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2006年11月 6日 (月)

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』を聴く

リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』作品28
(昔話の悪漢物語による大管弦楽のためのロンド)

1.ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 14:22 〔1957年3月29日〕
Rstrauss_szell_clo



2.カール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  15:12〔1958?〕
Rstrauss_boehm_bpo



3.ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 15:30〔1972年12月〕Rstrauss_karajan_bpo



4.ウラジーミル・アシュケナージ指揮クリーヴランド管弦楽団 14:25〔1988年〕
Rstrauss_ashkenazy_clo



『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』は、R.シュトラウスの交響詩の中では比較的短く『ドン・ファン』と並んでフィルアップ的に収録されるため、何種類かの録音が集まったので聴き比べをしてみた。(2003年12月にもベーム以外は聞き比べてみたことがあるがそのときと印象が違うのはどうにも・・・)

たまたま、オーケストラは、クリーヴランドOとBPOといういわゆるヴィルトゥオーゾオーケストラの競演となった。また、ジョージ・セル、カール・ベームとも大作曲家兼大指揮者だったリヒャルト・シュトラウスの指揮の弟子にあたり、その録音時期も近いためその演奏解釈の違いも聞きどころだ。特にセルの場合には、渡米後もR.シュトラウスから「セル博士は、まだ私の『ティル』を暗譜で指揮していますか?」というような書簡が知人宛に届いたほどだったというので、R.シュトラウスにとってもセルにとってもこの『ティル』は特別な曲だったということが伺われる。また、ベームは独墺人として、戦前から戦後までR.シュトラウスとの直接の師事関係は途切れず、『無口な女』、『ダフネ』(ベームに献呈された)の初演まで行うほどだった。

さて、順番に聴いてみよう。1,2は、1950年代末のステレオ録音最初期のものだが、特に不自然なプレゼンスはない。

1.この四つの録音の中で最もテンポが速い演奏ということがセル/クリーヴランドO.の演奏を象徴する。とにかく歯切れがよい。このテンポ設定はR.シュトラウス自身の指揮自体が即物的と言えるほど端正なものだったというのでその影響もあるのだろうが、細かい場面の描写は同じCDのメインの曲目『ドン・キホーテ』でも聞かれるような目覚しさがこの曲でも表れている。セルは、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなど純音楽の表現では、微妙なニュアンスはたっぷりあり、リズミックではあるものの、一般的には謹厳実直な音楽を作るというイメージがあるのだが、『ハーリ・ヤーノシュ』や『ティル』『ドン・キホーテ』のような標題音楽では非常に鮮やかな映像的と言えるほどの表現を見せてくれるのが凄いと思う。

2.1950年代末から1960年代のベーム/BPOと言えば、ブラームスの交響曲第1番の非常に引き締まった録音を残し、またモーツァルトの交響曲全集を録音するなど、カラヤンの音楽監督下のBPOではあったが、良好な関係を築いていたようだ。この録音も古い録音とは思えないほど明瞭な音が録られており、ホールトーンも豊かなので非常に聞きやすい。また、ベームの指揮も非常に燃焼度が高い。しかし他の演奏と比べると、描写性はそれほど強くない。どちらかと言えば大管弦楽によるロンドという純音楽的な表現の方に力点を置いているように思える。

3. ベームと同じベルリン・フィルによる演奏。1970年代のこのコンビはまさに飛ぶ鳥を落とすがごとき勢いだった。このようなオケの音の厚みは、2のベームにはあったが、特に1のセル盤では聞かれないもの。セル盤の奏者の演奏にも瑕はないのだが、余裕の面で比べるとBPOの方が上かという気もする。カラヤンは音楽的表現の多彩さと豊麗な音響の追求に力点を置くようで、部分部分の音響の凄さには酔わされるのだが、描写の迫真性ではセルの方に一日の長があるように思う。

4. セルが永遠に去った後、相当経ってからアシュケナージは首席客演指揮者としてこのクリーヴランド管弦楽団をよく指揮していた。この演奏のタイミングは、セルの残した録音とほとんど同タイミングで相当速い。定評あるデッカ録音でかつディジタルだけあり、細部のピントがさらにあった感じがする録音となっている。アシュケナージは、オーケストラ演奏の中では難曲に属するこの曲を上手くまとめてはいると思うが、セルの指揮に比べると、この音楽に対する必然性や思い入れのようなものが希薄なのだろうか、音楽の勢いのようなものが感じられない。畳み掛けるような音楽の迫力が少し不足している感がある。

