ジョスカン・デ・プレ ミサ『パンジェ・リングァ』 タリス・スコラーズ
ジョスカン・デ・プレ(c.1440-1521)
ミサ・パンジェ・リングァ (1539年出版)
グレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」がこのミサの前に歌われる
ミサ・ラソファレミ (1502出版)
タリス・スコラーズ ピーター・フィリップ指揮 〔1986年録音〕
ジョスカン(・デ・プレ)もやはりフランドル地方(その地方内の現在のフランス北部のサン・カンタンが生地だという)の出身で、フランドル楽派の最高峰として令名が高い。
1459-1474にはミラノでスフォルツァ家礼拝堂、1486-1499ローマで教皇礼拝堂に勤める。その後ミラノとフェラーラで過ごし、コンデで没。80歳を越える長寿をまっとうした。レオナルド・ダ・ビンチ(1452-1519)よりも少し年長だが、ミラノやローマで接触があったかも知れないと想像するのは面白い。
『ミサ・パンジェ・リングァ』は、皆川達夫『中世・ルネサンスの音楽』でも、吉田秀和『LP300選』でも絶賛されている。両書とも、このCDで録音されているこの曲をルネサンス音楽の典型、古来からジョスカンの最高傑作とされている、としている。
CDパンフレットのピーター・フィリップスの解説を読むと、やはり『ミサ・パンジェ・リングァ』はジョスカンの傑作のひとつとして広く認められているとある。ジョスカンの生涯の恐らく最後のミサ曲であるようだ。その高齢にしてこのような曲が書けたとは!
彼のミサ曲は、より後世のパレストリーナのミサに比べて、旋律の動きがより複雑(メリスマというのか?)で、浮遊感や飛翔感のようなものを感じさせる響きの明るさやリズムの軽快さがある。Sanctus&Benedicus"でのgloria tua" のソプラノとアルト(カウンターテナー)のデュエットなどはまさに天上の音楽という趣だ。このミサ曲では、自由な気分、解放された情緒が多分に感じられる。仏教的に言えば、解脱の境地とでも言えようか?
ジョスカンのミサで現存するものは20曲とも30曲とも言われるようだが、その中から「ラソファレミ」という音名が付けられたものも、このCDでは録音されている。こちらは、『パンジェ・リングァ』に比べては、前半はどちらかというと後世のパレストリーナを連想させる部分もあり、ジョスカン的な魅力に少し欠けるが、クレドなどの次々と各声部が模倣を繰り広げるのは素晴らしい。またSanctus&Benedictusの開始がゆったりと静謐な雰囲気で歌われるのもユニークで面白い。
なお、このCDは、古楽としては大変稀なことらしいが、英国『グラモフォン』誌のレコード・オブ・ザ・イヤーを受賞した録音で、それかあらぬか、このCDのパンフレットの上記の表紙には曲名、演奏者などがまったく印刷されていない。美麗な宗教画のみのパンフレット表紙だ。ただ、ヒンジ(?)の部分には"Gramophone Record of the Year" と誇らしげ?に印刷されている。
これとは別のCDだが、ジョスカンのモテット、四声の『アヴェ・マリア』は、タリス・スコラーズの『クリスマス・キャロルとモテット集』というCDに入っている。これが私のタリス・スコラーズ入門だ。同じCDに含まれる伝ビクトリア作曲の同名曲は混声合唱団で歌ったことがあり、このビクトリアのものと伝えられている曲も美しいが、ジョスカンはよりリズムが自由で(歌唱はより難しいだろうが)聴いていていっそう魅力を感じる。今度合唱をやるときには、是非ジョスカンを歌ってみたいものだ。
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