シューマンとグリーグのピアノ協奏曲 ルプー、プレヴィン/LSO
シューマン ピアノ協奏曲イ短調 作品54
14:34/5:30/10:16
グリーグ ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
13:45/6:50/10:25
ラドゥ・ルプー( Radu Lupu) :ピアノ
アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団
〔1973年1月、6月、キングズウェイホール〕
ラドゥ・ルプーも名のみ知り、演奏を聴いたことのない演奏家の一人だったが、CDが入手できたので聴いてみた。
シューマンとグリーグのピアノ協奏曲は、同じイ短調で規模も同じ、グリーグのピアノ協奏曲自体がシューマンのそれに影響を受けたというような背景から、LP時代以来しばしばカップリングされた曲。
この曲をじっくり聴いたのは、リヒテルのピアノにマタチッチ指揮モンテカルロ国立歌劇場オーケストラの共演という超弩級とされるが一風変わった取り合わせの録音だった。今から思うと、音楽的スケールは巨大だが不器用で知られるマタチッチが、モンテカルロと言うあまり技量が優れていない小規模なオペラ座のオーケストラで、合わせにくいとされるシューマンとグリーグをよく振ったものだと思う。この録音、最近は聞いていないので細部がどうだったかは思い出せないが、リヒテルのピアノ中心の演奏だった印象がある。(リヒテルは、この時期EMIで、カルロス・クライバーの指揮で、ドヴォルザークのピアノ協奏曲も録音しているし、マゼールともブラームスを入れていた。)
その後、シューマンでは、リパッティとカラヤンの古典的な名演盤、比較的珍しいR.ゼルキンとオーマンディの共演盤を聞いてきた。アルゲリッチとアーノンクールの共演盤は比較的最近購入したのだが、第一楽章でアルゲリッチが気ままにテンポを揺らしすぎるのが気になり、第三楽章のノリの良さはいいのだが、全体としてあまり好印象が残らない演奏だった。また、グリーグは、R.ゼルキン盤に併録のアントルモンとオーマンディの共演盤を聴いてきたが、どうもいまいちの感があった。
ルプーとプレヴィンの共演盤は、ルプーのピアノの音色の素晴らしさ、細やかで強靭なテクニック、プレヴィン指揮のLSOの細部までゆるがせにせずに、比較的ピアノ偏重で演奏されるところのあるこれらの曲でしっかり音楽を担うオーケストラの見事さ、それに録音の透明感で、まだまだ有名な録音で聴いていないものは多いのだが、これまで聴いてきたこの2曲の録音の中ではトップクラスのものだと感じた。
ルプーのピアノは細部まで明瞭でこれほどクリアな演奏は聴いたことがなかったほどだ。それにも増して面白かったのは、プレヴィン指揮のロンドン響のオーケストラ演奏。シューマンでは、引き締まったティンパニやホルンの強奏など、シューマンのオーケストレーションから実に雄弁な音楽を作り出していたのには感心した。(このほかにプレヴィンのシューマンの録音はあまり見かけないが本人の志向が理由だろうか?交響曲をVPOやSKD,ゲバントハウスなどと録音すれば面白いと思うのだが。)
プレヴィンはデッカレーベルの伴奏指揮者としても1970年代に大活躍だったようで、アシュケナージとのラフマニノフや、チョン・キョンファとのシベリウスのCDを持ってはいるが、前者の少々曖昧模糊とした演奏、後者の協奏曲のフィナーレでのチューバの調子外れな音のテイクをそのまま残していることなどで、あまりいい印象を持っていなかったのだが、このルプーとの共演盤で印象がガラっと変わった。
グリーグでも、ルプーのピアノの見事さは、形容する言葉が見つからないほどだ。アシュケナージやラローチャのデッカ録音のピアノの音色云々と文句をつけてきたが、このルプーのまさにクリスタルのように透明で多彩な響きは凄い。そしてここでもプレヴィン/LSOのオケも雄弁だ。やはりピアノ偏重になりがちなこの曲だが、単なる伴奏ではなく、モチーフのソロとオケの受け渡しなどきちんと表現されているのが素晴らしい。オーボエの音色が多少独特なのと、第一楽章コーダのテンポが聴きなれたものより少々遅いのが気になった程度で、そのほかはまったく満足した。
ルプーに付けられた「千人に一人のリリシスト」というキャッチフレーズに抵抗があり、これまで聴く機会を逸してきたのだが、いつもながらの固定観念に足を引っ張られたことに反省させられた。
いつもお世話になっている『クラシック音楽のひとりごと』に同じ音源の シューマンのピアノ協奏曲 の記事を発見して、トラックバックを送らせてもらった。mozart1889さんも絶賛されている。
◆シューマン
・リパッティ、カラヤン/PO 〔1948/4/9&10〕 14:21/5:28/9:53
・R.ゼルキン、オーマンディ/フィラデルフィアO〔1964/3〕 14:53/5:20/10:32
・ルプー、プレヴィン/LSO〔1973〕 14:34/5:30/10:16
・アルゲリッチ、アーノンクール/ヨーロッパCO〔1992/7〕 14:24/5:13/9:56
◆グリーグ
・アントルモン、オーマンディ/フィラデルフィアO〔1958/2〕 12:13/6:00/9:29
・ルプー、プレヴィン/LSO〔1973〕 13:45/6:50/10:25
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» ラドゥ・ルプーの弾く シューマンのピアノ協奏曲 [クラシック音楽のひとりごと]
昼前後に雷雨。激しい雨が1時間ほど降ったので、午後から夕方は涼風が吹き抜けて気持ち良かった。久しぶりの雨だった。このくらい涼しくなれば、初秋を実感できます。
早朝に蜩の鳴き声。窓を開けて寝ているので、肌寒さを感じるようにもなりました。
静かに秋は来ております。
今日はシューマンのピアノ協奏曲。ラドゥ・ルプーのピアノ、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン響の演奏。1973年6月、ロンドンでの録音のDECCA原盤。
キングから発売されていたDECCAのLPが、日本での新会社ロンドン・レコードから... [続きを読む]
おはようございます。TBありがとうございました。
ルプーのこのレコードは、今も彼の代表盤ではないかと思っています。
音が綺麗で、隅々まで磨かれていて、大変抒情的な演奏だと思います。「千人にひとりのリリシスト」のコピーは有名ですが、まさにその通りだと初めて聴いたときから感じています。
グリーグもシューマンも、今もこの演奏が僕にとっては基準です。懐かしい名盤ですね。
投稿: mozart1889 | 2006年10月13日 (金) 04:48
mozart1889さん、コメント、トラックバックありがとうございました。
本当にいい録音を聞き逃していたものだと思いました。これまで聴かなかった録音にも縁があれば触れてみたいですね。
ルプーは、2001年にも来日しているようですが、最近はどうしているのでしょう。
投稿: 望 岳人 | 2006年10月13日 (金) 21:31