アシュケナージについてのあれこれ
先日記事にしたアシュケナージについて調べたり、考えたりしてみた。
◆姓名:ヴラジーミル(外国語の発音と表記の話第39話)・アシュケナージ。
◆経歴など:ソ連時代のロシア生まれたピアニスト。後に指揮者。ショパンコンクール第2位(優勝は、ポーランド人のアダム・ハラシェビチ)、チャイコフスキーコンクール優勝(同じく優勝 イギリス人ジョン・オグドン)。
◆録音など:主にデッカレーベルに膨大な録音をしている。モーツァルト協奏曲全集、ベートーヴェンソナタ全集、同ピアノ協奏曲全集(ショルティ指揮CSO, メータ指揮VPO)、ショパンピアノ曲全集、シューマンピアノ曲全集、ラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチなどのほか、アンサンブルピアニストとしてもヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノトリオ、リートなどにも参加し、驚異的とも言える非常に膨大なレパートリーを誇っている大ピアニストである。(パールマンとのデュオはEMIレーベル、最近はEXTONレーベル。)
なお、私の持っているのはLPでは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とパガニーニバリエーション、パールマンとのフランクのVnソナタ。CDではショパンのソロ、シューマンのソロ、ラフマニノフのピアノ協奏曲、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(メータ)、最近入手したベートーヴェンの『三大ソナタ』。
◆指揮者としての活動:2004年9月から我が日本のNHK交響楽団の音楽監督を務める指揮者でもあり、(シャルル・デュトワ 常任 1996.9~1998.8 音楽監督 1998.9~2003.8 名誉音楽監督 2003.9~ ウラディーミル・アシュケナージ 音楽監督 2004.9~ )それまでの経歴も下記の通り立派な指揮者としてのキャリアになっている。個人的にはあのジョージ・セルのクリーヴランド管弦楽団をアシュケナージが客演して振ったというのが少々驚きではある(R.シュトラウスの「アルプス交響曲」と「ドン・ファン」のカップリングのCDしか所有していない)。
フィルハーモニア管弦楽団首席客演指揮者(1981-)
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督(1987-1994)
クリーヴランド管弦楽団首席客演指揮者(1988-1994)
ベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者(1989-2000)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者(1998-2003)
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ちなみに、このアシュケナージという姓は、ユダヤ系という出自の非常に複雑な背景を示唆している姓でもある。(参考:松岡正剛の千夜千冊「ユダヤ人とは誰か」,WKIPEDIA アシュケナジム)
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◆世界的に立派な評判を取っている大ピアニスト、著名指揮者なのだが、これまで特に彼のピアノ演奏録音とはどうも相性が合わずにいる。
そこでなぜ自分が違和感をいだくのかを自分なりに分析してみよう思った。アシュケナージとそのファンに異議を申し立てようというつもりはないので、記述には注意を払うつもり。
先日たまたまベートーヴェンの「月光」ソナタを聴いてみたくなり、その曲CDは数種類持っているのだが、別の演奏家のを聴きたいと思って、これまであまり聞く機会がなかったアシュケナージのCDがブックオフに出ていたので購入して聞いてみたのが、この雑文を書こうと思ったきっかけだった。
○ベートーヴェン
