ドヴォルザークのチェロ協奏曲 フルニエ、セル/BPO
ドヴォルザークのチェロ協奏曲は、これまで実演を聞く機会には恵まれていないが、さまざまな録音や放送で楽しんで来た。何度も聴いた音源は下記の通り。
カザルス、セル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団<1937>(エアチェック)
デュプレ、バレンボイム指揮シカゴ交響楽団<1970>(エアチェック)
ロストロポーヴィチ、ジュリーニ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団<1977>(LP)
ロストロポーヴィチ、小澤指揮ボストン交響楽団<1985>(CD)
フルニエ、セル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団<1962>(CD)
この中では、録音は古いがカザルスとセルのものは古くから名盤とされていたもので、カザルスのストレートで剛毅な表現と、当時まだヨーロッパで活躍していた若き日のセルが血縁でも関係浅からぬチェコフィルと、やはり率直で引き締まった演奏を務めている。繊細なニュアンスや瞑想的な面では不足するとは言え、今なおその演奏はすばらしい。某ディスク販売会社のコピーではないが、まさにエバーグリーン。
有名なロストロポーヴィチとカラヤン/BPOによる録音は今のところ音盤では聞いたことがない(追記:その後入手したが、どうもピンと来なかった)。同じロストロでは、ジュリーニ緒および小澤との競演盤を入手できたのだが、いずれも自分にとっては隔靴掻痒的な演奏・録音となっている。ジュリーニ盤は、カンタビーレの得意なジュリーニのゆったりとしたオケは面白いのだが、全体的に緊張感や前進感が不足するようだし、小澤盤はロストロ自身この録音をこの曲の打ち止めとすると宣言した自信作とのことだが、録音がオフマイクのこともあり、また日本料理のごとき小澤の粘らない淡白な表現により淡い夢想のようなつかみ所のない演奏に聞こえる。
ジャクリーヌ・デュプレは、夫君バレンボイムとシカゴ交響楽団がオケを務めたもので、デュプレの凄絶とも言えるソロに比べてオケが凡演とされるが、デュプレのソロはその通りとしても、オケはそれほどひどいだろうか?切々と訴えかけるようなソロには抗し難い魅力がある。
最後のフルニエ、セルについては、比較的最近CDを入手できて聞けたものなのだが、上記のような演奏と比較しても、そのあまりのすごさに聞きながらワクワクしてしまい、この耳なじんだ曲を飽きることなく最後まで集中力が途切れずに聞きとおしてしまった。どんな演奏・録音も無価値なものはないと思っているので、番付をするのはあまり好まないのだが、この演奏は心底すごいと思った。
これが、以前から評判の高い録音ということは知ってはいた。それに、narkejpさんの「電網郊外散歩道」を知ったきっかけとなった記事カール・ライスターの「一番印象深かった録音」を拝見して、さらに深くこの録音のもつ意味を知ることができた。カラヤンがセルを畏敬していたことは、1970年代の自分の高校時代の音楽室の書棚にバックナンバーが保管されていた「レコード芸術」の記事や、「1970年のセルの東京ライヴ」のブックレットに記されていた当時のCBS SONY ディレクター 京須氏 のセルとカラヤンが同時に来日した1970年万博でのエピソード(「マエストロ!」「やー、ヘルベルト」の会話)などでは知っていたが、BPOのライスターが語った言葉は、岩城宏之「フィルハーモニーの風景」に書かれたVPO,BPOの団員が互いに聞きあうという特性のBPOでの出発点や、カラヤンのその後の精緻精密指向が始まったきっかけなどが分かるような気がした。
貴公子フルニエなどと呼ばれるが、このセルとのコンビはまさにつぼにはまったものだったのか、セル/クリーヴランド管との「ドン・キホーテ」のCBS盤(これまたロストロ、カラヤン/BPOのEMI盤、DG盤では同じフルニエと共演しているものと競うようだ)も録音しており、こちらも素晴らしい録音になっている。他の演奏に比べて解像度が相当異なる映像を見ているかのような細密かつヴィヴィッドな演奏という点で、ニ巨匠の共演は共通しているようだ。
追記:この録音再鑑賞記
2011年10月 5日 (水) 以前音質的に不満だった音源を聴きなおしてみて(2) 管弦楽, 協奏曲(EMI セル)編 続き
追記:2013/3/11
narkejpさんの電網郊外散歩道の2013/3/8付けの記事で、この録音がブルー・スカイレーベルでパブリックドメインとして公開されたのを知った。私の上記の記事では、1962年録音としていたが、改めてドイツ・グラモフォンの詳細なカタログページのデータを見たところ、1961年6月にベルリンのイエス・キリスト教会で録音されたということが明記されていた。
Track Details
DVORAK Cellokonzert Fournier/Szell
Artist & Repertoire Info
------------------------------------------------------------
Composer:Antonin Dvorak (1841-1904), Composer
Title:Cello Concerto in B minor, Op.104
Artists:
Pierre Fournier, Cello
Berliner Philharmoniker, Orchestra
George Szell, Conductor
First Release:1962
Recording Information
-------------------------------------------------------------
Recording date:June 1961
Live / Studio:StudioRecording
Location: Jesus-Christus-Kirche, Berlin, Germany
Produced By:Hans Weber, Recording Producer
Balance Engineer:Gunter Hermanns
Format:AAA Stereo 44 kHz 16 Bit
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記事をご紹介いただき、ありがとうございます。フルニエとセルの組合せは、レコード会社の契約の関係であまり録音がないのが残念ですが、実演ではだいぶあったようですね。1967年10月26日、クリーヴランドのセヴェランス・ホールでの定期演奏会では、Martin のチェロ協奏曲と R.シュトラウスの「ドン・キホーテ」を取り上げているようです。
投稿: narkejp | 2006年5月23日 (火) 19:52
narkejpさん、こちらにもコメントいただきありがとうございました。実演での共演はさぞ素晴らしかっただろうと思います。「ドン・キホーテ」のCDは私も愛聴しておりますが、この演奏によって初めてこの曲の魅力に開眼したような気がしております。R.シュトラウスも弟子セル博士の実力を相当買っていたようですね。
投稿: 望 岳人 | 2006年5月23日 (火) 20:14
録音年のお知らせをありがとうございました。1962年というのは、最初のリリースの年だったのですね。録音場所もベルリンのイエス・キリスト教会という、様々な録音でおなじみの場所だったことに、あらためて驚いています。なるほど、それであの響きの録音かと納得しました。
投稿: narkejp | 2013年3月12日 (火) 19:57