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2012年5月 6日 (日)

スクロールと絵巻物 ボストン美術館 里帰り展(東京国立博物館)

5月5日の子供の日は、梅雨時末期のような大雨一過の「皐月晴れ」(衒学的には違うけど)となった。

せっかくの好天ながら、孤独のグルメ+美術館めぐりという最近の恒例のようになった家族小旅行で、5月4日に蒲田餃子+東京国立博物館に行き、その疲れで、体を労わる日となった(要するにグダグダしていただけ)。

R0011581 5月5日の夜の月は、スーパームーンと言われるらしく、月が地球を公転している軌道の中で近地球点(というのだろうか?最も地球に近づいた時)にあたり、普通の満月よりも相当明るいのだというが、確かに明るい月だった。その分引力(潮汐力)も相当強くなるようで、昨年の大震災の前にもこのスーパームーン現象があり、その関連性が取りざたされたことがあった。


さて、パソコン等では、スクロールする (scroll)という言葉が日常用語になっている。

Bostonmuseumfineart_ticket_2 この scroll という英単語だが、5月4日(金)のみどりの日に、東京国立博物館(東博)で開催中のボストン美術館展を見に行ったついでに、東博本館で展示中ということを聞いていた国宝平治物語絵巻「六波羅行幸」の方を先に見たのだが、その際の英語の説明に Scroll と書かれていて、ユーレーカ!となったのだった。何かが分かった-知っていること同士が結合した-ときの知的興奮というものは、まことにいいものだ。

辞書によると Scroll は、 Roll と同じ語源で、巻いたものという意味があるようだ。それでコンピュータのスクロールも、ちょうど巻物を見るように上下、左右に「巻きながら」見るという動作から来ているらしい。

今月は、これまで見たことのないようなScroll の傑作、名品を連続してみる機会に恵まれた。

一つは、つい先日の4月29日に鑑賞したサントリー美術館の毛利家の至宝に含まれていた雪舟の「四季山水図」

次に、今回見ることができた東京国立博物館の本館で展示されていた「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」。

そして、今回ボストン美術館から里帰りした「吉備大臣入唐絵巻全巻」と「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」。

久々に訪れた東博でもあり(前回は国宝阿修羅展)、平成館の特別展は相当混雑しているとのことだったので、まずは本館をじっくりみることにした。(東洋館は残念ながら工事中とかで閉鎖中。耐震工事などだろうか?)。なお、現在、世田谷の静嘉堂文庫美術館(三菱の岩崎家の宝物館)でも所蔵の平治物語絵巻が公開されているとのこと。

信西(高階通憲)・平清盛と藤原信頼・源義朝が争った平治の乱を描いた合戦絵巻の傑作、「平治物語絵巻」の現存する3巻が、この春、東京で揃って展示されます。またとない貴重な機会ですので、ぜひ3巻あわせてご覧ください。
・当館所蔵の「信西巻」(上図はその部分)は、本展前期にて展示(4/14~5/20。但し巻き替え  を行ないます)
・ボストン美術館所蔵の「三条殿夜討巻」は、東京国立博物館での特別展「ボストン美術館  日本美術の至宝」にて展示(3/20~6/10)
・東京国立博物館所蔵の「六波羅行幸巻」は、同館の本館2室・国宝室にて展示(4/17~5/27)

R0011597_3 本館2階は、日本美術史の流れをテーマに、長岡市出土の火焔型の縄文土器が出迎えてくれ、その後に、この5月27日まで展示されている平治物語絵巻 六波羅行幸を見ることができる。

先日見る機会を得た雪舟の大作の巻物に比べて、こちらは絵巻物であり、また著名な歴史的事件を題材にしていることもあって、分かりやすい。現代、爛熟を極めている日本の漫画、アニメーションのはるかな源流として、鳥獣戯画がよく挙げられるが、劇画としての源流には、これら戦記物の絵巻が源流になるのではなかろうかと思われるほど、緻密、精細であり、牛馬の躍動感、人物たちの多彩な容貌と表情、ポーズ、武者たちの鎧兜の縅の色の鮮やかさ、細やかさなど、まったくもって素晴らしいものだった。芸術的な感激とは異なるだろうが、絵巻物(Scroll)がこれほどのものとは、やはり実物を見ることで体感できる類のものだろうと思う。

H24_national_treasures その他さまざまな展示のある二階をぐるっと見て回った後には、平成24年に国宝・重文に指定された日本各地の重要な美術品が集められて展示されている特別室があり、その中にはなんと先日「電脳郊外散歩道」ブログの記事にコメントさせてもらった山形県の縄文時代の土偶の女神像の実物も展示されていた。写真でもその造形と欠損がほとんどない保存の素晴らしさは感じられていたのだが、実物の迫力は圧倒的だった。

ただ、この舟形町西ノ前遺跡出土の土偶も「縄文のビーナス」と称されることが多いようだが、長野県の茅野市棚畑遺跡出土で先に国宝に指定されていて「縄文のビーナス」と呼ばれていた土偶(これも現地の尖石遺跡での展示を見に行ったことがある)との混同が生じそうなので、呼び分けが必要ではあるまいか? 

