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2006年10月28日 (土)

モーツァルトの弦楽四重奏曲 ABQ

Mozart_sq1423_abq モーツァルト 弦楽四重奏曲第14番-第23番

アルバン・ベルク四重奏団(初期メンバー)

第1Vn: ピヒラー 第2Vn: メッツル、シュルツ(K.458,K421b)、ヴィオラ:バイエルル、チェロ:エルベン
〔1975-1978年 ヴィーン、テルデック・スタジオでの録音〕


モーツァルトの弦楽四重奏曲と言えば、第一に思い出されるのはハイドンに献呈された6曲のハイドンセットだろう。

第14番ト長調K.387
第15番ニ短調K.417b
第16番変ホ長調K.421b
第17番変ロ長調K.458(『狩』)
第18番イ長調K.464
第19番ハ長調K.465(『不協和音』)

楽譜に書きおろす前に頭の中ではすっかり全曲が出来上がっていて、ゲームやおしゃべりをしながら清書としての記譜するだけだったというモーツァルトにして、苦吟の跡がが書簡からも自筆譜からも読み取れるという作品がこれらで、いずれも非常に綿密な書法によっていながらも自然な流れを保ち、またいずれも個性的でありながらもそれぞれがモーツァルトの音楽を象徴するものになっている事実はすごいことだと思う。これらの曲が初演されたハイドンと父レオポルトを招いての内輪の演奏会も音楽史的には大事件だったと思う。

ハイドンセットの傑作ぶりを改めて言挙げする余地はないのでこれくらいにして1770年モーツァルト14歳の年に確かイタリア旅行中に書かれた彼の最初の弦楽四重奏曲K.80(73f)の第1番ト長調について少々。この曲を中学生の時か高校生の時か忘れたが、FM放送で聴いたときの衝撃を今でもときおり思い出す。夜何気なしに付けたステレオのスピーカーから非常に透明で美しい音楽が流れ出し聞き入った。音楽が終わった後で曲名が紹介されたが、それがこのモーツァルトの少年時代の曲だった。今聞いてみれば比較的単純な曲だとは思うのだが、それでもやはり非常に魅力的な音楽だと思う。モーツァルトの初期の多くの曲で驚かされるのはその年齢だけだとは言う辛口の批評があるようだが(そうは言っても孤児院ミサなどは奇跡的ではないかと思うのだが)、この第1四重奏曲はまさに若き天才の音楽だと思う。この中には後年のフルートとハープのための協奏曲の第2楽章を連想させるメロディーが登場するのも面白い。(ジュピター音型などはモーツァルトの固執低音のように生涯にわたって顔を出すのだが、あれだけの記憶力の天才が以前作った自分の曲にあまり似ていない多彩な曲を作りえたというのは逆に凄いことだと思う。)

さて、写真のCDは、アルバン・ベルク四重奏団がハイドンセット6曲、ホフマイスター(第20番,K.499 ニ長調)、晩年のプロシャ王セット3曲(第21番ニ長調K.575、第22番変ロ長調K.589、第23番ヘ長調K.590)の全10曲を録音したもので、初期メンバーによる演奏になっている。残念ながら『狩』の第2楽章の第1ヴァイオリンの音程が素人の耳に分かるほど乱れているようなテイクも含まれており、完璧な出来とは言えない部分もあるが、全体として小気味よい演奏が楽しめる。中ではハイドンセット第1番のト長調が曲、演奏とも素晴らしいと思う。特に、終楽章の『ジュピター』交響曲を先取りするかのような対位法的な楽章は一度聴いたら忘れられない。大げさな言い方をすれば、神品とでもたたえるべき曲だと思う。

先に書いたハイドンのエルデーディセットなどは、このモーツァルトのものよりもはるかに後年に書かれたのだが、弦楽四重奏様式の確立者ハイドンの物堅さの表れだろうか、このハイドンセットほど自由闊達ではないようだ。また、ベートーヴェンの作品18の6曲セットも、ベートヴェンの個性は表れているものの、魅力の面ではモーツァルトの特にハイドンセットの後塵を拝するだろう。

ただ、第7番のラズモフスキー第1番での、エロイカ的、チェロソナタ第3番的な飛躍以後の弦楽四重奏曲の世界は、モーツァルト、ハイドンの世界とは相当隔たってしまったようだ。モーツァルトの音楽は、そのような意味でも後世の音楽とは隔絶しているのかも知れない。

ABQを実演で聴いたのは、確か1981年頃だったと思う。ベルクの叙情組曲がプログラムの中心に入っていたが、鑑賞というには程遠かった。その他のプログラムが何だったか、調べればわかるのだろうが、今でも思い出すのは、アンコールにやってくれたモーツァルトのニ短調のメヌエットだ。

実家においてある小学館=フィリップスのモーツァルト全集の弦楽四重奏曲は、イタリア弦楽四重奏団の録音。初期から晩年まで歌心に溢れた美しい響きの演奏を楽しむことができる。(こう書いているとまた聴きたくなってしまう。)

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