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2005年5月25日 (水)

映画「ドン・ジョヴァンニ」(監督 ロージー、指揮 マゼール)のDVD

dongiovanniドリームワークスという会社から特価発売されているものを購入。税込み2,940円と安かった。(最新版のカタログからは落ちているようだが、通常価格は1万円ほどだったらしい) (画像は左がDVD、右がCD)

この映画は、スタジオ録音されたマゼール指揮のパリオペラ座管弦楽団とライモンディ(ドン・ジョヴァンニ)、ファン・ダム(レポレロ)、モーザー(ドンナ・アンナ)、テ・カナワ(ドンナ・エルヴィーラ)、ベルガンサ(ツェルリーナ)という豪華な歌手陣の歌唱に合わせて、歌手たち自身が17世紀、18世紀風の扮装をして恐らくイタリアと思われるロケ地で演技するというスタイルで撮影された劇場用の映画。音楽と映画の歌手たちの演技での口パクはよく合っていた。

この音楽の部分はCDでも発売されており、私がCDプレーヤーを初めて入手した1985年頃に購入して、初「ドン・ジョヴァンニ」として、いろいろ不満を覚えながらよく聞いた。CDには、通常添付されているはずのリブレットが当時のCBSソニーのおかしな企画(このオペラシリーズを数巻購入した人に豪華対訳本をプレゼント)のために初めから付属していなかったので、やむを得ず音楽之友社のオペラ対訳「ドン・ジョヴァンニ」を購入した。リブレットの対訳以外の「ドキュメント」と称する資料的な部分(E.T.A.ホフマン、キェルケゴールなど)やアッティラ・チャンパイによるディスコグラフィーのコメントが面白かったのでお買い得だったが。

さて、DVDをセットしてイントロダクションの映像が始まると、どうも普通のDVDソフトより滲みやチラツキ、ノイズが気になる。また字幕切り替えボタンを押しても反応がない。これはしたりと思っているうちに、序曲が始まる。この序曲演奏と歌手陣特にテ・カナワはチャンパイが特に評価していたもの。なお、指揮者、オーケストラは画面にはまったく姿をあらわさず(ちょうどベーム指揮、ポネル演出のフィガロと同じ)。序曲に映画の効果音が重なり耳障り。しばらくして歌手登場。なんと字幕は、DVDのデータではなくオリジナルの映画画面に日本での上映用に字幕としてプリントされたものだ。白抜きの手書きの日本語なので、背景が白いと読みにくいのは少々つらい。どうやらこの映画は、マスターデータをデジタルリマスターでDVD化したのではなく、アナログデータ?から、DVDにコピーされたようなものらしい。なんだか海賊版的で少々画質や音質が低く残念。上記の書籍によるとこの映画版も当時、ソニーからLD,VHD,VHS,ベータの各メディアで発売されていたようだが、その音質、画質などはこれよりましではなかったのだろうか?

5/24夜は、ドン・ジョヴァンニとツェルリーナのデュエットのあたりまで見たところだが、CDで聞くよりも、歌唱に比較してオーケストラのパートもバランスが強めにしっかり入っており、上記の本でチャンパイがマゼール盤について指摘していた「オケがBGMになっている」というような欠点は少々補正されているのではないかと思った。ただ、このDVDの音質はCDよりも大きく落ちる。CDは、ディレクターなどの趣味なのか、歌唱がクローズアップされて大きく、オケは伴奏的に収録されているためか、広がりが感じられない音響になっていた。そのため、密室での演奏を聞いているようで、息苦しさを覚えることがあった。それが、このDVDでは前述のような音響的な違いに加えて、ロケーション撮影が多いため、風通しがよいように感じる。

モーザーのドンナ・アンナは、CDではただヒステリックなキンキンした高音域が気になったが、演技と一緒に見聞きするとあまり違和感を覚えない。ドンナ・エルヴィーラのテ・カナワは、ベームのフィガロで演じた伯爵夫人を彷彿とさせる気品のあるその容姿のおかげで、ニュージーランンド風の発音の癖と低い音域の苦しさもあまり気にならなかった。ベルガンサのツェルリーナは、さすがに容姿としては若々しい村娘とは言えないが、歌唱はさすがだ。続きを見るのが楽しみになる。

さて、この「ドン・ジョヴァンニ」という作品は、モーツァルトの最高傑作とする専門家も多い。モーツァルト自身、わざわざDrama giocoso (滑稽劇と訳されることが多い)と呼んだ作品だ。Giocosoとは〔楽〕ジョコーソ,楽しい[楽しく],陽気な[に]ということで、直訳調では「陽気なドラマ」となる。これがいわゆるopear buffa (喜歌劇) や opera seria (正歌劇) と異なるのは、異様な短調と半音階の序奏部を持つ序曲(K.466ニ短調のピアノ協奏曲のエコーだろう)、冒頭のドンナ・アンナの父(騎士長)と主人公ドン・ジョヴァンニの争闘(決闘ではない)と騎士長の死、ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオによる復讐の誓い、騎士長の亡霊の登場、そしてフィナーレ直前のドン・ジョヴァンニの地獄落ちなど陰鬱で不道徳な設定が多いため、決してハッピーエンドの喜劇とは言えず、また勧善懲悪的でもあることから悲劇とも言えない点にあるのではなかろうか? 