アシュケナージは、ピアニストとしてはベートーヴェンのソナタ全集を録音しており、ピアノ協奏曲全集も2度も録音するなど、現代のベートーヴェン弾きの一角を担っていることは周知の事実だ。前述のように特にショパンやロシアの作曲家の作品については世界的な評価を得ているのだが、以前から聴く機会があるたびにアシュケナージの音楽との相性はなぜか合わず、違和感を感じていた。多くのリスナーや評論家、ピアニストの絶賛を読んだり、聞いたりしてはいたことも、この違和感に拍車をかけることになった。(協奏曲は、先年メータ/VPO盤を入手して聞いてみたが割りと好感をもったのだが、その際もアシュケナージ的な音かどうかを気にしていた。)
ベートーヴェンでは「月光」に続き、楽譜(オピッツがNHKテレビでレッスンをしたときの楽譜)を見ながら、アシュケナージのベートーヴェンの「熱情」「悲愴」を聞いてみた。
先日も書いたが、「月光」の第1楽章のピアノの音色は、コツンコツンと何かに当たるような音が聞こえ、レガートで演奏されず、美しさを感じない。この楽章では滑らかなレガートが好みだ。思わせぶりな「ため」をところどころに入れるような解釈も気になる。曲の冒頭は、いかにも思わせぶりな大仰なゆっくりしたテンポから通常のテンポに入るのもどうかと思う。いわゆるロマンチックな解釈なのかも知れないが、しっくりこない。
「熱情」のフィナーレは、純粋に音響面からは、いわゆる音階的な急速なパッセージが弾かれるときに、運指のぎこちなさがあるのではと憶測されるような微妙な小さい瑕(間、継ぎ目)があるように聞こえる。後知恵だが、これは、下記に引用した、「ノンレガートでの音の不揃い」と同じことなのかも知れない。
「悲愴」は、比較的素直に弾いているようだが、冒頭のグラーヴェなどの和音の響きは物凄い迫力だ。
○ヴィルトゥオーゾ、素晴らしいピアノの音色
アシュケナージは一般に、ヴィルトゥオーゾと称されるほど多くの難曲を弾きこなし、その上音色が多彩で、美しい音のピアニストとされ、ピアノの教師や生徒のお手本になる演奏をすると言われている。ブログでもそのような感想、意見が多い。多くの愛好者、ピアノのプロが推薦している。実際私知人のピアノ講師もアシュケナージの音は美しいと褒めていた(が、その頃から違和感を感じていた。)吉田秀和氏も「世界のピアニスト」で、アシュケナージの「ハンマークラフィーア」やバッハのピアノ協奏曲のLPを例にとって、その音色の多彩さに言及し、少々留保付きだが、「すべてを黄金に変えるミダス王」、豊麗な美女のようだと称している。
○音色について
そのピアノの音色についての違和感。アシュケナージというピアニストのピアノの音色を好む人は、これ以上ないほどの美しさと称えるが、いまだに録音でこれは素晴らしいと感じた経験がない。硬質で透明なクリスタルのような音色が好きなので、アシュケナージの録音はにじんでいるように聞こえてしまう。 ロンドンレーベルのデ・ラローチャの録音でも同じような音色が聞こえるのでデッカの録音の特徴のひとつなのかもしれない。実演ではどうだ(だった)ろうか?
○演奏解釈、癖
アシュケナージの演奏解釈は模範的なものという評判が多いが、そうではない例もあるように思う。
▼『子どもの情景』
演奏技巧的に比較的容易なシューマンの「子どもの情景」の音盤をこのアシュケナージのほかにホロヴィッツ(RCA モノ)、ケンプ、アルゲリッチと所有しており、愛好曲なので聞き比べしてみることもあるのだが、一番好むのはケンプの録音。一般的に模範的な演奏といわれるアシュケナージの演奏がもっとも崩して(強弱やテンポの変化など)弾いているようだ。メロディーが低音に出る際の強調だとか、付点リズムの粘っこさ。ところどころに現れるリタルダンドなどのテンポの変化。楽譜にないようなスフォルツァンド。
▼ショパン
ショパンのバラード、スケルツォ集のCDは、音盤としてはこれしかなく、聞き比べしたことがないため、特徴を把握していない。
▼モーツァルト
彼の引き振りのモーツァルトのコンチェルトも絶賛記事を数多く読んだし、名盤リストなどでは20世紀末には必ずリストアップされていたものだが、どうもそのよさが分からない。モーツァルトのピアノ協奏曲は、特に優れた演奏でなくても楽しめるのに、この違和感は独特のものだ。
○ネットでのアシュケナージ評
ネットを探すと、いろいろ記事が多かった。
1.評価しているもの:
