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2006年6月26日 (月)

モントゥー/LSOのベートーヴェン 交響曲第2,4,5,7番

Beethoven_2457_monteux_lso_1<1960,1961年録音>

先日目に留まって購入したモントゥーとサンフランシスコ交響楽団の「幻想交響曲」に続いて、彼の音盤を2種類購入した。タイトルのベートーヴェンの2枚組みと ドビュッシーの「管弦楽のための映像」「聖セバスチャンの殉教(交響的断章)」のCD。(前者は、第九と、VPOとの残りの番号を合わせたベートヴェン交響曲全集として発売中のようだし、後者はフィリップスのモントゥーの遺産に収録されているもののようだ)

最近まで名のみ知るばかりだった指揮者モントゥーとはVPOとのハイドンでようやく出会うことができた。その音楽に感激し、興味を持ったことは以前書いた。VPOの魅力的な音と細かいニュアンスが感じられる演奏、ヴァイオリンの対抗配置、デッカの生々しい録音もあいまって、非常に活気に溢れるハイドンの音楽を聞かせてくれた。

モントゥーは、なんとラヴェルと同年生まれだということだが、その晩年、来日してその音楽を披露してくれたとのことで、オールドファンには実演を聞いた人も多いようでうらやましい。ドビュッシーのCDや、このベートーヴェンのように鮮烈でストレートな音楽を当時生で聴けるのはまさに驚倒するほどの体験だったのではあるまいか。

フランス系指揮者のベートーヴェンは、クリュイタンス/BPOという珍しい組み合わせでの全集も古くからあるし、ミュンシュ/BSOのベートーヴェンもテンポの速い男性的な魅力のある演奏といわれている。逆にドイツのシューリヒトがパリ音楽院管と入れた全集も評判がよいらしい。ベートーヴェンの交響曲演奏史の上では、フランスのアブネックが「第九」の普及に努めたことは知られているが、意外とフランス人はベートーヴェンが好きなのかも知れない。聴衆にしても「第五」の終楽章の高らかな勝利の凱歌を聴いたナポレオン時代を経験した老兵が「皇帝万歳」と叫んだというエピソードも知られている。(またもや血筋の話になるが、ベートーヴェンの祖父はフランドルの出身であり、ボンはラテン+ケルトのフランスと、ゲルマン+ケルトのドイツの境目でもあり、両者の要素をそれぞれ兼ね備えているのかも知れない)

この2枚組みのCDで聞けるベートーヴェンも素晴らしかった。第五の第一楽章展開部の冒頭など、モットーを非常に遅く提示するなど、ユニークな解釈もあるが、全体としてストレートな表現であり、幸福感にあふれている。モントゥーの作り出す音楽には、よく明朗とか暖かいとか評されることが多いようだが、同じ作曲家の同じ楽譜から得られる物理的音響にそう違いはないだろうに、なぜ彼の作り出す音楽にそのような感触を得ることが多いのだろうか。不思議だ。

ベル・エポックを代表するような人生や、美しい方の性(女性のこと)に愛された(吉田秀和)といわれる指揮者の人生、人柄がこのような音楽を成し遂げたのだろうか?(人格が音楽に反映するということの不思議さ。やはり人音楽というものは人間(の集団)の感情が作り出すものなのだろう)

同じく吉田秀和「世界の指揮者」によると、あの長い指揮棒を使いながら、非常に精緻な指示を行っていたのだという。即物的というと感情の通わぬ物質的な冷たさを連想させるが、彼の音楽はストレートではあるものの、それが非常な音楽的洗練によって昇華され、知的で明朗な表情を取るのかも知れない。

録音は少々古い年代のものなのでテープの伸びで左右チャンネルがぶれるような部分もあるが、ロンドンのオケとは思えないほど輝かしく透明な音響になっているのには驚かされる。

これらの録音でも、ハイドンと同様ヴァイオリンの対抗配置が実に効果的だ。また、木管のソリスティックな活躍も楽しい。

曲目の中で特に印象に残ったのは、第4番だった。ランキングなどではカルロス・クライバーのあのライヴ(Orfeo盤)が圧倒的な支持を集めているようだが、このモントゥーの作り出す第4番も、北方の巨人に挟まれたギリシャの乙女のたおやかさや慎ましやかさよりも、溌剌として快活な音楽になっている。これまで自分がなんとはなしにモントゥーに抱いていたイメージは、洗練された穏やかな音楽を作る人というものだったが、先のハイドンでも感じたように、各パートの音楽が明瞭に奏でられる緻密さをもちながら活気あふれる音楽だ。

このCDに含まれる演奏は みー太の音楽日記のみー太さんが 
音楽日記245 モントゥー(2) ベートーヴェン 交響曲 第5番 運命 で取り上げられている。(モントゥー/ACOの英雄も別記事にある。) モントゥーはいまだに人気が衰えないようで、ブログでも取り上げる方が多いようだ。

【追記】今晩、第7番を終楽章まで聞いてみた。これは、すごい。まったく暑苦しくなく、明晰で光彩陸離たる演奏だ。フィナーレは相当のアップテンポだが、ディオニソス的な饗宴ではなく、アポロン的に均整が取れながら、颯爽と突っ走るすごい音楽になっている。

p.s. 2006/10/28 ピースうさぎさんのブログでこのCDに含まれている4番7番の記事を拝見しトラックバックさせてもらった。

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ディスク音楽01 オーケストラ」カテゴリの記事

コメント

望さま こんばんは
いつも大変お世話になってます。最近は、ゆっくりと記事を拝見することも出来ず、失礼しております。私の拙い日記を御紹介頂き、心から感謝しております。
 私自身がベートーヴェン様の交響曲に特別の思いを感じていることは、日記で幾度となく書いてます。そうした中でモントゥー氏の演奏との出会いは、ある意味単純な私の聴き方の方向を変えて下さる演奏でした。
 望さまの記事に全く同感な思いです。彼の精神性の高さが、即物的な演奏が多い中にひとつの光りを差していると思ってます。威厳とか厳格とは別の意味を持つ思いのこもった演奏であり、こうした演奏が、フランス人であるモントゥー氏によって聴けることに今だ驚いております。

みー太さん、丁寧なコメントをいただきありがとうございます。こちらからトラックバックさせていただいたので、そちらにもコメントを残そうと思ったのですが、受付終了とのことで失礼しました。

知る人ぞ知る名指揮者で、名前は夙に知っていたのですが、まともに聴いたのは本当につい最近です。みー太さんが触れておられる「英雄」も有名なブラームスも未だ耳にしたことはありませんが、ぜひ聴いてみたいと思っております。

トラックバックありがとうございました。
モントゥーのベートーヴェンはあとウィーンフィルとの演奏を持っています。これもなかなかノーブルでよいです。
フランスの指揮者で言えば、シャルル・ミュンシュもブラームスやベートーヴェンを得意としてましたね。
才能があれば、国籍は余り関係ないようですね。

ピースうさぎさん、コメントありがとうございます。

モントゥーのベートーヴェンは、このロンドン響の録音と、VPOとの残りの番号と、第九の録音を組み合わせたベートヴェン交響曲全集としても発売中のようですね。

セルやライナーの厳しいベートーヴェンも好きなのですが、モントゥーのベートーヴェンは幸福感が感じられる演奏で楽しませてもらっています。

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