陽と陰が複雑に交錯する。レポレロの活躍など滑稽な部分もあるが、決して「滑稽劇」とは言えない。登場人物の性格設定も複雑で把握しがたい不安定な傾向が強い。それに地獄落ちの後に表れる、18世紀の枠組み劇的な無理やりのハッピーエンド風な音楽で終結する違和感(19世紀にはフィナーレはカットされたという)。弦楽五重奏曲ト短調のフィナーレやピアノによるニ短調のファンタジーが唐突に長調の「陳腐」なフィナーレで終結するのとパラレルな関係性があるように思われる。(ところで、ドラマ・ジョコーゾはモーツァルトのこの歌劇以外にも使用されている分類用語なのだろうか?)

「ドン・ジョヴァンニ」は「フィガロの結婚」を聞くときのように単純に主人公フィガロに感情移入しながら鑑賞するわけにも行かず、めまぐるしく混乱を招くような多様な様式の音楽と感情の変化についていくのが大変で、気楽な鑑賞はできない。そのため、この作品は自分にとって難解な作品のままの状態が長く続いている。

ベートーヴェンは、その潔癖な倫理感から モーツァルトが不道徳なドン・ファン伝説をオペラ化したことは許しがたいことだと考えたという。また、恋愛遊戯的な「コシ・ファン・トゥッテ」は好まなかったと伝えられる。(「魔笛」を好み、そのメロディーを用いたチェロとピアノによる変奏曲は楽しい)

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ドン・ファンというと女誑しの題名だが、ファンとは、 ヨハネ のバリエーションだという。

Don Giovanni ドン・ジョヴァンニ(イタリア語)
Don Juan  ドン・ファン(スペイン語)、ドン・ジュアン(フランス語 モリエールの戯曲はこの表記。Jeanになるはずだが?)
モーツァルトを崇拝した、R.シュトラウスが、「ドン・ファン」という交響詩を書いたのは、モーツァルトへのオマージュだったのだろうか?

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モーツァルトの歌劇についてよくまとまったサイトを見つけた。多くの情報が細かく記述されており参考になる。
MOZART OPERA モーツアルトの歌劇

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DVDでは、フルトヴェングラーの指揮姿がカラーで見られるザルツブルク音楽祭の上演を映画化したものが、現在容易に入手できるようになっている。これはいつか見てみたい。

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ところで、このような映画版のオペラとしては、同じくマゼール指揮による「カルメン」をVHSで保有しているが、これもDVD化はどうなのだろうか?

また、レンタルビデオで ゼッフィレリの演出による確かドミンゴ主演の映画版「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」を見たことがあるが、これなどは今でも入手可能だろうか?そのままオペラの舞台を撮影したものより、オペラ入門には最適だと思うのだが。

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2005年10月13日 「ドンナ・アンナの謎」について 音楽評論家 加藤浩子さんのBLOG記事が大変参考になったので、TBを送らせてもらった。

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コメント

こんにちは。「感情移入しながら鑑賞するわけにも行かず」と言えば、私はここ数年はエルヴィラに一番興味あったのですが、オッターヴィオの描き方にも興味を持ってきています。アンナの表現では、何処まで「真実」に迫っているかで楽しみです。

アテレコは、私は気になりません。寧ろ劇場中継の映像は資料にしかならないと考えています。

チャンパイ氏の解説をリンクで見読みました。それにしても序曲はあまりにも思わせぶりです。この辺りが制作意図と思っています。チャンパイ氏は、バイエルン放送などで現在もご活躍です。

pfaelzerwein様。コメントありがとうございます。

昨夜は、"La ci darem la mano"から仮面の三重唱あたりまで聞きました。私の場合、CDで聞いていた頃は、音楽様式があまりにも多彩過ぎて、音楽による大掛かりな場面転換に違和感を感じていたのですが、映像も場面転換することによって、その違和感が和らげられるという効果を感じています。

アッティラ・チャンパイ氏はドイツで活躍しているんですね。彼は、このマゼール盤と並んで意外にもショルティによるパリでのライヴ盤が演奏史的に画期的なものになった可能性があった公演だったと指摘しています。

このBLOGでも以前書きましたが、ハーディング指揮の部分的に猛烈なテンポの「ドン・ジョヴァンニ」は、そのほぼ2倍のテンポの部分には疑問があるのですが、全体的には分裂的な印象があまりなく(少々単純化された印象はありますが)、マゼールに比べると鑑賞しやすいものでした。

はじめまして。
1年以上も前の記事にコメントをつけてお気づきになるかどうかわかりませんが、このDVDについて記事を書いていますので、お時間があるときにでもぜひ、覗いて下さい。
理由はわかりませんが、この「ドン・ジョヴァンニ」に限ったことではありませんが、ドリームライフのDVDは、悲しくなるほど画質が悪いので、本当に残念です。
海外版は、映画並の美しさで、驚くほど違います。最近、まだフランスだけですが、リマスター版のDVDがリリースされて、更に良くなっています。
http://blog.so-net.ne.jp/keyaki/archive/c354774

フランチェスコ・ロージ監督のカルメンも海外ではDVDになっていて、日本で発売されたLD、VHSとは、比較にならないほど高画質で、美しいです。
http://blog.so-net.ne.jp/keyaki/archive/c359794

keyakiさん、初めまして。

『ドン・ジョヴァンニ』と『カルメン』の海外版のDVDの情報をいただきありがとうございます。両方ともスタジオ外での撮影を多用した映像ですので、画質が向上すると見ごたえがあるでしょうね。

ご紹介のURLにしたがって、貴サイト『keyakiのメモ、メモ.........』を拝見しました。素晴らしい情報量ですね。これからも訪問させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。


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