シベリウス 交響曲第3番 ベルグルンド/ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
◎ヤン・シベリウス 交響曲第3番 ハ長調作品52(1907年完成)
パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
1987年8月24日-26日 ヘルシンキ、文化ホールでの録音
シベリウスの作品は、交響曲第2番、第1番、ヴァイオリン協奏曲、「フィンランディア」、「悲しきワルツ」などにしかなじめないでいたが、この日曜日に第3番をじっくりと聞いてみたところ、これまでのように取り付きにくさや晦渋さを感じず、割とすんなりと耳に入ってきてくれた。このベルグルンドとヘルシンキフィルの全集は、もう7、8年前に購入したのだが、時々思い起こしたように第1番、第2番以外にも挑戦してみては、たいてい挫折を味わうのが常だったので、もう半分あきらめていた。それが、こちらの心の閊えが取れたのかどうか、何とか向き合えるようになった気がする。
第1、2番のように聞き比べをした経験がないので演奏の特徴はよく分からないが、特に2番をザンデルリングやオーマンディ、セルなどと比べると、交響曲的な形式感がきちんと把握できるというよりも、より即興的でラプソディックな表現になっているように感じる。フレーズのつなぎが流麗なことも草書的なイメージを醸している要因だろう。また、フィンランド人指揮者やフィンランド人のオーケストラ団員の音色へのイメージによるのだろうが、暖かさよりも清涼さが感じられるような気がする。
次は、4番に挑戦だ。
余談になるが、フィンランドは、隣国スウェーデン、ロシアの圧政下に虐げられたというイメージがある。
フィンランド人は、自らをスオミと称し、その言語はフィンウゴル語派に属するという。
(フィンウゴル語派:ウラル語族の一語派。ヨーロッパ北東部からシベリア西部にかけて話される。ラップ語、フィン語、エストニア語、カレリア語、モルドバ語、チェレミス語、ペルム語群、オスチャーク語、ボグール語、ハンガリー語などが含まれる。
Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) ゥ Shogakukan 1988/国語大辞典(新装版)ゥ小学館 1988)
いわゆる人種的には、遠い祖先的には、モンゴロイドだといわれるが、その後長い期間の混血により、ほとんどコーカソイドと見分けが付かなくなって現在にいたっているようだ。しかし、言語的、文化的には周辺のゲルマン系、スラヴ系諸民族とは明確な違いがあり、神話的にはシベリウスが題材として取り上げている「カレワラ」などの独特の伝承を保持しているのだという。ゲルマン系、ケルト系の神話との違いは大きいらしい。
そのフィンランドは、現在 世界一の携帯電話メーカー NOKIA社の本社があることで有名になっている。ノキア社の沿革を以前「日経ビジネス」で読んだ記憶があるが、もともとは製材や長靴などを作っていたこともある地場産業的な企業だったらしい。現在の携帯電話に舵取りを行ったのは比較的最近のことらしい。もう10数年も前に欧州に旅行したとき、パリのシャルル・ド・ゴール空港のトランジット通路にノキア社の広告が目に付き、nokiaって何という風に思ったのを記憶しているが、その頃から爆発的に伸張したようだ。現在では世界各国で端末生産を行い、グローバルではトップシェアを誇っている。ソ連崩壊後、その軍事的な圧力が減ってから、すぐに春の新芽が一斉に吹き出すようにノキアを中心としたIT産業が伸びた背景には、教育政策的な背景もあるのだろうが、非常に不思議だ。あのLinuxを生み出したのもフィンランド人の大学生だった。フィンランドの奇跡とでも呼べるのではないのだろうか?現在は、国際競争力は何年も続けてトップクラスだという。
音楽界では、指揮者の故・渡辺暁雄が母がフィンランド人という血統から、シベリウスの演奏を得意としており、またピアニストの館野泉は長い間フィンランドを本拠地として活躍してきた。
また、フィンランド出身者では、レイフ・セゲルスタン、オスモ・ヴァンスカ、エサ・ペッカ・サロネン、ユッカ・ペッカ・サラステ、ミッコ・フランク、オペラ歌手のマッティ・サルミネン、ヨルマ・フンニネン、モニカ・グループ、カリタ・マッティラ、ピアニストのオッリ・ムストネンなどが現役として大活躍している。
フィンランドは、またムーミンを生んだトーベ・ヤンソンの祖国であり、その翻訳家 山室静の名訳で楽しめる。
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コメント
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ハンガリー、フィンランドなどが黄色人種起源というのは
こんにちでは俗説という考えが一般的です。
そういう認識ができたのは昔、ウラル・アルタイ語族とされて
ウラル語族とアルタイ語族が同一視されてたことが原因ですけど、
現在ではこの二つの語族は全く別のものと考えられてます。
また、ハンガリー、フィンランド、エストニアなどの
ウラル語族はウラル山脈あたりにいたコーカソイド(白色人種)が
フン族やモンゴル族などのモンゴロイド(黄色人種)の移動により
玉突き式に欧州に移動してきたもので黄色人種説はほぼ否定されてます。
ただし蒙古斑が時々できるように
少々、黄色人種の血が混ざっているのは事実ですが。
ただ、それもイヌイットのサーミ人との混血のような気もしますが。
投稿: とりろん | 2007年4月 4日 (水) 23:08
とりろんさん コメントありがとうございます。
フィンランド、ハンガリーなどのフィン・ウゴル語派は印欧語派とは一線を画しながら、やはりコーカソイド系の言葉なのでしょうか。
ハンガリーなどは姓名を東洋諸民族同様に姓名の順で書き記しますので、文化的な系譜は、東洋につながるというような考え方もできるように思うのですが。
サイクスの『アダムの呪い』には、ユーラシア大陸に、チンギス・ハーンのDNAを伝える男性が数多いと書かれていましたが、ハンガリーなどでサンプリングした結果があれば面白いように思いました。
フィンランドのカレワラ叙事詩も、ケルト、ゲルマン、スラブ、ラテンの諸族とは異なる文化的な伝統を持つことは明らかだと思いますが、そのような孤島的な民族がどのようにして生まれたのかも興味を誘います。
投稿: 望 岳人 | 2007年4月10日 (火) 22:12