ルービンシュタインの『クライスレリアーナ』
ロベルト・シューマン(1810-1856)
クライスレリアーナ Kreisleriana 作品16
アルトゥール・ルービンシュタイン Artur Rubinstein
〔1964年12月28日、29日 ニューヨーク、カーネギー・ホール〕
先日のケンプの『クライスレリアーナ』に続いて。
このCDは、今年の春先に購入したもの。『カルナヴァル(謝肉祭)』などがカップリングされていて、むしろ『カルナヴァル』を聞きたくて求めたものだった。(中沖さんというピアニストのサイトでユニークな解説を見つけた)。自分の中ではルービンシュタインというと、ショパンや華やかな協奏曲というイメージが強く、この大ピアニストのシューマンの演奏はどんなものだったのかという興味もあった。
先日のショパン対シューマンではないが、ピアニストにはショパンはよく弾くのにシューマンを敬遠する人も結構いるように思う。しかし、この19世紀生まれの大ピアニストは、ベートーヴェンもブラームスもチャイコフスキーもラフマニノフもそしてシューマンもレパートリーにしていたし、シューベルトも少しは弾いたようだ。現代音楽でもポーランド出身のシマノフスキの演奏などを試みたこともあったらしい。何よりもホロヴィッツと並び賞された20世紀のピアノの巨人だった。
今晩は、この曲の楽譜を見ながらルービンシュタインの演奏を聴いてみた。この IMSLPというページは、Wikiプロジェクトの一環らしく、いろいろな楽譜をpdfで参照することができるようになっている優れもののサイトだ。
シューマンのこの曲は、聴き始めてから次第に集中力が散漫になり、最後にまた復活するというような聞き方をしていたが、今回はさすがに最初から最後まで集中して聞きとおせた。とても初見では弾けないほどのシューマンのピアノ手法がよく見て取れる。リズムは、第1曲から楽譜の拍子記号と食い違うもの(ヘミオラとは違うようだ。ヘミオラは3拍子->2拍子、2拍子->3拍子のことで『ライン』の冒頭など)続き(アクセントとタイによるシンコペーション。整理すればもう少し整然とした記譜が可能のようにも思えるが、混沌のように見える規律がシューマンの本領だったのだろうか)だし、右手と左手が入り組んでいるし、確かに非常に人工的な印象を受ける譜面だが、音楽だけを聴くとそのような複雑さが見えず、情緒的な音楽に聞こえるのが不思議だ。
ここでは、ルービンシュタインは、楽譜のリピート指示もきちんと守り、持ち前の安定した技巧により、相当面倒そうなパッセージも難なく切り抜け、全体として焦燥感や滾る熱情というような高揚した情緒よりも、酸いも甘いもかみ分けた大人らしい穏やかな感情を平静な口調で語りかけるような演奏になっている。先のケンプがシューマンに知的に一体化しようとしていたのに対して、ルービンシュタインはより客観的な態度で、この曲を筋の通った音楽として聞かせてくれるようだ。
追記:2008/02/09
*『クライスレリアーナ』の記事とタイミング
ホロヴィッツ (1)2:34 (2)7:01 (3)3:35 (4)3:19 (5)3:20 (6)3:55 (7)2:14 (8)3:38
ブレンデル (1)2:44 (2)8:06 (3)4:39 (4)3:58 (5)2:57 (6)4:16 (7)2:07 (8)3:21
アルゲリッチ (1)2:35 (2)9:40 (3)4:32 (4)3:54 (5)3:08 (6)4:11 (7)2:06 (8)3:27
ルービンシュタイン(1)2:56 (2)8:53 (3)4:41 (4)3:12 (5)3:19 (6)3:37 (7)2:19 (8)3:57
ケンプ (1)2:45 (2)7:40 (3)3:46 (4)3:45 (5)3:29 (6)4:15 (7)2:25 (8)3:40
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コメント
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楽譜のプロジェクトのページ、たいへん興味深く見ました。こんなプロジェクトがあるのですね。驚くとともに、ありうることだなぁと思いました。これもインターネットの時代ならでは、でしょうね。
シューマンの「クライスレリアーナ」、ただいまアラウの演奏(CD)で聞いております。
投稿: narkejp | 2006年11月23日 (木) 07:45
narkejpさん、コメントありがとうございました。
偶然見つけたのですが、なかなかすごいサイトだと思います。20世紀の作品も数は多くないですが、見ることができますし、今話題のリスト編曲のベートーヴェンの交響曲全曲もアップロードされておりました。今回の『クライスレリアーナ』もpdfでダウンロードしたものをPC画面に表示させながら、CDを聴きましたが、面白かったです。
アラウは滋味溢れる演奏というイメージですね。アシュケナージ、ブレンデル、ホロヴィッツ、コルトーあたりも聴いてみたいと思っております。
投稿: 望 岳人 | 2006年11月23日 (木) 09:37