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2006年5月26日 (金)

出張の往復に読了 「ダ・ヴィンチ・コード」文庫本3冊

東京八戸間は、はやて号で3時間強で、読書には絶好の環境なので、何を読もうかと思案していたが、今映画公開で話題が再燃している「ダ・ヴィンチ・コード」を読むことにして、文庫本を入手した。往復の車内で読むには、ちょうど適当な分量だった。

角川文庫から出版されているこの文庫本だが、少々文句がある。本の最初の方に内容に関係のある美麗な写真や地図が綴りこまれているのだが、この図版類が謎解きミステリーとしてのこの小説の興趣を少々削ぐ原因となっているのだ。図版を見れば、主人公がどこに行こうとしているかが分かってしまう。ゆえに、まったく白紙の状態でミステリーを楽しみたい向きは、図版を見ない方が楽しめると思う。

さて、宗教、信仰的な面から言えば、キリスト教への知的関心はあるものの宗教心のない人間にとっては、キリスト教以前の異教とカトリックのいわゆる「習合」のような歴史について強引に大雑把に要領よくまとめられていて結構面白いものだった。アジアなどのカトリック国では、信仰面からこの映画への反発が強いようだが、歴史的な解釈としてはそうもあるだろう程度ではないのだろうか。現代でもあのバルトークが信仰していたというユニテリアンのような三位一体、つまりイエスの神としての性質を否定する教派もあるのだから。WIKIPEDIAによると例のアイザック・ニュートンもユニテリアンだったとのことで、「ダ・ヴィンチ・コード」の出版、映画化自体、そのような教義解釈の重要問題が背景にあるのかも知れない(少々、陰謀史観的だが)。

題材と仮説の面白さに比べて、ミステリーとしての出来はどうなのだろうか?上中下と分かれた文庫では、下巻がもっとも退屈だった。謎が謎を呼ぶというジェットコースタームービー的な展開は悪くはなかったが。

大作曲家の名前がいくつか登場した。モーツァルト、ベートーヴェン、ヴァーグナー、ドビュッシーなどだが、少々文脈的に違和感を感じた説明もあった。モーツァルトの「魔笛」、ヴァーグナーなど。音楽史家、音楽学者などはこれらの記述について、どのようなコメントを述べるのか興味がある。

追記:5/29、5/30

作中、「イエスの笑い」に関しては、10年以上前に読んだウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を思い出した。これによって、中世の異端審問の恐ろしさをおぼろげながら知ることができたように思う。特にカタリ派の記述が恐ろしかった。(大学生の書評でよくまとまったものがあった。)しばらく読んでいないので、もう一度読み返したいものだ。

さらに、この「薔薇の名前」が提起した「キリスト教の笑い」については、宮田光雄東北大学名誉教授が岩波新書で「キリスト教と笑い」を書かれて、詳しく解説されている。

笑いについて

類語 「声を出して笑う」と「うれしそうな表情をする」の二つの系統があり,laughとsmileがそれぞれの最も普通の語.前者の系統では,chuckleは特に何かおかしいことを考えているときなどのくすくす笑い.titterやsnicker《米》/snigger《英》は他人の場違いでおかしなふるまいや失態などをくすくす笑うこと.roar, howl, shriek (with laughter)は,おかしがって大声で笑うこと.cackleは,気が狂ったように高い調子の大声で笑うこと.後者の系統では,grinはおかしさやうれしさを表しての歯を見せての目立つ笑い.beamは本当にうれしそうににっこり笑うこと.smirkは他人のしたことに対してのいい気味だと言わんばかりの笑い.leerは脅迫的な意味合いや性的ないやがらせの感じを込めた笑い.

Progressive English-Japanese Dictionary, Third edition ゥ Shogakukan 1980,1987,1998/プログレッシブ英和中辞典  第3版  ゥ小学館 1980,1987,1998

また 「テンプル騎士団」については、同じくウンベルト・エーコ「フーコーの振り子」を思い出した。前著「薔薇の名前」も重層的な読み方ができる小説とのことだったが、娯楽ミステリーとしても普通に読めた。しかしこちらは何が何だかよく分からなかった。ようやくこの書評を読んであらすじが理解できたほど。

なお、「ダ・ヴィンチ・コード」の眼目である「シオン修道会」については、WIKIPEDIAに詳細な解説が書かれていた。先日のトリノオリンピック直後の「トゥーランドット」解説でも感じたが、カレント・トピックスについての追従性はすごい。恐るべし、WIKIPEDIA。もちろん、「テンプル騎士団」についても詳しい。「オプス・デイ」についても項目がある。参考:オプス・デイ広報室からの手紙

なお、マグダラのマリアは不当に貶められているとの趣旨だが、J.S.バッハの妻、アンナ・マグダレーナ・バッハの名前のようにマグダレーナは女性名としても用いられ、マグダラのフランス名「マドレーヌ」をつけたマグダラのマリアを祭るマドレーヌ寺院が実在することからも分かるようにその言い分は、必ずしも正しくないようだ。また、カトリックは、古層の女神信仰と習合したことから、フランスやスペインで盛んな聖母マリア信仰が成立したとも読んだことがある。その意味で、フェミニズム的なカトリック批判にはどういうものかと疑問に思った。

フィナボッチ数列、黄金比についての数学と美学に関するトリビアが披露されている部分は面白かったが、黄金分割を意識していたバルトークの名前がなかったこと、前述の作曲家以外になぜかJ.S.バッハの名前が見当たらなかったことが不思議に思った。

ユニテリアン ダ・ヴィンチ でGOOGLE検索したら、「新潮社」の波 2004年9月号より[対談]代理戦争!! ダ・ヴィンチ対ダンテ マシュー・パール『ダンテ・クラブ』 越前敏弥×鈴木 恵 がヒットした。「ジェットコースター」だの、「プロテスタントのユニテリアン」だの「ダ・ヴィンチ・コード」の翻訳者自らが語っている記事を発見できた。「ダンテ・クラブ」というのも結構面白そうだ。

グノーシス主義で検索したところ、やはりWIKIPEDIAに解説があり、興味深い記述もあった。「グノーシス主義の他宗教への影響」いろいろな背景が考えられる。

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