この部屋は全面的に撮影禁止(基本的に東博所有のものは撮影禁止ではないが、個人所有、他館からの貸し出しなどで、所有者の了解の取れていないものは原則禁止のようだ)となっていた。新しく指定されたとは言え、他にも一階の特別室にも素晴らしい仏教彫刻等が多く、どうしてこれがこれまで指定されていなかったのだろうと思うようなものもあった。特に地元神奈川県のものが今回数点新たに重文指定されていたのは新聞記事で読んではいたが、実物が見られるとは思っていなかったので、不意打ち的で興味深かった。中でも、鎌倉の建長寺の開祖である蘭渓道隆の肖像彫刻は非常に見事なものだった。

本館でじっくり見学していたらあっという間に16時半になっており、17時で特別展の終了時間ということでうっかり見逃すことになりかねないと慌てて平成館の方に移動したところ、この日は金曜日で、なんと夜の20時まで観覧できるというアナウンスが流れていてほっとした(どうもスマートな鑑賞にはならない)。
Bostonmuseumfineart_face_3

通常の順路は第一展示室の方からで、こちらに絵巻物が展示されているのだが、まだ相当混雑しているようで、係の女性も大変込んでおりますとアナウンスしていたので、先に第二展示室から見ることにした。
Bostonmuseumfineart_back

このパンフレットにあるように、垂涎の名品が里帰りしており、目玉の絵巻物以外にも見ものは多く、この展覧会前には知らなかった曽我蕭白の作品が数多く展示されており、とても奇異な日本画だと最初は違和感を覚えたが、再度見直してみると非常に面白く感じた。

18時ごろに第一展示室に戻ると、混雑も相当緩和されていて、結構悠々と鑑賞できたが、さすがに絵巻物の展示では数珠つなぎ状態での見物を余儀なくされた。しかしむしろ牛歩のようなそのスピードが鑑賞には適しており、伴大納言絵巻と並び称される吉備真備の遣唐使行を題材とした奇想天外な超人伝奇譚的な絵巻には、劇画というよりもユーモラスな余裕が感じられ、大変面白かった。周囲の鑑賞者の人たちも楽しんでいるのが分かる感じだった。

平治物語絵巻は、藤原信頼と源義朝による後白河院の御殿の襲撃と拉致の様子を描いた部分であり、ちょうど放送中の大河ドラマ「平清盛」では、清盛が絶対的な権力を掌握する要となる事件でもありこれからの放送が待たれる場面なのだが、よく教科書にも載せられる地獄の業火のような火焔のすさまじさの場面や、戦の凄絶、残酷な場面なども、人物に動きは感じられないものの、やはり精緻、詳細に描かれており、その技術や構成力のすごさを思い知らされるものだった。保存状態も驚くほどよかった。

なお、地味ながら非常に貴重な仏教画としては、東大寺の法華堂(あの有名な日光月光菩薩像の安置されている三月堂)の曼荼羅図という8世紀制作のものも展示されていたのには驚いた。東大寺のような大寺院にも廃仏毀釈が及んでいたのだろうか。

先に読み終えた『夜明け前』第二部は、廃仏毀釈を行った側について多く触れられていたのだが、その裏面では、フェノロサ、ビゲロー、岡倉天心らの努力により、このような貴重な傑作が残されたということも忘れてはならないだろうと思った。これは大英博物館的な文化財略奪とは異なるものではあるだろう。

考古館の展示も久々に見て、本館に戻り外に出ると雨は上がっており、5月5日のスーパームーン前夜の月が皓皓と白く光っていた。

(20時閉館前の東博正面)

R0011652

追記:5月6日  NHKのEテレの日曜美術館が、今回のボストン美術館展を特集したのを見た。実際に見たり、見逃してしまったものを放送で見るというのも面白いものだった。なお、岡倉天心について触れないのは不思議だった。

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コメント

西の前土偶の本物をご覧いただいたようですね。先年の大英博物館での土偶展でも、人気抜群だったそうですし、実物を見ると、縄文中期の土偶のモダンさにびっくりしますね。当方の記事をご紹介いただき、ありがとうございます。

投稿: narkejp | 2012年5月 6日 (日) 20:56

先日narkejpさんの記事にコメントさせてもらった土偶にまさか遭遇するとは思ってもいませんでしたので、驚きました。

平成館に展示されている古墳時代の埴輪の巨大さに比べると、土偶は全体的に非常に小型ですが、その中では西ノ前遺跡の土偶は高さ45cmと圧倒的な高さですね。さすがに最大の土偶と言われるだけはあります。縄文土器には高さ1mにもなるような巨大なものもありますが、土偶の大型化は難しかったのでしょうか。

前後左右から矯めつ眇めつ鑑賞できましたが、他の東博の土偶の傑作と比べても、ものすごくユニークで、現代から見ても未来的なデザインであるかのようにも見えました。新聞やネットの写真で見ていたときは頭部の帽子のように見える部分の庇の下あたりに目鼻口が小さく刻まれているのだろうと思っていたのですが、その頭部と思われる部分には全くそれらが刻まれていないようで、解説もそのように書かれていました。とても不思議な感じでした。その庇のあたりには細紐でも通すかのような小さな穴が開けられていたのが、印象的でした。

参考: http://www.bell.jp/pancho/k_diary-3/2010_0114.htm

投稿: 望 岳人(Mochi Takehito) | 2012年5月 6日 (日) 21:48

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