腰痛の日の読書
昨日3/8(火)は腰痛がひどく出勤できなかった。そこで布団にあお向けになって、以前購入した本を読み、音楽を聴いて過ごした。腰痛の原因は肥満と運動不足による筋力の衰えだということが分かっているのだが、なかなか減量できない。
「ウィーン・フィル 音と響きの秘密」(中野雄 著)文春新書
「帝王から音楽マフィアまで」(石井宏 著)学研M文庫
前者は、政治学者の故・丸山真男のクラシック音楽への傾倒について「丸山真男 音楽の対話」(文春新書) を書いた人。東大法学部出の元銀行マンで、ケンウッドというオーディオメーカーの取締役を退任後後、音楽プロデューサーとしてヴィーンフィルメンバー来日時の録音なども担当したらしい。なぜか家族全員がACOのコンセルトヘボウにフリーパスでモントゥーとも知り合いだったとか、信じられないようなことが書かれている不思議な経歴の持ち主でもある。著書は上記二冊のほか、宇野功芳氏らとの3人評論家体制の「クラシックCDの名盤 宇野功芳 中野雄 福島章恭 文春新書」「クラシックCDの名盤 演奏家篇 同上 文春新書」がある。丸山氏に関する本は、稀代の政治思想史学者についての知られざる一面に光を当てたという点では評価できるが、全体に最も貴重だと思われる丸山語録や丸山蔵書、音盤などに詳しく触れることがなく、まとめ方が甘いように思った。ウィーンフィルについての著作も章立てに論理性があまり感じられない。 ヴィーンフィルの奏者に個人的な知己があり、そこからの談話の紹介が面白い。基本的に性善説である。
一方、後者はクラシック音楽界の裏面をえぐったもので、それなりの信憑性があるらしいことは、他の類似の本「巨匠伝説」など推定されるものだ。ただ、性悪説、人間不信的な立場から書かれているようで、この著者は多分音楽業界の関係者から相当心情的に傷つけられたことがあったのだろうと想像される。苦さや汚さが表面に出て、音楽への愛が感じられない。著者の名前は、モーツァルティアンとしてつとに知っており、この文庫本には、その片鱗を覗かせる章もあるのだが、全体的にはあまり証拠を挙げない決め付け的な論調が目立っており、愉快ではない。外来オーケストラが、日本公演で手抜き演奏をするという噂についても、憶測的な書き方でしかない。中野氏側からは、これに対して書かれているかのような擁護的な記事も見えて興味深い。現在でも「新潮45」あたりで匿名のスキャンダル記事を書いている評論家がいる。
石井氏の言うとおり、ヴィーンやヨーロッパという地名にあこがれる日本人を舐めて荒稼ぎする音楽家もいるし、そうでない音楽家もいる。そんなことは、世界中どこでも行なわれていることだろう。一律に白黒で二分するような話ではない。骨董の真贋を判定するのは自分が汗水たらして稼いだ金を使わなければ会得できないというようだが、音楽だって同じことだろう。
少々飛躍するが、同じ石井氏のエッセーだったかなんだったか、「日本人の聴衆がメロディーには強いが和声には弱い例として、来日したあるリートの伴奏ピアニストがわざと音を抜いたりして和声を変えて演奏したことがあったが、誰も気付かなかったと語っていた」というのを読みショックを受けたことがある。
吉田秀和氏のエッセーだったか、「西洋の耳、日本の耳」というようなタイトルで、日本人の耳が、虫の音を言語的に聞き、騒音としては聞かないが、西洋人は逆だという非常に面白い実験結果を紹介していたが、西洋人と日本人では、なぜそのような脳の使い方の差が生じているのかは分からないが、西洋音楽の聴き方が違うということはありえるだろう(他のアジア諸国はどうなのだろう)。それが、中野氏の本で触れている「合奏になるとヨーロッパのオケは日本やアメリカのオケに比べて非常に美しい音を出す」というエピソードに通じるような気がする。以前東芝オーレックスコンサートが、ヨーロッパの超一流ではないが、一流の楽団を呼び、比較的安価でコンサートを開いていたが、その一環で来日したヤノフスキ率いるフランス国立放送管弦楽団のコンサートで、フォーレの「ペレアスとメリザンド」の最初の音が、もうたまらなく美しいふわっとした音で、非常に印象に残っている。小澤征爾は優れた音楽家だが、その演奏に満足できなくなっている要因の一つとして、彼の音楽が立体的でないことが挙げられるかもしれない。小澤の唸りは有名だが、それは彼がメロディーを重視していることに通じると思う。和声の柱の動きではなく、線の重なりと結果としての和声の動きなのだろう。
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