J.S.バッハ ミサ曲 ロ短調 ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ
J.S. バッハ(1685-1750)
ミサ曲 ロ短調 BWV232
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ
オランダ室内合唱団
スミス(S), チャンス(C-T), ファン・デル・メール(T), ファン・デル・カンプ(B) 〔1989年3月、オランダ ライヴ録音〕
この前の記事で、リコーダー奏者としてのフランス・ブリュッヘンについて書いたが、このCDはそのブリュッヘンが、自ら組織したピリオド楽器オーケストラ 『18世紀のオーケストラ』を指揮して演奏したJ.S. バッハの傑作『ロ短調ミサ』の録音である。この大曲を演奏する前に、すでにハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの交響曲といったヴィーン古典派の音楽に取り組み、指揮者として高い評価を得ていたブリュッヘンは、いまやリコーダー奏者としてより、指揮者としての方が有名になっている。
このオーケストラは、いわゆる古楽器(ピリオド楽器)を使っているが、その奏法はホグウッドやアルノンクール(アーノンクール)などに比べて我々現代人の耳にも奇異に感じないもののようで、耳になじみやすいのが特徴だ。これは、イギリス人のガーディナーやピノック、日本の鈴木雅明などと共通する特徴だと思う。また、ガーディナーがバロックの喜遊性、舞踊性を強調するように、ブリュッヘンの演奏にもリズミカルな躍動感が聴かれる。
ブリュッヘンの指揮によるこのミサ曲ロ短調の録音だが、カウンターテナーが担当するアルトパートの音色的な不調和が感覚的に気にはなるが、透明で刺激的過ぎないオーケストラの音色と快適なテンポによって、大作で近寄りがたいイメージのあるこのバッハのカトリック的な大ミサ曲が比較的親しみ易い音楽になっているように思える。それにも関わらず気品が失われているわけではなく、明朗で前向きな音楽になっている。
バッハの声楽曲の大曲といえば、カール・リヒターによる厳格で緊張感の高い「マタイ」や「ヨハネ」などの名演がまず第一に思い浮かび、めったに聴くことはないのだがたまにじっくり聴いたときの感銘は勝るものはほとんど無いほどなのだが、ブリュッヘンの演奏は同系統のガーディナーのものよりもこのリヒターに近い精神性の高さを感じさせてくれる。(主観的な感想だということは分かっているし、錯覚という可能性はあるのだが、高尚と俗というものはなぜか音楽から聞き取れるように思う)
このバッハの録音については、CD入手以来10年以上経つが年に一度くらいのペースで聞き続けている。最近まで、なかなか馴染めなかったのだが、最近ようやく曲そのものを楽しめるようになってきた。磯山雅氏の講談社新書の『J.S.バッハ』などではこの楽曲の十字架構造や音符と数字の対応の神秘学などが紹介されているが、キリスト教の信仰には縁のない私のような無宗教の日本人にとっても、そのような知的な興味が生じるのはもちろんのこと、荘厳、浄化、崇高という感情を引き起こされることは不思議だ。
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