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2010年3月15日 (月)

ベートーヴェン 交響曲第9番 第4楽章 Alla Marcia のテンポ

前日に引き続き、ベートーヴェンの交響曲のテンポについて気が付いたことを自分なりにまとめてみた。

今度は第9交響曲。

第4楽章 独唱と合唱が歓喜のテーマを歌い "vor Gott" をフェルマータで伸ばした後、Alla Marcia(マーチ風に) Allegro assai vivace (かなり快活に、生き生きと) 8分の6拍子のリズムの「Froh, wie seine Sonnen fliegen, 走れ、恒星が飛ぶように」のテノールソロに率いられるマーチの部分になる。

8分の6拍子は、八分音符3つを1拍に数える2拍子のリズム。つまり、1拍の音価(半小節)は付点4分音符。2拍分(1小節分)は付点2分音符となる。

ベートーヴェンは、発明されたばかりのメトロノームで84という値(分速)を楽譜に書き入れたが、これが付点4分音符に付けられた(これが従来の出版符 〔IMSLPへのリンク〕の解釈)のか、それともその倍速(*)の付点2分音符に付けられたものか、それこそ200年もの間ずっと問題になってきたという。

これによって、マーチとそれに続くフーガの部分及び歓喜の合唱の再現のテンポが決まるからで、楽譜に忠実に演奏すると、この箇所では一貫してAllegro assai vivaceが適用され、テンポの変化は楽譜上はないことになっているはずなのだ。 

Beethoven_s9_4mvt_alla_marcia

 

参考にピアノ編曲もIMSLPには登録されているので、あたってみた。

For Piano 4 hands (Meves)                  付点四分音符=84
For Piano solo (Liszt ブライトコプフ版)  同上
For 2 Pianos (Liszt ショット版)             メトロノーム表示なし 
For 2 Pianos (Singer)                         付点四分音符=84

(*)1拍分が1分間に84回よりも、2拍分が1分間に84回の方が倍のスピードになる。後者だと1拍分の回数は1分間に168回になる。

しかし、これまでの多くの伝統的な演奏のテンポは Allegro assai vivace という指定を無視するかのように大変遅いマーチが演奏されていた。

これについては、ベーレンライター社の新版の出版前にこの研究に協力したとされるガーディナーが1990年代の彼のベートーヴェンの交響曲全集録音について話したインタビューを掲載しているサイトがあり、それによるとガーディナーは「2拍分が84」という従来の「1拍分が84」より倍速の説が妥当としている。

実際に彼の指揮した演奏をCDを聴くことができる(1992年録音)

テンポをiBPMカウンターで実測してみた。マウスのクリックで測るので、結構誤差があるようだが、傾向はつかめる(付記)。

ガーディナーの録音を聴くと、マーチの(従来よりも)速いキビキビしたテンポ(付点四分音符=約140)が、その後に続くフーガでも維持され(約138)、クライマックスの全体合唱による歓喜のテーマの再現もそのまま生き生きとした活発なテンポ(約140)が保たれ、もたれることのないスッキリした演奏になっている。(付記:iBPMでマニュアル測定した結果では、付点四分音符=168という楽譜上正しいはずのテンポの8割りほどのスピードになっていた。)
  マーチ140、フーガ138、合唱140

これまでこの点を意識せずに漫然と聴いていた頃にはやけに淡白な第九だと文句を付けたことがあった。それは、実際に第九のコーラスに参加して伝統的なテンポの変化の激しい演奏スタイルに馴れてきたものにとって、少々理性的過ぎるようにも聞こえたことによる違和感だったのだろう、と今となっては思い当たる。(いまだに違和感はあるのだが、理性の方が、このアプローチに納得を始めているので、違和感は薄まってきている。)

○一方、1992年に録音されたピリオドアプローチ派のブリュッヘン指揮18世紀オーケストラは、伝統的なテンポ(付点四分音符=120。ちょうど普通のマーチのスピード)。そしてこのマーチの最後に特にテンポを上げろという指定はないのだが、フーガへ近づくにつれてテンポをあげる(フーガは約130)という従来通りの解釈を採用している。ただ、これが効果的でもある。合唱は125程度。
  マーチ120、フーガ130、合唱125

なお、私の手持ちで、ベーレンライターの新版に基づくとされるのが、 ジンマンの1998年録音と飯守の2001年録音。

ジンマンは、ガーディナー同様、かなり速いテンポを設定している。
   マーチ132、フーガ138、合唱134

飯守の方は、従来より比較的速いが、これも倍速まではいっていない。
   マーチは意外に速く140、フーガも140、合唱も134で、意外にも聴感より速かった。

○また、ラトル/VPOの録音は2002年で、ベーレンライター新版に準拠しているはずだが、Alla Marcia以下は、伝統的な対応。
  マーチ120、フーガ136、合唱134

○面白いのが、ピリオドアプローチ派の初期に活躍したホグウッドの指揮による演奏。本当に停まりそうなくらい遅いテンポでマーチを演奏している。1拍=60位だろうか? 1拍(付点4分音符)=92程度だった。84よりも速いのだが、聴感上、これでは遅すぎるのだ。いかに付点4分音符=84が遅いかがこれでよく分かる。続くフーガの部分もこのテンポ(M.M.=98)で押し通し、その後に続くこの楽章のクライマックスの一つである全体合唱での「歓喜のテーマ」も同じ遅いテンポ(M.M.=98)で一貫しているので、さらにユニークさが際立っている。
   マーチ92、フーガ98、合唱98

○伝統的な演奏では、トスカニーニ/NBC響(1952年)はどうかと思ったが、iTunesになぜか取り込めないでいるので、CDプレーヤーで聴いてみた。演奏自体は引き締まった速めのテンポ設定で、音楽に前進するダイナミックな力感が溢れていて、改めて大変感心した。ただ、Alla Marciaは、遅すぎはしないが普通の行進曲の歩行の速さの(Allegro assai vivaceではない)テンポが取られていた。マーチからフーガへの切り替えでは、アッチェレランドせずに、フーガに入るとテンポが突然上がるように演奏されていたのがユニークだった。
  マーチ121-129、フーガ136-145、合唱137-141

メンゲルベルク/ACO (1940年録音)
 マーチ121-126、フーガ132-140、合唱136-140。 

フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管 (1951年録音)
 マーチ130-134、フーガ140-144、合唱131-138。 

ワルター/コロンビア響(1959年)
 マーチ107-114、フーガ118-125、合唱110-115

シュミット=イッセルシュテット/VPO (1965)
    マーチ120、フーガ126、合唱111。 

参考サイト:横浜フィルホルン奏者の方の「田園」の記事が面白かった。

追記:リッピング、音楽管理ソフトの iTunes にある Beats Per Minute (BPM) 一分間あたりの拍 という項目がある。この機能へのアドオンソフトが出ていて、実際に計測してみた。(iBPMカウンター フリーソフト

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