隆慶一郎「捨て童子 松平忠輝」「花と火の帝」
先日出張の往復の折に気軽に読めながら内容的に充実している小説がないかと書店を探していたところ、「捨て童子 松平忠輝」の書名が目にとまった。非常に面白い小説だった。
歴史的な登場人物・事件の大筋を大きくは外さず、主人公に異能を持たせたり、脇役に異能の持ち主を配したりして、事件・出来事の新たな解釈・説明を物語として説き起こすいわゆる歴史伝奇小説のジャンルに入るのだが、スーパーマン的な登場人物の活躍の面白さはもとより、他の歴史小説などで自分なりのイメージが固定化している徳川家康や秀忠の人間像などが、もしかしたらこうだったのではないかと思われるほどよく描きこまれているのが素晴らしい。文庫で上下中三巻本だが、一息に読み通せる。
余談:その余勢を駆って、後水尾天皇を主人公とする「花と火の帝」二巻(作者逝去のため未完という)を読み始めたところ、「官女密通」(P.77)のエピソードを読み進めていくと、「あれ、これはもしかしたら」と思いついた新聞記事があった。
確認してみると、朝日新聞の土曜版に連載されている「愛の旅人」という記事の中に2005年の秋頃掲載された名門公家と高級女官 後陽成宮廷の猪隈事件(猪熊事件という記述もあり)というのがあり、先の「官女密通」事件と全く同じ事件を扱っていたのだった。
小説では、この事件が徳川将軍による宮中支配のきっかけとなる政治的な事件の一つとして重要視されているようでなるほどと思ったのだが、新聞記事の方は「流罪」をメインにしていてそちらについてはあまり興味が湧かなかった。しかし、プロローグとして書かれたこの事件の末裔が意外な人だという部分が非常に印象に残った。
その方自身がエッセイにこの事件に関係する「大炊御門頼国」のことを記しているのを見つけた。もう一編。
このエッセイなど、この筆者の連載の初めの頃で熱心に読んだものだが、墓碑に残るようなご先祖の名前についてはさすがに覚えていなかったがそれとなく記されていた。めぐり巡ってパズルが解けたような不思議な感じがする。
なお、大炊御門藤原頼国は、同罪の貴族とともに最初は鹿児島県の硫黄島(鬼界ヶ島:俊寛僧都が流された島がこれだとされるが薩南諸島全体を鬼界ヶ島という説もあるという)に流罪になったが、その後甑島(こしきじま)に移されたという。
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