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2007年6月 2日 (土)

エルンスト・ヘフリガーを偲んでバッハの受難曲を聴く

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この3月17日に、テノール歌手のエルンスト・ヘフリガーが亡くなった。87歳だったという。朝日新聞の追悼記事によると、彼は草津の国際音楽祭にもたびたび来日しており、たいへんな親日家だったという。この機会にそれを知って意外の感に捉われた。

というのも、私にとっては、ヘフリガーの名は、リヒターの指揮するマタイ受難曲、ヨハネ受難曲などのバッハの宗教曲と切り離せず、特にマタイとヨハネのエヴァンゲリスト(福音史家:つまり、マタイ福音書、ヨハネ福音書を記した人物が書いた聖書の地の文を歌う役割の歌い手)は、彼しかいないというように思い込んでいたからだ。勿論シュライヤーやその他の多くのテノール歌手がこの大役を歌ってはいるのだが、ヘフリガーの歌唱は、まことに敬虔で誠実な表現と美しく伸びやかな声で、これらの受難劇を心に染みとおるように歌ってくれたものだった。

受難曲やレクィエムなどを、日本で仏教のお経や神道の祝詞を録音として気軽に聴けないという意識と同じく、キリスト教の宗教曲として意識的に考えるようになりつつあり、いわゆる普遍的と考えられてきた泰西名曲としてのクラシック音楽として気軽に聴けなくなってからは相当経つのだが、それでもやはり、宗教性を離れて人間達(特に異教徒である群集や少々頼りない弟子達)に感情移入をして聞くことは時々ある。

ヘフリガーの歌唱だけが素晴らしいのではないが、この2枚はそのような非宗教的な聴き方をしても、信頼と裏切り、衆愚のおろかさ、支配者・権力者の責任逃れという普遍性のあるドラマとして、このリヒターの今から50年近く前の古いスタジオ録音は、素晴らしいものだと思う。ヘフリガーはその当時まだ30歳代後半だったのだろう、非常に若々しく、高音などよくファルセット的でなく、しっかりした芯のある声で歌えるなといつも感心するほど歌唱的にも見事なものだ。ヘフリガーの名は、この名盤とともに長く語り継がれていくものと思う。

遅ればせながら、その音楽に感謝を捧げたい。

前に書いたような理由で、これらの曲について安易なコメントは残せない気分で、ついつい記事にするのが遅れてしまった。

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