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2006年6月 6日 (火)

フジ子・ヘミング 「奇蹟のカンパネラ」

Fujiko_campanella
帰宅時に最寄の本屋で「ピアニストの名盤―50人のヴィルトゥオーゾを聴く 」(平凡社新書 本間 ひろむ 著)という本を見かけ、ざっと立ち読みしてみた。CDで入手できる第一次大戦前後のE.フィッシャーあたりから現代のファジル・サイあたりまで50人のピアニストを概観した手引き書だが、めずらしく、日本のピアニストとしてフジ子・ヘミングが取り上げられていたのが興味深かった。リンクしたアマゾンのユーザー評では、これに異論を唱えている人もいるが、ミーハー的、ワイドショー的に取り上げられることが多いためか、いわゆる正統的な音楽評論の対象となることの少ないフジ子・ヘミングについて、綺羅星のごとき大ピアニスト、名ピアニストと並べてどのような紹介をしているかが興味があった。技術的な面での批判と、このようなピアニストがもてはやされるようになった日本の音楽市場の成熟?のようなことが書かれていた。

ちょうど推薦のCDが、長野でのリサイタルの記念に妻が買ったベストセラーCDだったので、今晩改めて聞いてみた。

曲目は、リストの7曲とショパンの3曲。リストには他の演奏のCDがないので、単独で聴くことになるのだが、ショパンは、ルービンシュタインとポリーニにリファレンスになってもらった。まずは、ショパンのエチュードOp.25-1,25-7をポリーニの有名なエチュード集から聴いてみた。その次にフジ子・ヘミングの演奏を聴いたのだが、フジ子の演奏の方が好みだと感じた。

「エオリアンハープ」と呼ばれるOp.25-1は、素朴なメロディーをアルペジオ風の細かい和音が彩る形の練習曲で、ポリーニはさすがにその細かいアルペジオを一点一画ゆるがせにせず楷書で演奏するのだが、メロディーラインの魅力はフジ子・ヘミングの方に軍配があがるように思う。また、Op.25-7はゆったりとしたレントのメランコリックな曲でチェロのソロがレチタティーボ的に語るような表現の幅の広い曲想だが、これもポリーニのは激情的な部分も極度の洗練で精密に弾けているという以上のものはあまり感じないが、フジ子・ヘミングの訥弁の方に訴えかける力を感じる。それに、音色はポリーニの国内盤の再発CDの音質があまりよくないのもあり、フジ子の録音の方がピアノの音の魅力を感じる。確かにピアニシモからフォルテシモまでのいわゆるピアノのダイナミックスの幅は狭いかも知れない。さすがに夜想曲Op9-2はルービンシュタインに軍配か?

私は、どうもピアニストの上手い下手というのがよく分からない(オーケストラもそうだが)ようで、ケンプの演奏が下手と言われても、少しの指のもつれが感じられるくらいなのを下手と言うのだろうかと思ったり、ハンマークラフィーアのあの複雑怪奇なフーガを明瞭に構成しているように聞こえるのだが、そういうのを幻想的で自由きままな演奏というなのだろうかと思ったりしている。だから、どうもフジ子・ヘミングの上手い下手もよく分からないのかも知れない。

リストは、有名な「ラ・カンパネラ」はよく聞くと、非常にたどたどしい演奏ではあるのだが、このいわゆるbravuraな曲を超絶技巧の持ち主といわれるピアニストの演奏で何度となく聴いたが、あまり急速に演奏するとピアノの鳴り方も充分でなく、音響的にも不満が出てしまい満足したことはほとんどなかったが、このユニークな「ラ・カンパネラ」は、単なるアクロバットではなく、きちんとしたメッセージをもった曲を聴いたという感想を持たせてくれるような気がする。他のリストの曲も、それまでリストは騒々しくつまらないと思い勝ちだったが、フジ子・ヘミングの演奏で初めて面白いと思った曲(小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ)もあるほどで、彼女のリストをもっと聴いてみたい気がする。

P.S. 2006/10/3  BLOG 今日の音色♪の ピアニストの論評♪ に コメント欄で付記した 青柳いづみこ氏の「フジ子ヘミング」の演奏への正面切っての評論について書かれているのをYAHOO BLOG検索で見つけて、トラックバックを送らせてもらった。

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コメント

青柳いづみこ(ピアニスト&評論家)の 評論「進化するフジ子ヘミング」/「すばる」  2006年8月号

http://ondine-i.net/column/column148.html

が フジ子ヘミングを正面から取り上げていたのを発見した。

ピアニストとしても文筆家としても筆の立つ青柳氏がこのようにフジ子を評価しているのは、イロモノ扱いしている日本のクラシック音楽界への警鐘になるのではなかろうか?

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