アニメ映画『ゲド戦記』を見てきて
5月12日に「ファンタジー文学の映像化が相次ぐのは・・・ 『ゲド戦記』」で、映画化について懸念する立場から、少々厳しい目で見るだろうと書いた。
この夏一番の猛暑の中、その映画を今日家族と見に行ってきた。
出足は好調だったとネットニュースでは読んだが、神奈川県のベッドタウンのシネコンの映画室の入りはよくなかった。14時頃開始の回だったが、席の半分も埋まっていなかったのではないか。(もっともこのシネコンでは、2室の映画室をこの映画に当ていることも影響しているのかも知れないが)。
結論的に言うと、アニメ映画としては楽しめるものだが、原作の映画化という点では大変不満の残るものだった。およそ人気のある原作の映画化は、私が高校生の頃見た新田次郎原作の『八甲田山死の彷徨』にしても、今回の『ゲド戦記』と同じファンタジーであるミヒャエル・エンデの『はてしない物語』の映画化にしてもほとんどが、失望に終わることが多い。
以前、「見てから読むか、読んでから見るか」というキャッチコピーがはやったのを覚えているが、今回のアニメ映画は、まだ原作に触れていない子ども達は「すごく面白かった」と言い、私が購入した原作を読みファンになった妻は「まあままかな」という中立的な感想、そして私が「まあ面白かったが、原作に関係のあるのは登場人物だけで、それ以外はそれにインスパイアされたオリジナルストーリーで、『ゲド戦記』という名前を付けたのは適当ではなかったかも知れない」というものだった。
原作の映画化という点では前の記事でも書いたが、原作者ル=グウィンが、アニメ映画化をスタジオジブリの宮崎駿氏に託したというのだが、それを映画経験のない息子が台本・絵コンテを担当し監督したというのは、問題はなかったのだろうか?これほどまでのオリジナルなストーリーに日本の訳者 清水氏がいみじくもつけた『ゲドのいさおし』ならぬ『ゲド戦記』の名を冠してもよかったのだろうか?
また、アニメーション的には、さすがにスタジオジブリの背景画は素晴らしいと思わせる場面が多かったが、登場人物たちがその背景から浮いてしまうような明暗や陰翳のない彩色だったのは気になった点だった。要するに平面的だったのだ。
オリジナルストーリーは、原作の登場人物たちや重要な事件を上手く組み合わせてそれなりに原作のメッセージを伝えるものだったが、副題"Tales from Earthsea"を謳う割りには、ハブナーの王宮とワトホートのホートタウンを舞台にする程度で、原作の設定がもつ壮大さとは比較すべきもないところが不満を覚えた点だ。
ただ、映画のコマーシャルでも盛んに使われた素朴な『テルーの歌』や、アイルランドのケルト系の音楽を感じさせるBGMはなかなかよかった。アカペラ独唱の『テルーの歌』の場面では館内がシーンとなり、私自身相当じーんとしたのを書かないと不公平になってしまうだろう。
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