ところで、漫画『のだめカンタービレ』では、この曲は、千秋とR☆Sオケとの思い出の曲目でもあり、千秋のプラティニコンクールでの課題曲として重要な役割を果たしているが、いざこのようにじっくり聞き比べてみると、オケの多くの楽器にとってもソリスティックな難技巧を要求され、場面場面の描き分け、場面転換の鮮やかさ、アンサンブルの難しさなどが山積しているため、大変な曲だということが分かった。特に、ホルンのヨアヒム(パガニーニ?)と言われた名ホルン奏者を父に持ったR.シュトラウスだけあり、ホルンはティルの主題を担いその活躍は目覚しいので、それを思うとあのコンクールのウィルトゥールオケのホルン奏者はつらかっただろう^_^;

追記:2008/1/9 セルの同じ録音を取り上げられている電網郊外散歩道さんの早寝・早起きと「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」 記事にトラックバックさせていただいた。クレンペラーのR.シュトラウス曲集は年末にBookoffで見かけたのだが、先日確認したら売れてしまっていた。惜しいことをした。

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コメント

私にとって、ティルといえばセルというくらいで、もう刷り込み状態です(^_^)/
ただ、カラヤンのような、豊麗なリヒャルト・シュトラウスというのも興味がありますね。近代オーケストラ音楽の花園に咲いたあざやかな大輪のオニゲシ、といった感じでしょうか(^_^)/

narkejpさん、こちらにもコメントありがとうございます。

最近、気に入りの曲で聞き比べのできるものを集めて比較感想文をいくつか試みておりますが、なかなか集中力を保つのが難しく、今回の感想文も、本文に書きましたが、約3年前の感想とは自分の感想ながらブレが出ていて内心忸怩たる思いです。

セルの録音については言うまでもありませんが、カラヤンもR.シュトラウスはオーケストラ作品もオペラ・楽劇も得意のレパートリーとしており、聴き応えは十分過ぎるほどあります。花園の比喩はさすがですね。絵画にたとえると、晩年のルノワールではありませんが、少々豊麗過ぎる美女という趣でしょうか。

望さん、おはようございます。
カラヤン/BPOの演奏でTBさせていただきました。
この頃は、高校生の吹奏楽部でも平気でこの曲を演奏します。難曲だと思うのですが、大したもんです。
アシュケナージのR・シュトラウス演奏も楽しめました。ボクは好きです。録音が素晴らしいですね。

mozartさん、コメント、トラックバックありがとうございます。

カラヤンの『ティル』の記事拝見しました。

高校生の吹奏楽部がこの難曲を演奏してしまうとは凄い時代になったものですね。そう言われてみれば、子ども達が通っている小学校のマーチングバンドも「朝練」の成果か、リズム、音程的にもしっかりしていて大したものですから、そういう子たちが成長していけば、そうなるのも自然なのかも知れませんね。日本のために祝典序曲を作曲したことのあるR.シュトラウスが、もしそんな子ども達の演奏を聞けたとしたらどんな感想を持つか、想像するのも愉快ですね。

トラックバックをありがとうございます。また、当方の日々の徒然のような記事をご紹介いただき、ありがとうございます。この「ティル」や「ドン・キホーテ」をはじめ、R.シュトラウスにはけっこう面白い作品が多いですね。

narkejpさん、以前この記事にコメントをいただいていたのに再度コメントをいただき恐縮です。またトラックバックもありがとうございます。

R.シュトラウスの交響詩は結構面白いですね。『ドン・ファン』など私にとっては格好のいい音楽の典型です。

吉田秀和氏の著作では、彼が初めて渡欧した時に一番面白かったのは、R.シュトラウスのやはり数多いオペラだったと書かれていますので、『薔薇の騎士』あたりから挑戦していますが、自分にとってはまだまだ手に(耳に)余る感じですので、まずは楽しめる交響詩を聴いて、書ける感想がでてきたら少し綴っていきたいと思っています。

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