http://members.goo.ne.jp/home/14159265358
http://blog.goo.ne.jp/maruta_2005/e/c82e68c4d82c988f936d23e56e6cb6b7
2.比較的ニュートラルなもの:
http://homepage3.nifty.com/tsukimura/dialogue/miyamoto-dia02.html
http://www.happypianist.net/music/soho3.htm
3.辛口な批評:
①http://www10.plala.or.jp/frederic3/pianist/ashkenazy.html
「特に彼のピアノの最大の欠点と僕が思うのは、ノンレガートの音の不揃いとオクターブ連打等の強奏での歯切れの悪さです。緊迫感の欲しいところでその音楽の持つ密度が発散してしまう傾向があるのはそのためでしょう。」
→これについては、前述の「熱情」のフィナーレで同じ感じを抱いた。
② http://homepage3.nifty.com/masahiroclub/goroku5.htm
齋藤雅広
第一回 「アシュケナージに賛否両論・・・・・」
「アシュケナージはいつも弾んでいる。特に録音では音色感がすばらしく、女性には特に受けそうなナイーヴな色香もあると思う。」「不思議なのはあれだけの技術がありながら、付点リズムの重くまどろっこしいところ?」「もっともっと素晴らしい出来になってもいいのでは?と思わせるほどにアカぬけない」
:教育テレビのキーボーズでおなじみだったピアニスト齋藤雅広氏によるアシュケナージの新録音についてのエッセイからの抜書き。
:付点のリズムについては、「子供の情景」や「月光」で耳についていた部分。
:アカぬけなさについても、同じ「子供の情景」のケンプやアルゲリッチの洗練された演奏に比べると、
なんともアカ抜けなさを感じる。
③ピアノに関心の強いひとたちの掲示板(スレッド)から
http://www1.plala.or.jp/hide_pianist/pianobakabbs/9.html
163へのレス] 投稿者:****投稿日:1999/12/24(Fri) 23:03:04
「アシュケナージは透明な美しい音を持っていますが、批判の対象にされるのは表現がわざとらしいからでしょうか。自然体でいい演奏もありますが・・・。あと彼の場合極端に遅いテンポでねばねば弾くこともありますね。」
:「表現がわざとらしい」 (「透明な美しい音」は実演を聴けば分かるのかも知れない)
163へのレス] 投稿者:** 投稿日:1999/12/25(Sat) 02:07:32
「ちなみにアシュケナージに関しては、あの妙に音色のアタックの部分ばかりが際立っていて、極度に減衰の速い、独特の音色が生理的レベルで既に受け付けなくて、以下略です^_^;」
:「独特の音色」 このように感じる人もいるようだ。
163へのレス] 投稿者:***投稿日:1999/12/25(Sat) 02:37:07
「だから、アシュケナージの音って「彼の音」というよりは「デッカの音」かもしれません。こういう事は、「***」のHPの*さんが詳しいっす。」
:「デッカの音」ラローチャのCD「カルナヴァル」でもにじむような独特な音色を感じた。
④同じスレッドの別の部分
http://www1.plala.or.jp/hide_pianist/pianobakabbs/23.html
284へのレス] 投稿者:** 投稿日:2000/04/22(Sat) 00:11:38
「手が小さいアシュケナージなんかは立派な音をコントロールして出していますよね(CDではそう聞こえる)。でも彼の場合、横の流れを意識しすぎるあまり、リズムが歪になってしまって・・・・これって手の小ささの弊害?」
:「リズムが歪(いびつ)」 付点音符の独特の弾きかたもこれに通じるか?
④ 2CHから 「アシュケナージの すれ」
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138 名前: 名無しの笛の踊り 投稿日: 02/11/02 23:14 ID:r9uMQJUv
「アシュケナージにかぎらずロンドンレーベルの問題だと思うが....
