世界の指揮者 世界のピアニストなど
昨日 愛読書のコーナーに 吉田秀和全集を2冊追加したが、自分では残念ながら所有していない。まだまだ続いてほしい全集だが、残念ながら最近完結してしまった大部の全集をそろえるのが夢の一つではある。
新潮文庫で出版されていた「世界の指揮者」「世界のピアニスト」「私の好きな曲」「LP300選」を座右に置かせてもらって折りに触れて読み返している。年代的には1970年代頃までに書かれたものなので、一般的には内容が古いものと思われるかも知れないが、昨日アップしたこともあり、グールド、グルダの項など読み返してみると、改めて自分の聴き方の浅さ、文章力のなさを思い知らされる内容で、吉田秀和のすごさを痛感するとともに、少々自己卑小感に陥った。どれかの巻末の解説に書かれていた立花隆が脱帽したという感想と僭越ながら通じる。
遠慮会釈ないネットの世界では、印象批評的な吉田秀和の評論は古いとか何とか貶す落書きめいた書き込みも目にするが、それではそれを越えた音楽批評を現代日本では誰が展開できているのか。全く名前があがらない。
宇野功芳が音楽評論家として「活躍」しているが、最近の彼の場合は本格的な評論というべきではなく、それこそディレッタント的な感想文レベルに留まっている。(最近復刻されたらしいが、以前の「モーツァルトとブルックナー」あたりはそれなりの水準だったが)現在の彼は、一部のマスメディアやネットに踊らされたトリックスターのようだ。早くから朝比奈隆のブルックナー演奏を評価し、それがいわゆる「クラヲタ」と称されるクラシック音楽マニアにより朝比奈人気が絶頂に達した時期があり、預言者として宇野が評価されたこともあるのだろう。現代日本ではすっかり価値の低められた「カリスマ」という敬称を奉られているが、それも宜なるかなというところだろう。
しかし、彼の、同じ演奏家をあるメディアでは誉めそやし、別の時あるメディアでは貶すというような評論は全く勝手きままな素人でも行なわないようなものだ。特に彼の場合、ライナーノート執筆を頼まれた場合には、それが以前彼がコテンパンにやっつけていた演奏家でも、掌を返したように誉めそやすことがままある。その無節操さは、いわゆる生活のためなのだろうが、生活のために評価をまげてはいけないのではないのではないか? その意味で、評論などというものは、アテネの貴族制やイギリスの世襲貴族のような働かなくても十分な生活が可能な者で、その芸術に対して献身的な情熱を有するものにしか為し得ないものなのかも知れない。
そのようなことも背景にあってか、クラシック音楽評論を俎上に載せた鈴木淳の新書(題名は忘却)にあるように、現代のクラシック音楽評論は、冬枯れ的な状況的になっている。いわゆるディレッタント出の評論で自費出版までもして読ませるものはあるし、音楽学の蓄積により音楽学者がこの国にも増えており、そのような専門家的な評論は読むことができるようになっていはいるが。またネットによる情報発信が容易になり、私もその一員だが素人感想は花盛りではある。
「原智恵子 伝説のピアニスト 」(ベスト新書 石川 康子著)については、ネットで読後感を書いたことがあるのだが、この中で、原サイドから日本の著名評論家による原への妨害への告発が描かれており、いわゆるご贔屓的な当時の日本の音楽評論がどのようなものか知るよすがになる。
なお、日本の西洋音楽評論の曙として、先日 松岡正剛の千夜千冊で見たのだと思うが、夏目漱石が音楽評論を書いたことがあるという関連で、当時「海潮音」で知られる上田敏が音楽評論家としても一流で、東京音楽学校の予科に在籍したこともある島崎藤村も音楽評論に筆を染めようとしたが、その学識に裏付けられた深い評論の前に諦めたというようなことがかかれていた。
音楽という感情に訴える現象について感想を述べるのは幼児にもできることだが、それを「評論」まで高めるのは
至難の業というべきだろう。
(敬称略)
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吉田秀和さんのこと懐かしい思いで拝読しました。
私が子供のころ、日曜朝のNHKラジオ『音楽の泉』は数少ないクラシックを聴ける番組で、シューベルトの『楽興の時』で始まり、吉田氏が論評を交えながら曲を聞かせるというスタイルでした。氏のしわがれた声での飄々とした解説が懐かしいです。
『中年会社員の観察日記』作者
投稿: sakaiy22 | 2005年2月 8日 (火) 16:46
コメントありがとうございます。
私は、毎日曜日のNHKFMの「モーツァルトの音楽と生涯」(題名は正確ではないですが)が吉田秀和さんを知ったきっかけでした。レコ芸を読み始めた中学生の頃は、月評などを担当されていなかったので、吉田さんより月評子の評論家の方が偉いのかななどと思っていただこともありました。
先年奥様を亡くされ、朝日新聞の「音楽展望」の休載のお知らせを書かれて以来、健筆に接することができないでいます。カルロス・クライバーの逝去に際して書きたいこともあるように書かれていたので、また闊達な時評を読みたいと念願しています。
投稿: 望 岳人 | 2005年2月 8日 (火) 18:41