セル/クリーヴランド管弦楽団によるシューベルトの大ハ長調
◎シューベルト 交響曲第8(9)番 ハ長調 (The great, Die Grosse)
ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1970年4月27日、29日録音
セルの最後の年の録音のひとつ。大阪の万国博覧会を記念して、1970年の5月に初来日する直前の録音。初来日してからは空前の名演を日本各地で繰り広げ(この模様は1970東京ライヴで聞くことができる)てから、帰国後、セルは亡くなった。来日時にはすでに不治の病にかかっていることを本人は自覚していたとも言われていて、その精神力に畏敬の念と痛ましさを覚える。
セルは、1960年代終りに、それまでのEPIC(CBSの子会社)からEMIに録音するようになっており、ギレリスとのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集や、オイストラフ、ロストロポーヴィチとのブラームスのドッペルコンツェルトや、名盤の誉れ高いドヴォルザークの交響曲第8番の録音などを入れていた。このシューベルトの「大きい(方の)ハ長調」交響曲もそのひとつ。なぜか以前から、ドヴォルザークはレギュラープライス、看板シリーズに収録されていたが、こちらは廉価盤シリーズに入ったいた。
この録音は、一度聞き始めると一気呵成に最後まで聞けてしまうという、非常に乗りのよいものなのだが、残念ながら、1970年のステレオ録音だというのに、マスターテープ起因なのか音質が悪い。前記のドッペルコンツェルトにも聞かれるのだが、強奏部でビリつきが聞こえてしまう。それだけクリーヴランド管弦楽団の音響エネルギーが強烈だったともいえるのだろうが、ただしかし、ソニーから発売された前記の同じ年の東京ライヴはNHKの録音陣による放送録音だが、そのような初歩的な「録音レベル」設定ミスであると思われるビリつきはなく、爽快で広がりもボリュームもあり、精緻で輝かしい音響が捉えられているのだから、この一連のEMI録音の悪さは惜しんでもあまりあるものだと慨嘆する。第1楽章の途中では、マイクにコツコツと何かが当たる音も収録されている。セルの急逝で、十分な編集作業ができなかったのかもしれない。
しかし、この交響曲の演奏は、クールなCBSでのスタジオ録音よりもホットさが感じられるもので、音質の悪さに躊躇を覚えながらも、一度聞き始めるとこの長大な曲を最後まで聞いてしまうのが常という、素晴らしい演奏だと思う。
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コメント
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こんにちは。セルとクリーヴランド管によるシューベルトの「グレート」交響曲、LP時代から大事にしています。リズムがとても正確で、しかも前進力があり、思わずのってしまう音楽になっていますね。セルらしいです!
投稿: narkejp | 2006年3月10日 (金) 20:14
こんばんは。コメントありがとうございます。
セルの指揮は、オーケストラの精緻なアンサンブルはもちろんのこと、リズムの精妙で弾力性のある活発さも特徴のひとつですね。この大ハ長調は、録音のせいか精緻なアンサンブルという点では少々物足りなさを覚えますが、生き生きとしたリズムは素晴らしいと思います。
投稿: 望 岳人 | 2006年3月10日 (金) 22:56
おはようございます。
セルの「グレート」はよく聴きました。死の直前、ドヴォルザークの8番とともに、最高のオーケストラ音楽を聴かせてくれます。リズムの正確さ、narkejpさんのおっしゃるとおりだと思います。
ただ録音が今ひとつ冴えない・・・・CBS時代よりマシなんですが、この演奏をフィリップスかDECCAの録音で聴きたかったとついつい思ってしまうのです・・・。
投稿: mozart1889 | 2006年3月12日 (日) 07:07
mozart1889さんコメントありがとうございました。
演奏や録音については、好みの問題が大きいのですが、私がジャケット写真を掲げたCDの音質は個人的には相当ひどいものだと思います。以前もこの件で情報交換したところ、あるセルファンの方の不興を買ってしまったようなのですが、私の装置と相性がよくない所為なのか本当にビリ付きが頻繁に出ます。
CBS録音については、乾燥気味だとは思いますが、明晰さという点では悪くないように感じるのですが・・・
投稿: 望 岳人 | 2006年3月12日 (日) 21:56