風邪で寝ていると
37度以上の熱が数日下がらず月曜日から水曜日まで病欠した。身体はだるく頭もボーッとしていた。ただ、寝ているだけでは暇なので内容の易しい本を読んだ。
子ども向けの「西遊記」「長靴下のピッピ」「くまの子ウーフ」などを読み返したり、ダニエル・キースの「アルジャーノンに花束を」(長編版)、同「心の鏡」(中篇版のアルジャーノンを収録している)を読んだり。
司馬遼太郎の「アメリカ散歩」も面白かった。これは、読売新聞からの提案でアメリカのカリフォルニアと東部諸州を訪れたときの新聞連載エッセーをまとめたものだが、普通なら当然、街道をゆくシーリズに含められるべきものだったろう。「街道をゆく」の歴史的な視点とは異なるものの、ファンには外せないものだ。ただ、この本で不満だったのは、黒人については章を割いているのにも関わらず、ほとんどネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)に触れることがないことだ。普通にアメリカを旅して、インディアンに触れることはないのだろうが、ピルグリム・ファーザーズたちに触れたときに、当然現地住民であったモンゴロイドの血縁のネイティブ・アメリカンに触れてもよかったのではないのだろうか?新大陸の開拓は、確かに旧世界にとっては、大きな風穴だったのかも知れないが、北米ならずとも中南米でも、多くのネイティブな人々が虐殺され、その文化・文明が滅ぼされたのだから。司馬遼太郎の史観は、簡単には彼一流の独特な英雄史観だと評され、いわゆる民衆や敗者の側の視点が欠けているということが、かつて、マルキシズムの側からはよく言われたと記憶しているが、そのようなイデオロギー的な視点を外してみても、このインディアン問題は後のアメリカによる他民族の蹂躙、大量虐殺(太平洋戦争での原爆、諸都市への無差別空爆、ベトナム戦争など)とは切り離せないものだと思うので、その点が残念だった。なお、エスキモーの人々とは会って話をしたいようなことを書いていた。
泣ける本も読んだ。コロボックルシリーズで有名な童話作家 佐藤さとるが 4部作の発表の後、シリーズの結末をつけるために書いた 「ちいさな国のつづきの話」だ。小学生時代に両親からプレゼントでもらった「誰も知らない小さな国」でこの不思議な世界に触れ、あれこれ空想するもとになったものだが、つい数年前、ふとこの最終話が発売されていることを知り、既にペーパーバックでしか入手できなかったが、買って読んだものだ。買った時には、あっさりしていて締めくくりの話としては寂しいと思ったのだが、今回病床(というほど大げさではないが)で読み返してみると、ところどころでなぜか涙が出て仕方がなかった。いったいこのファンタジーの最終編のどこがこの中年のデブのおっさんの琴線に触れたのか。年齢的にははるか昔に過ぎ去った自分の少年時代への愛惜感を、回想的な作りのこの物語が上手く引き出したのかも知れない。
「赤毛のアン」でも涙が出た。マシュー・カスバートが急死し、アンがその葬儀の日の真夜中になり急に悲しみが込み上げ号泣するところ。新潮文庫の村岡花子訳が通常入手できる訳本だが、作家の松本侑子が、かつて、「赤毛のアン」の翻訳を依頼された際、そこに隠された多くの英米文学の引用に気が付き、細かい注釈を施して、花岡訳が省略した部分(いったいどこだろう)も省かずに新訳したもので、数年前、文庫本で入手した。今回注釈をいちいち読みながら読み返してみた。マシューの特徴的な「そうさな」という宮崎アニメでも使われた名口調は、花岡訳へのオマージュだろうか、そのまま踏襲されていた。20代の頃、アニメに再刺激され、シリーズを読み、この本の英語のペーパーバックを買い、英語の勉強のために翻訳してみようと思ったことがあったが、文章や単語からみてもとうていこちらの低い英語力では歯がたたなかったのを覚えている。今回の松本訳の解説にあるように、これは日本では児童文学に分類されているが、本国カナダや英語国では大人向けに書かれたものなのだという。(内容的には、この小説の前半部の勢いと密度に比べて、後半部は感慨深いとはいえ少々大雑把でそれこそ散文的になっているように思うが)。松本訳は結構読みやすいが、特徴である注釈があまり親切ではなく、一箇所など注釈番号が重複していて注釈本文がないものがあった。原文にあたっていないものとしては、本文の訳文と引用元の訳文を指して、この部分が、引用だと言われても、双方の訳文が異なるので、本当?こじつけではないのか?と疑問を呈したくなることもままあった。また、この部分こそ注釈、解説がほしいという部分に、それらが欠けていることもあった。正統的な研究書ではないので欲を言えば切りがないが、版を重ねるにつれてさらに改善されることを望みたい。
本文では、ホワイトサンズのホテルでのアンの朗読の場面の前後で、隣席の白いドレスの少女だとか金持ちの婦人だとかのエピソードがどうもつじつまがあっていないのではないかと以前から感じていたのだが、松本訳でもその疑問は解消されなかった。
スコットランドからの新大陸移民の2世、3世の物語である。信仰ではスコットランドの長老派教会、政治的にはイギリスのビクトリア女王(1837-1901在位)を君主に戴くコモンウェルスの一員。フランス系移民は、イギリス系よりも劣った存在として軽蔑の対象となっている。町では電気が通じ、鉄道も田舎まで開通している。美しい自然と豊かな農業。勉学の才能。料理、菓子作り。松本侑子ホームページから読書好きの男性のページを見つけた。同じ読書でもここまで網羅的にまとめられるのはすごい。コメントも気取っていないし率直だ。
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