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2007年7月10日 (火)

ブレンデルの『クライスレリアーナ』

Brendel_kreisleriana1_1 Brendel_kreisleriana2

ロベルト・シューマン

『クライスレリアーナ』 Kreisleriana 作品16

アルフレート・ブレンデル Alfred Brendel

〔1980年8月27日~29日、ロンドン、ワトフォード、ADD〕

シューマンのピアノ曲は、同い年のショパンの華麗、繊細で完璧な定型詩に比べて、微に入り細を穿った散文詩のような魅力を持っているように思う。それがなぜか私を魅了する。特に『クライスレリアーナ』は、これまでもケンプ、ルービンシュタイン、アルゲリッチと聴いてきたが、それぞれの大ピアニストの個性が浮き彫りになるようで、非常に面白かった。もっとも、どこからどこまでが一曲なのか分からないような形式が曖昧模糊とした非常にロマーンティッシュな小品の集まりであり、また譜面を見ても複雑なリズム書法によって書かれていることが歴然としており、非常に気分の振幅の激しい難曲ではあるけれど。

その曲を今度は、ブレンデルのCDで聴いてみた。ブックオフで、最初はフィリップス系の名曲全集『An Excellent Collection of Classical Music』の分売で廉価で入手したら、その数日後、フィリップスの正規盤でまったく同じ内容のものが売っておりこちらも入手してしまったという確信的なダブリ買いで手元に2枚あることになってしまった。

ブレンデルは、以前にも書いたように実際にリサイタルを聞いたことのあるピアニストでもあり、相当以前からマリナー/ASMFとの共演によるモーツァルトのピアノ協奏曲集やシューベルトのソナタを愛聴していたピアニストで、その表現と音はもっともしっくりくるピアニストの一人だ。

吉田秀和氏は、彼のモーツァルトをエスプレッシーヴォのモーツァルトと呼んだが、私にはどちらかと言えば安定感がある技巧の上の繊細なピアノの音色により、奇を衒わない誠実な音楽を作るピアニストというイメージができている。

このシューマンの難曲も、激しい感情的な振幅も描かれてはいるが、アルゲリッチのような没我的な激情は聞かれず、細かい音もゆるがせにしない客観的な円満な音楽になっているように聞こえる。シューマンの狂気を表現しなければという立場からは、予定調和的な演奏としてあまり評価されないのではないかと思うが、非常に立派で丁寧な演奏により音楽としての形がしっかり聞き取れる気がする。

大ピアニストたちが奏でる音楽は、いずれも紛れも無いシューマンの音楽なのだが、ブレンデルの演奏するシューマンには、後の狂気よりもクララを勝ち得て伴侶とする新生活への期待感、幸福感が聞き取れるような気する。

追記: 2008/02/08 mozart1889さんの同じ音源のCDの記事にトラックバックさせていただいた。

追記、編集:2008/02/09

*『クライスレリアーナ』の記事とタイミング

ホロヴィッツ    (1)2:34 (2)7:01 (3)3:35 (4)3:19 (5)3:20 (6)3:55 (7)2:14 (8)3:38
ブレンデル         (1)2:44 (2)8:06 (3)4:39 (4)3:58 (5)2:57 (6)4:16 (7)2:07 (8)3:21
アルゲリッチ       (1)2:35 (2)9:40 (3)4:32 (4)3:54 (5)3:08 (6)4:11 (7)2:06 (8)3:27
ルービンシュタイン(1)2:56 (2)8:53 (3)4:41 (4)3:12 (5)3:19 (6)3:37 (7)2:19 (8)3:57
ケンプ               (1)2:45 (2)7:40 (3)3:46 (4)3:45 (5)3:29 (6)4:15 (7)2:25 (8)3:40

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ディスク音楽04 独奏」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。TBをありがとうございました。
知性派ブレンデルの面目躍如、実にスッキリとして、誠実な演奏、素晴らしかったと思います。
今年でブレンデルの引退とのこと、寂しいですね。彼のモーツァルトやシューベルトは、本当に良かったです。

今晩は、こちらにもコメント、トラックバックありがとうございました。ブレンデルの引退予定を聴き驚きましたが、あのアルバン・ベルク・クァルテットも今年で引退だそうですね。

わが青春を彩った名匠たちが・・・などというと大げさですが、さすがに自分を馬齢を重ねたことを実感いたします。

先日ブレンデルの「ます」五重奏曲やブラームスの1番のコンチェルトを聴きましたが、手持ちのCDを少しずつじっくりと聴いていこうかと思っております。

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» シューマンの「クライスレリアーナ」作品16 アルフレート・ブレンデル(Pf) [クラシック音楽のひとりごと]
今日はピアノ曲を聴いてます。 シューマンの「クライスレリアーナ」作品16。 アルフレート・ブレンデルのピアノ独奏。 1980年8月、ロンドンのワトフォードでの録音。フィリップス盤。 シューマンは、僕にとっては交響曲の作曲家であって、彼のピアノ曲などはあまり聴かない。歌曲などは全く聴かない。ところが、かの吉田秀和は名著『LP300選』の中で、シューマンならまずは歌曲(「詩人の恋」)、ついでピアノ曲(「クライスレリアーナ」と「幻想曲」)をとるべきで、交響曲はとらない・・・・と書いていた。... [続きを読む]

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