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2006年2月 7日 (火)

モーツァルト 交響曲「パリ」、ト短調、「ジュピター」(ベーム、ベルリン・フィル)

boem_bpo_k

◎モーツァルト
交響曲第31番ニ長調K.297(300a) <<パリ>> 1968年2月録音
交響曲第40番ト短調K.550           1961年12月録音
交響曲第41番ハ長調K.551 <<ジュピター>> 1962年3月録音
カール・ベーム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 

昨年夏に実家に帰省した時、デジカメで自分にとって特別な思い入れがあるLPレコードのジャケットを撮影してアップしたが、その中にベーム/BPOによるモーツァルトの第40番、第41番の交響曲がある。それと同じ音源のCDが入手できたので聞いてみた。(この録音は、ベーム/BPOによるモーツァルト交響曲全集の中の1枚で、ラインスドルフによる先駆的な業績の後に、決定盤としてDGにより録音発売されたものだった。ベームは、後にヴィーンフィルともモーツァルトの交響曲を数曲レコーディングしている。)

さて、この第40番と第41番は、それこそ少年時代から何度も耳にした録音で、別の場所で聴きながら、実家のリスニングルームの情景が浮かぶようだ。

第31番「パリ」は、この組み合わせでは初めて聴くもの。クリップスとACOの組み合わせの録音をよく聞いたが、それよりもさすがに渋い音色。モーツァルトがパリの聴衆の好みをリサーチして、それに合わせて作曲したことが、彼の書簡集により知られている。その手紙を読むと、当時の聴衆は、曲の演奏中でも気に入ったパッセージなどがあると歓声をあげたようで、ちょうど現代のスポーツ観戦のようなものを想像してしまう。

この第40番ト短調K.550の録音は、私が聞いたあらゆる録音の中で、通算すればこれまでにもっとも聞いた回数が多いものかも知れない。今回改めてヘッドフォンで聴き直す。(LPだとスクラッチノイズのためあまりヘッドフォンで鑑賞することはなかった。)一言で言えば、非常に生真面目な演奏だ。ベームは、「もし自分がベートーヴェンに出会ったら、最大の敬意を込めてお辞儀をするだろうが、モーツァルトに会えたら卒倒してしまうかも知れない」と語っていたらしいが、それを連想させるように、実に丁寧に音楽を作り上げている。それがこの演奏に、気品を与えながら、一方では無骨で少々堅苦しい雰囲気を漂わせる要因になっているようだ。クラリネットなしの初版による演奏。この録音は私にとって大切な「刷り込み」盤ではあるが、いろいろな演奏を聞いて来た今となっては、柔軟な表情の変化や音色の多彩さなどの点に物足りなさを感じる。ただ、第二楽章の淡々とした風情や、第三楽章の立体感、第四楽章の少々遅めのじっくり奏でられる演奏には味わいがある。

第41番は、LPレコードではト短調の裏面に収録されていた。しばらくト短調の余韻に浸りながら、おもむろに盤を裏返してターンテーブルに載せ直し、針を落とす。ハ長調の晴朗な上昇モチーフによるトゥッティでの開始だ。これもト短調同様に序奏部がなく、いきなり第一主題をポンと提示される。しかし、焦燥感のあるヴィオラの刻みの上にト短調の下降音型が繰り返されるのとはいかにも対象的だ。この録音は、ト短調で感じた欠点が逆に長所となり、堅固で壮麗な雰囲気を感じさせてくれる。特に素晴らしいのは第四楽章の多様な対位法的な処理の克明さ。まさに磐石の基礎の上に建つ構造物だ。R.シュトラウスではないが、コーダの三種類のテーマによるフガート処理は、まさにいつまでも続いてほしいと思わせる素晴らしさだ。

【追記】 ベーム/BPOの同じ交響曲全集の中に含まれている曲ということで、mozart1889さんのベーム/BPO モーツァルト交響曲第39番にトラックバックさせてもらった。

【追記】 2009/05/21(木)narkejpさんの 1960年頃のベームのモーツァルト にトラックバックさせてもらった。後期のいわゆる三大交響曲を一枚のCDに収録とのこと。ただ、第40番ト短調、第41番ハ長調のベームには縁があるが、第39番変ホ長調にはあまり縁がなく、2006年10月 1日 (日) モーツァルト 交響曲集 ベーム、アバド指揮のライヴ盤のあまり録音のよくないBPOとのライヴ録音の音盤が手元にある程度。なかなか第39番には縁がない。

