エルガー ヴァイオリン・ソナタ ミドリ(五嶋みどり)、マクドナルド
エルガー(1857-1934)
ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 作品82 (1918年完成)
7:47/8:03/9:32
〔1997年6月2日-4日 イングランド
スネイプ・モールティングズ・コンサート・ホールでの録音〕
10月23日のテレビドラマ『のだめカンタービレ』第2回も面白かった。
さて、私にとって漫画『のだめカンタービレ』に接しなければ恐らく聴く機会がほとんど無かった曲の筆頭が、このエルガーのヴァイオリン・ソナタだと思う。
エルガーと言えば、ポピュラーな『愛の挨拶』『威風堂々』、『エニグマ変奏曲』そして『チェロ協奏曲Op.85』あたりまでは親しいのだが、このようなヴァイオリン・ソナタがあることさえ知らなかった。この漫画はその曲を実に生き生きと魅力的に紹介してくれた。(第6巻の感想記事。)
この曲の録音は比較的少ないようで、HMVで検索してもこのミドリ盤以外にヴェンゲーロフ盤など数種類が現役であるだけ。ミドリ盤は、ソニークラシカルの名曲シリーズCDに含まれているので、最も入手しやすいところから、のだめ効果で結構売れたのではないかと思うがどうだろう。
千秋真一の母方の亡き祖父は実業家だったが、自らチェロも奏するクラシック音楽の大の愛好家で、エルガーの音楽をこよなく愛し、真一にもこのソナタをよくヴァイオリンで弾かせたという。祖父が家族に語ったという「古典的だろうと単純だろうと これがオレの音楽だ!」というエルガーの気持ち。なかなか作者二ノ宮知子さんの知識は深い。
このCDを入手してから何度か聴いているが、次第に親しめてきた。聞き込むにつれて段々味がでてくるようだ。
第1楽章アレグロは冒頭からフォーレ的な情熱を感じる。第2主題(第1主題部後半?)が特にメランコリックで美しい。
第2楽章ロマンス(アンダンテ)の主部は、シューマンのピアノ曲『森の情景』から『予言の鳥』を思わせる不思議な雰囲気の音楽。作曲者自身「森の音楽」と語ったという。そして中間部はしんみりとしたブラームスを思わせる曲想。そしてまた主部が戻る。
第3楽章アレグロ・ノン・トロッポは、息の長い旋律によるロマンチックな音楽。これもフォーレやブラームスを連想させる。高揚感とともに、後ろ髪を引かれるような雰囲気を漂わす。
ほぼ同時代のバルトークなどの前衛性に比べると、これは第1次大戦前後の時期の音楽ではなく19世紀ロマン派時代の音楽の範疇で時代錯誤の感がするが、そうかと言って退嬰的というのでもなく、前衛性・革新性だけが音楽の本質ではないということを示しているのかも知れない。
エルガーの演奏については比較の対象がないためあまり演奏の特徴が分からないのだが、特にヴァイオリンは、イングランド的な取り澄ましたものではなく、かといって、ロマンチック過ぎることなく、エルガー的中庸をうまく表現しているように感じる。
併録は、これもマイ・フェイバリッツの一つ フランクの ヴァイオリン・ソナタ イ長調 (6:37/8:24/7:38/6:40)
カップリングされたフランクのヴァイオリン・ソナタは、これまでいくつかの演奏を楽しんできたので、それらとの比較で分かるのだが、ミドリのヴァイオリンはさすがに冴えている。音も磨かれていて美しく、不安定な部分はまったくない。ただ、フランス系の微妙な浮揚感のある演奏に比べて、音楽のつくりが優等生的に生真面目で、いわゆる微妙な部分が聞き取れないように感じる。第1楽章などポルタメント的な濃い表情もつけるのだが、どうも曲とかみ合わない。これは、ミドリとの共演が長いロバート・マクドナルドのピアノについても言えるようだ。
なお、スネイプ・モールティングズは、ロストロポーヴィチとブリテンがシューベルトのアルペジオーネ・ソナタを録音した場所で、デッカは、ブリテンの録音によく使ったのだという。
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