CD(レコード)で、残響(エコー)が深くて短い、中音域が押し出される、もわ~っとした音(風呂場のエコー状態)になるのはなんで?
ショパンのノクターンなんか良いと思うけど、この音(録音)のせいで押し入れ行きだよ~
ショルティーも同じようだったなあ
アシュケナージもグラモフォンなら良かったのに......... 」
139 名前: 名無しの笛の踊り 投稿日: 02/11/03 11:18 ID:pFgHgO88
「アシュケナージはEXTON!!」
140 名前: 名無しの笛の踊り 投稿日: 02/11/03 17:08 ID:Z+ADQGbT
「>138
収録場所の問題か録音機材(マイク)の問題と思われ。 」
141 名前: 名無しの笛の踊り 投稿日: 02/11/03 17:19 ID:3u3lTn4I
「>>138
彼の演奏はどちらかというとグラモフォンよりフィリップス向きじゃないですかね。 」
:アシュケナージのピアノ録音についてのコメント。このような意見は少数ではあるが。その意味でアシュケナージのピアニストとしての最盛期に(指揮活動を始める前)実演で彼の演奏を聴いてみたかった。
○とりあえずのまとめ
検索結果をまとめてみると、アシュケナージについては、結構評価が分かれているようだ。もちろんどんな巨匠ピアニストでも、ある愛好家は絶賛し、別の愛好家はまったく無視をするというケースがあるのだから、これは決して異例なことではない。私が合わないのはアシュケナージだけではなく、ホロヴィッツにしても、多くのプロフェッショナルもしくはプロを目指すピアニストが虜になるという話を聴くが、私はどうも彼の音楽にあまり惹きつけられない方だから(セル/NYPとのチャイコフスキーの1番は素直に脱帽したが)。自分にとってはピアノ演奏や録音には結構相性的なものがあるようだというのが、とりあえずのまとめだ。また、自分の恥をさらすようではあるが、楽器それぞれの固有の音色については分かるがタッチによる音色の違いについての感受性が低いのかも知れない。
○余談:
ピアノの音色の多彩さの受容に関しては相当主観的な要素が強いようで、記憶はあいまいだが1978年頃だったの『芸術新潮』だったと思うのだが、ミケランジェリの有名なドビュッシーの前奏曲集第1巻のDG盤の発売直後の号では、七色の虹のような音色というものと、淡彩な墨絵のようだという両極端な評論記事を再度俎上に乗せた評論記事があったように記憶している。
ピアノの録音については、一時期のドイツグラモフォンのポリーニ、アルゲリッチ、ミケランジェリのソロの音がどれも素晴らしいと吉田秀和氏が書いていたことがあった。それらの共通する特徴は、私見ではいわゆる硬質で滲みのない音色だった。ピアノ録音のエンジニアによって、直接音、間接音、残響等々をどの割合でミックスするなどの操作が違うと思うが、それにより、オーディオから聞こえるピアノの音には違いが出るのだろう。もっとも、演奏者はプレイバックを聞いて、自分のピアノの音色と合っているかどうかをスタッフと話し合うのだろうから、その結果生まれた音盤の音はピアニスト公認ということにはなるのだろうが。
P.S. エレーナ・アシュケナージ は、ヴラジーミルの妹で、やはりピアニスト。日本の武蔵野音楽大学のピアノ科の客員教授も務めている。
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シモーネ・ヤングの記事と同じ新聞の新譜紹介に出ていたのだが、アシュケナージが「ディアベリ」変奏曲を録音して発売したという。評論家によると「あっけらかん」としているが大層面白い演奏だという。もっぱら指揮者としての活動が主なアシュケナージだが、一昨年だかには「平均律」全集も録音するなど、いわゆる鍵盤楽器音楽の至宝ともいうべき曲目にターゲットを絞っているのだろうか?
投稿: 望 岳人 | 2007年5月18日 (金) 09:35