J.S.バッハ 『フランス組曲』 グールドとドレフュス
全6曲 グレン・グールド(ピアノ)&フランス風序曲
第1番ニ長調 BWV812
第2番ハ短調 BWV813
第3番ロ短調 BWV814
第4番変ホ長調 BWV815
第5番ト長調 BWV816
第6番ホ長調 BWV817
フランス風序曲 BWV831
(CBS SONY 56DC 153~4)
第1,3,5番 ユゲット・ドレフュス
(チェンバロ=クラヴサン=ハープシコード)
〔1972年5月、10月 パリ〕
1754年 アンリ・エムシュ製作のチェンバロ使用
バッハには、独奏クラヴィアのための曲集は、何曲もある。初心者が必ず取り組みなかなか卒業できない『インヴェンションとシンフォニア(2声と3声のインヴェンション)』に始まり、体系的な『平均律クラヴィーア曲集』全2巻に加えて、各曲に舞曲名が付けられた『イギリス組曲』『パルティータ』、そしてこの『フランス組曲』が主なところだろう。
この『フランス組曲』は、バッハの二人目の妻、アンナ・マグダレーナの楽譜帳に収められたもので、それ以外の曲に比べて、女性的な優美さが感じられるものだ。全6曲のなかでは第6番が優れた作品だとされるようだが、私が好むのは第5番。非常に細やかで優美な音楽が奏でられる。
学生時代は、このグールドの録音をエアチェックしたものを何度も聞き、ピアノ譜まで購入して、つまびきながら何とか弾こうと努力したほどだった。その後、ドレフュスのチェンバロによる演奏ミュージックテープで楽しんだ(下宿、アパートにはLPプレーヤーを置いてなかったのだ)。
このグールドの『フランス組曲』は、イギリス組曲や、パルティータに比べて比較的音の数の少ないこの曲集を、軽々とというのか易々と弾いている。特にアップテンポの楽章などは唖然とするほどの速さで疾走する。その一方、ゆっくりしたサラバンドなどでは逆にピアノの音価をペダルで保つことは「当然」せずに、逆にポツリポツリと間が開くのも気にせずに不思議な音楽を提示する。また、快活な舞曲では歯切れのよい対位法の走句も効果的で聴き応えがある。決して、『フランス』という名から連想する一般的な優美さはないが、非常にデリケートでセンシティブな演奏だと感じる。
私が特に好む第5番 ト長調は他の組曲と同様、舞曲名のついた複数の楽章からなっている。
1.アルマンド/2.クーラント/3.サラバンド/4.ガヴォット/5.ブーレ/6.ルール/7.ジーグ
このうち、颯爽と奏でられながらかすかな憂いを含む第1曲のアルマンドはいくつかある音楽の中でも、青春の記憶を呼び覚ましてくれるものだ。この曲集を最愛の妻、アンナ=マグダレーナに贈呈した(?)ということに少し関わりがある。
一方、フランスの女流クラブサン奏者、ユゲット・ドレフュスのものは、グールドの印象が運動性だとすると、重厚といえるだろうか。比較的重々しい表情で、少々ロマンチックで優美なバッハを聴かせてくれる。
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コメント
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こんにちは。大変ご無沙汰しておりました。
フランス組曲はイギリス組曲の次にグールドでよく聴きました。
そして5番が私も一番好きです。
CDでガヴリロフの演奏を聴いてから、グールドは案外表情は
濃くないことに気付いたのですが、スタッカート気味の歯切れ
よさがなんとも小気味よくて、いいですね。
投稿: 丘 | 2007年7月26日 (木) 19:04
丘さん、こちらこそご無沙汰しております。貴ブログは巡回して拝読させていただいております。グールドの5番はいいですねえ。同好の士ですね(^^♪
バッハのクラヴィーア曲の大部分は、グールドが入門だったクチなので、その後で他の演奏者の録音を聞くと新鮮に聞こえることがあります。そして、またグールドに戻ってその魅力を再発見するという繰り返しです。
バッハの曲は、懐が深いといいますが、学究的・正統的な演奏でも面白く聞ければ、相当個性を露わにしたり、デフォルメしたりしたものでも面白いというふうに、私のような好事家にも楽しさを感じさせてくれるのがすごいと思います。(演奏家の方は、とてもそんな気楽では居られないとは思いますが。)
本文では、ドレフュスの演奏も重々しいと書きましたが、鈍重という意味ではなく、優雅な立ち居振る舞いとでもいう感じです。快速な楽章はそれなりに軽快です。
投稿: 望 岳人 | 2007年7月27日 (金) 09:03