ブルックナー 交響曲第9番 ブロムシュテット/ゲヴァントハウス管
アントン・ブルックナー Anton Bruckner (1824-1896)
交響曲第9番 ニ短調
ヘルベルト・ブロムシュテット Herbert Blomstedt 指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
Gewandhaus Orchester, Leibzig
Ⅰ- 24:43 Ⅱ- 10:07 Ⅲ- 25:28
〔1995年1月、ライプツィヒ、ゲヴァントハウスでの録音〕
『のだめカンタービレ』の原作にもテレビドラマにも登場しない作曲家は、結構いるけれども、恐らくブルックナーは登場しない最右翼ではないかと予想する。
なぜか女性でブルックナー好きは非常に少ないようだ。本当になぜか。もともとブルックナーは長い間ドイツ・オーストリア圏以外ではほとんど演奏されたり聴かれたりすることのなかった作曲家だったらしい。しかし、いまや世界的にみても人気作曲家の一人であり、ドイツ三大Bとしてブラームスの代わりにブルックナーを入れる向きもあるほどだという。
ところで、少々極端な話だが、現在名を残している作曲家の多くが天才と言われるある特定の分野に異常な才能を発揮した人物だが、それらの天才には、今でいう広汎性発達障害(アスペルガー症候群、高機能性自閉症なども含む)と言われる精神的な特徴を持つ人物が(多いとは言わなくとも)少なくなかったようだ。彼らはいわゆる対人関係(とりわけその場の空気を読むということなど)を苦手としているが、ある特定の分野については、尋常でない興味・関心を示し、また実際に常人ではなしえないような着想、発想、構想や集中力、記憶力を持つこともあるようだ。その広汎性発達障害を持つ比率は圧倒的に男性の方が多いという。
伝えられるエピソードから、大作曲家の中では、ブルックナーは多少なりともこの性質を持っていたように思われる。浜辺の砂粒(河原の石?)を数えようとしたという逸話や、自作への限りないほどの改訂癖、そして乱暴な言い方を用いれば、交響曲の形式と内容的には、その他の交響曲作家と異なり、どの交響曲もいわば金太郎飴的な類似性を持ち、それを深化させようとする追求をやめなかった点など。
自閉症などについては今ではテレビドラマでも取り上げられるなど相当社会の理解も広くはなってきてはいるとはいえ、人付き合いが苦手ゆえに変人とみられがちだ。しかし偉大な仕事もする可能性のあるそのような性質を、現代社会は未だに矯めたり差別したりしがちでもある。このような性質を受容できるかどうかは、社会の成熟を測る一つの試金石であるかも知れない。(この辺りは、非常にデリケートな問題だが、いわゆるいわゆる広汎性発達障害によく見られる「空気を読める、読めない」、「社会性がある、なし」についてはこのブログが的確なことを書いている。また、実際ブルックナーをそのような例として取り上げた精神医学の普及書もあるようだ。高度に社会化しすぎた現代社会ゆえに余計そのような特徴が病的だとしてクローズアップされがちなのかも知れない)。
そのブルックナーが残した未完の大作がこの交響曲第9番 ニ短調だが、奇しくもベートーヴェンの第九と同じ調性を取っている。
ブロムシュテットは、ドレスデン・シュターツカペレ(SKD)の常任指揮者時代からブルックナーの演奏に定評があったが、このCDは、2005年にも同じコンビで来日した名門ライプツィヒ・ゲヴァントハウスGewandhausorchester Leipzig との録音である。1990年代からブロムシュテットがすでにこのオーケストラの常任指揮者だったということをまったく知らなかった。そしてつい昨年の2005年秋にはシャイーがこのオケの常任になったのだという。
ハイティンクの場合、SKDの後シカゴ響に就任したとも聞くが、この辺の事情にはすっかり疎くなってしまった。大物指揮者と名門オーケストラの門出でも(ボストン響とレヴァインも同じだが)20世紀のように新録音で披露されることがあまりなくなったことも大きいように思う。いまや誰がどこにいるのかよく知らない。
ともあれ、メンデルスゾーンが指揮した名門で、シューマンとも関係が深く、その後もニキシュ、フルトヴェングラー(この時代にミュンシュがコンサートマスター)、ワルター、アーベントロート、コンヴィチュニー、ノイマン、マズア等が指揮してきたが、あまりブルックナーとの縁はなかったのではなかろうか?(マズア時代があまり評判がよくなかったこともあるかも知れない)
前置きが長くなったが、ブルックナーの最高傑作とされる第9番は、これまで音盤としては、ショルティ指揮シカゴ響の録音しか聞いたことがなく、あまりよく知っている曲とはいえない。ブルックナーを得意としているブロムシュテットと、かつての名門ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によるこの曲だが、デッカレーベルの最新録音でも、このオーケストラの音色はややくすんだものに聞こえる。同じ旧東ドイツの名門と言ってもシュターツ・カペレ・ドレスデンの衰えを知らない管楽器のソロとアンサンブルと独特な音色に比べると、残念ながら一聴してすぐに魅力にとらわれるというものではないようだ。
それでも、聴いているうちに、ヴィーンフィルやベルリンフィル、ドレスデンやシカゴ、コンセルトヘボウ、クリーヴランドのような洗練されたオケによるブルックナーもいいが、このオケによるブルックナーは噛み続けると味が出るような感じで、この音色的には質朴な音楽も悪くはないとも感じられてくる。
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コメント
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オーストラリア出身の女性指揮者 シモーネ・ヤングが指揮したブルックナーの何番かの交響曲のCDが発売されたと、昨日の夕刊に出ていた。評論家によれば「女性的な演奏」だという。
ヤングはヴィーン・シュターツ・オーパーの常連指揮者で、相当の実力者だが、この本稿に書いたように、女性とブルックナーの相性ということを考えていたので、そのCDには興味がある。
投稿: 望 岳人 | 2007年5月18日 (金) 09:22
はじめまして、くすのきと申します。
のだめカンタービレの大ファンで
主人がクラシックマニアです。
ちなみに我が家は全員発達障碍で
私がADHD 主人と子ども達がアスペルガーです。
その関係で ブルックナーの砂粒の話を
主人から聞いていたので今日いろいろ検索しているうちに
こちらに参りました。
是非 アドレスを私のブログhttp://blogs.yahoo.co.jp/hirameki_7で
ご紹介させてください。
宜しくお願いします。
投稿: くすのき | 2008年1月14日 (月) 10:12
くすのきさん、コメントと拙BLOGの記事の紹介をありがとうございます。
ブルックナーは、伝記的にも非常に個性的な人物であったらしく、心理学や精神医学面から近年光が当てられていると聞きました。
「障害」とは個性の一種ではないかと思っておりますが、それでもその個性の広がりがどこまで許容されるかどうか時代や社会によってなかなか難しいものがあるように感じております。自分自身対人関係がそれほど得意ではないので(立食パーティーなど最も苦手な部類です)、対人的な部分には興味関心があります。
これからもどうぞよろしくお願いします。
投稿: 望 岳人 | 2008年1月14日 (月) 18:42