいた場合に「速く」する理由としては、提示部(Allegro con brio 2分の2拍子 2分音符=112と指定)の第6小節目に、こちらは16分音符4つでラソファミと出てきてから、何度もこの16分音符4つの下降音階が動機として活用されるのと、再現部での対応する箇所との「速度的な」整合性をとっているのかも知れないとも思う。
改めて意識してみると「速い派」が聴きなれてきたもの(いわゆる「刷り込み」)だと分かったので、自分にとっては「速い」方が自然なのだが、「ゆっくり」の方も下降音階が印象に刻み付けられるという意味では捨てがたいように感じた。ただ、実践(演奏)する人(指揮者)としては、どちらかを選択しなくてはならないのだから、大変なものだと思う。
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