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コメント

ベーム/BPO盤のモーツァルトは懐かしいですね。ボクはLPで全集を持ってます。高かったですよ。今じゃ考えられないような価格でした。
演奏はマジメ・無骨・謹厳実直・堅物とでも云いましょうか、古き良き時代の、素晴らしいモーツァルトですね。今の耳で聴いてしまうと、堅苦しい感じでもあるんですが、涙が出るくらい懐かしい演奏でもあります。特にジュピターの終楽章は壮麗、いつまでも永遠に続いて欲しい音楽です。
クーベリックもアバドもブロムシュテットもスウィトナーも・・・アーノンクールやブリュッヘンもイイです。
でも、ああ、そうです、ベームがいましたね。

mozart1889さん、コメントありがとうございます。

あのベーム/BPOのモーツァルト交響曲全集をLPで持っておられるのですか!すごいですね。憧れでしたがついぞ購入できませんでした。

「演奏はマジメ・無骨・謹厳実直・堅物とでも云いましょうか」 少年時代にこの一枚しか持っていなかったときには、そうは感じていなかったのですが、今改めて聴きなおすとまさにこの通りです。衒いも色気もなく、そっけないですが、誠実な魅力がありますね。

以下独白です。

カール・ベームは、ドイツ・オーストリア音楽の権威として敬愛されてきたが、「そいういえば彼のバッハ、ヘンデルというのはほとんど聞かないな」と思い、ディスコグラフィーをネットで検索して調べてみた。Canzonetta というホームページ。 http://www.hdlc.org/~tosca/main/Bohmfrm.htm

実に、バッハはマタイ受難曲のレコーディングが1枚あるだけのようだ。恐らくベームはローマン・カトリックの信者だろうから、宗教的な面での考慮だろうか?もっともモーツァルトの数多いミサ曲もほとんど録音がないので、宗教曲を敬遠していたとも考えられないではない。

ベームの音楽を考えるときそれなりに重要なことかも知れないと思った。

時々寄せてもらってますが、コメントは初めてかも知れません。よろしくお願いします。
昨日CD店を覗いたら、モーツアルトの中古レコードがありました。
当然ながらベームの盤は多かったです。
迷ったのですが、やはり「ジュピター」は買うべきだたかな。私はカイルベルト/N響のエアチェックで満足してしまって・・・。
代わりに、ギーゼキングの弾くソナタを買って帰りました。輸入盤ですが音質はどうかな?

丘さん、コメントありがとうございます。

ベートーヴェンのチェロソナタのときも書き込みいただきありがとうございました。

ベームは晩年の来日の頃は神格化されましたが、最近はあまり人気がないと聞いております。一時代前の指揮者ということで、中古盤にも多く出ているのでしょうか?私が音楽を聴き始めた頃は彼の全盛期だったこともあり、独墺の古典、ロマン派は謹厳実直ながらも安心して聴けるような気がしています。

今晩は。
望さん、TB有り難うございました。
ベームのモーツァルトは、ボクにとってのひとつの規範です。ウィーン・フィルのもエエですし、ベルリンとのガッツある演奏も良かったですね。
これからも聴き続けていきたいと思います。

mozart1889さん、コメントありがとうございます。ベーム/BPOでは、ブラームスの1番も私にとっての「刷り込み」で、これが規範になっています。この謹厳実直さこそ、「ドイツ音楽」のひとつの典型だと思っております。頑固じいさんの風貌の中に細やかな神経が通っているところがなんともいえません。

ベームのモーツァルト、1960年頃のものは、たいへんきりっとしていて、いい演奏ですね。モノラル時代のベームの録音が廉価盤で出て、ずいぶんよく聴きましたが、70年頃になると、なんだか印象がずいぶん変わりました。演奏家も、年代によってこんなに変化するんだ、ということを実感した指揮者でした。

narkejpさん、早速こちらにもコメントいただきありがとうございます。

ベームのモーツァルトには、晩年でもロココ趣味的愉悦感が失われたいなかった作曲家の演奏としては少し謹厳実直で微笑みが不足するという指摘もできるかも知れませんが、音楽的な充実度は格別ですね。下手に愉悦感を表に出してしまうとフォルムが崩れてだらしなくなくなってしまう危険性がモーツァルトにはあるように思います(その点バッハは強靭ですね)。

楽団員からは敬遠されることもあったようだが、口やかましく微妙なテンポとアーティキュレーション、バランスの調整を職人的に追及してモーツァルトに奉仕したというベームにして成し遂げられた偉大な演奏だと思います。

このところ音楽記事からは離れていましたが、また少しエンジンがかかって来ました。

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