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2006年4月29日 (土)

セルとライナーのベートーヴェン 交響曲第5番を聞き比べる

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CDパンフレット写真は上から、ライナー。セルのベートーヴェン交響曲全集Boxと交響曲第2番、第5番。セル/VPO ザルツブルクライヴ。

ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 作品67

◎フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 <1959/5/4録音>
7:30/10:05/5:26/8:01

◎ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団<1963/10/11&25録音>
7:31/10:01/5:30/8:32

◎ジョージ・セル指揮ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団<1969/8/24録音>
7:45/10:13/5:35/8:34(拍手を入れて9:12)

ゴールデンウィーク初日。仕事面では、このような連休の直前は、その期間の多くの段取りが必要で非常に神経を使った。今日は一日のんびりできるので、久々に、ベートーヴェンに向かい合ってみた。

以前セル/クリーヴランドによるこの曲を初めて聴いたときから面白いと思っていた第1楽章コーダ大詰めの音価を拡大したこの曲のモットー(モチーフ)[*]の強調は、その後VPOライヴでも聴けたのだが、、火の玉ライナーとシカゴ響による録音でも聴くことができた(タイミング7:00のあたり)。セルの専売特許(CLOでは7:02のあたり、VPOだと7:13)だと思っていたが、そうではなかったようだ。(なお、この強調は、ジンマン/チューリヒ・トーンハレの録音でも聴くことができる。6:25あたり)。

[*]5月の帰省で生家から運んできた全音楽譜出版社版のポケットスコアで確認すると、473小節から475小節にいたるホルンの二重奏による2倍に拡大されたモットーのこと。運命のモットーは、付点八分休符+八分音符*3+二分音符(+α)だが、それが四分休符+四分音符*3+四分音符*1になっている。

ライナーとセルのスタジオ録音盤を比べると、タイミングが恐ろしく似ているのに驚く。しかし演奏から受ける印象は相当違う。セル/クリーヴランドの方が細身で鋭利かというと、録音の残響のせいもあるのだろう、セル盤の方が意外に柔らかく聞こえる。またミスター・メトロノーム ライナーの方に、いわゆる煽り気味の興奮を感じるし、吉田秀和氏が「世界の指揮者」で、恐ろしく正確だと評したスケルツォのトリオのチェロとコントラバスのパッセージの休符の取り方は、正確というより、ユニークだ。

セルの方が第3楽章まではスタティックで冷静だが、俄然その入り口から第4楽章はそれまでの鬱憤を晴らすかのように輝くような勝利を歌い上げている。これには、ブラスの強調による明るい音色も加勢しているように思う。セルはリアリスト、冷徹で気難しいというイメージがあるが、茶目っ気やこのような基本的ないい意味での楽天性を持っていた指揮者だったのだろうと思う。

セルの有名なザルツブルクライヴは、生々しい直接音主体の録音のせいもあるが、冒頭から全曲に渡って非常にホットな音楽になっている。あのヴィーン・フィルにして、ホルンは強奏で音を割るし、弦も弓のアタックが聞こえそうな迫力だ。スタジオ録音と続けて聴いてみて、それがセルの解釈なのが確認できたが、このライブでもフィナーレ冒頭の開放感はすさまじいものがある。単にライヴならではの一時的・即興的な興奮、盛り上がりではないことがスタジオ録音と比べるとよく分かる。ただ、このライヴは本当にすごい音楽、演奏だ。一期一会の名演奏、名録音で、大げさな言い方だが、私にとっては宝物のひとつだ。

以下余談。

興味が湧いたので、手持ちのCDのタイミング比較を。

ライナー/CSO<1959/5/4>           7:30/10:05/5:26/8:01
セル/CLO<1963/10/11&25>         7:31/10:01/5:30/8:32
セル/VPO<1969/8/24>            7:45/10:13/5:35/8:34(拍手を入れて9:12)
フルトヴェングラー/BPO<1947/5/27Live>  8:44/10:55/5:37/8:11
バーンスタイン/NYP<1961/9/25>      8:38/10:11/4:59/11:27
バーンスタイン/VPO<1977/9>        8:38/10:19/5:23/11:17
C.クライバー/VPO<1974/3&4>        7:17/9:56/5:07/10:48
小澤/BSO<1981/1/24&26>         7:15/10:18/5:26/8:24
ジンマン/チューリヒ・トーンハレ
        <1997/3/25&26>        6:49/8:45/7:19/10:25

こうしてみると、セルにしてもバーンスタインにしても別の団体、別の日時、別の会場、別の条件(スタジオ、ライヴ)で演奏しても、指揮者自身の基本的なテンポというものがほぼ確立されていることがいまさらながら分かった。さすがにプロはすごい。

バーンスタイン、C.クライバーとジンマンのフィナーレが他の演奏より2分から3分演奏時間が長いのは、この楽章の提示部のリピートを忠実に実施しているため。また、ジンマンのスケルツォが長いのは、ブーレーズやスイトナーが採用して話題になったギュルケ原典版(ペータース)に拠ったのか、従来の楽譜にトリオの最後からスケルツォ冒頭にダカーポしているため(ベーレンライター新版ではこの説は採用されていないというので、ここに関してはギュルケ版を採用したらしい)。

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