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2007年9月20日 (木)

スイトナー/SKD モーツァルト後期交響曲集

Suitnermozart オットマール・スイトナー(スウィトナー)指揮 シュターツカペレ・ドレスデン

 モーツァルト 交響曲第33、34、39、40、41番 (徳間音工、ドイツ・シャルプラッテン)2枚組み 〔1974年-1975年、ドレスデン・ルカ教会〕定価2,000円(ブックオフ定価 500円) 


まったくの想像だが、スイトナーのドレスデンのボックス(10枚組み)を入手した人が、上記曲目が全て含まれている上に35,36,38番なども収録されているようなので、手放したものと思われる。

オケの響きは相変わらず美しい。特に、第40番の第2、3楽章では弦の静謐で透明な音楽にうっとりとしてしまった。

聴きなれた後期の三曲の交響曲をスイトナーの指揮で聴くと、これまでのスイトナーの印象とは少し違い、結構直線的で武骨な面も聞こえた。それを強く感じたのは、第41番のフィナーレ。非常に勢いがあり、ためを作ることもなくインテンポでグングン前に進む。有名なフガートもバリバリとした音楽になっている。

また、第40番の第1楽章もセルの特に東京ライヴのような柔軟さはあまりなく、生真面目できっちりとした楷書風の演奏だった。

聞きなれない曲の33番、34番も結構楽しめた。

スイトナーの音盤は、先に記事にした同じSKDとの『魔笛』のほかに、ベートーヴェンの『第9』がある程度。

しかし、N響の指揮者としてしばしば来日したおりには、FM放送などでよく聴けたものだった。

私が唯一N響の定期演奏会を聴いたのは、スイトナー指揮によるブルックナーの交響曲第8番の演奏だった。(多分このページに書かれている1986年の演奏会だったと思う12/17か12/18かはメモの記録がどこかに行ってしまい分からない。)

この生演奏が、それまで茫漠としていたブルックナーが急に面白くなったきっかけだった。教育出張かなにかの折、比較的早く宿に戻れた日に、新聞に出ていた演奏会案内を見つけ、当日券を電話予約で取った。初めて入ったNHKホールの舞台に向かって右側の最前列に近い席で音響バランスはあまりよくなかったが、身じろぎもせずに聞き入ってしまったのを思い出す。オーストリア出身でクレメンス・クラウスの薫陶を受け、主に東側で活躍した指揮者で、ブルックナー指揮者としてはそれほど名高いわけではないと思うが、ブルックナー初心者にも分かりやすい音楽で、雄大な音楽に包まれる感じを味わった。

スイトナーは、しかし、東独が消滅するのとほぼ時を同じくして、事実上の引退状態になって今に至っているようだ。

ヘルベルト・ケーゲルのようにピストル自殺を遂げた指揮者もいるし、クルト・マズアのように民主化・自由化の旗手として活躍した人物もいる。またザンデルリングのように、ソ連から戻り、東独で活躍し、西側でも最後の巨匠として名を成した人もおり、まだ自由化前の東独から亡命?して、西側のオケで活躍したテンシュテットのような人もいる。東西冷戦は、音楽界に東西の競争心を掻き立てる一方大きな爪あとも残した。スポーツ界では、ちょうど東ドイツを初めとする東側のステート・アマチュアが特にオリンピック競技で世界を席巻した時代があったが、音楽でも国家主導の下、西側への優位を使命として与えられて活動させられた人々が多かったのではないかと思う。それが、突然の壁の撤去により、精神の均衡が崩れる人がいたのも無理からぬことだった。

イデオロギー対立が世界規模では終結したと思えば、民族対立、そして今は文明の衝突とも言われる事態になっている。

スイトナーの活躍を思うにつれ、東ドイツという今は消滅してしまった共産主義国家の体制化での音楽活動というものを改めて考えざるを得なくなってしまった。今や、東西冷戦、鉄のカーテンの向こう側の記憶が薄れ、たとえば、当時のムラヴィンスキーとレニングラード・フィルによる録音や、これら多くの東ドイツ、チェコ・スロヴァキア、ポーランドなど東側諸国の音楽家の当時の状況を忘れての単純な演奏比較は、時代精神でもある演奏様式の違いの意識とともに、避けなければいけないことではあるのではあるまいか?

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コメント

こんばんは。
スウィトナー、いいですね。大好きです。
モーツァルトなんかキビキビしていて爽快無比、素晴らしい演奏ですね。しかも2枚組500円というのもエエですね。
彼のベートーヴェンもシューベルトもブラームスも大好きです。ハイティンク的な全集魔でもありましたが、スウィトナー盤で聴く独墺系の交響曲は、基本的に明るくて爽やか、心地よいものでした。

「音楽家の当時の状況を忘れての単純な演奏比較」-

そのようにする根拠に、「芸術に政治を持ち込みたくない」とか、「一切を省き出来るだけ芸術そのものに迫る」とかする主張がある訳です。これは、玄人だけでなくてBLOG等でお付き合いのある方々にもよくある基本姿勢です。

しかし、その反面同じ人の口から、即物的な芸術への接し方やノイエ・ザッハリッヒカイト芸術の否定が聞かれ、そのような評論に、演奏家の心の問題や精神性が「憑き物」となっているのです。

上のスイトナー氏も基本的にはベームなどと変わらない新即物的な姿勢があると思います。何もモーツァルトの眼鏡を持っているからだけの理由で、記念すべきバイロイト年で二人が競演したのではないでしょう。

ご指摘のように、そうした文化的な背景の無い芸術の存在の不可能を聴き取ってこそ、初めてその芸術家の表現に触れる事が出来るの筈なのですが。

mozart1889さん、コメントありがとうございます。

スイトナーは実演に触れたことのある数少ない指揮者のうちの一人なのですが、これまではディスクでは『魔笛』と『第9』程度しか聴く機会がありませんでした。このモーツァルトはもっと柔和な表情かと予想していたのですが、意外にキビキビした感じを抱きました。まだ『春の祭典』などが聞ける10枚組みのボックスは入手可能なようなので、聴いてみたいですね。

pfaelzerweinさん、コメントありがとうございます。

虚心坦懐に音楽に接することということを心がけながら、それとは逆に音楽家や演奏家の生い立ちや(心の問題、精神性や、時代、宗教、思想、政治観、民族などの)バックグラウンド、ディスクなら録音の時期、スタッフ、エピソードなどもろもろのことを知りたくなるという矛盾は私も感じております。

固定観念や先入観を完全に排することなどはできないのですから(もしそれをしたら聞き比べなどということもできなくなりますし)、いわゆる偏見をなるべく捨てるように心がけることが大事かなというように考えてはおります。

さて、スイトナーの録音を聴きながら、彼は元々オーストリア出身で元々西側で活躍していたのにどうして東側にとどまったのかと思ったことが、いわゆる東側の指揮者のことをあれこれ書き付けたきっかけでした。しかし、おっしゃるようにバイロトに何度も登場していますし、日本を初め西側にも比較的自由に出ていたのですから、政治思想の問題ではないのかも知れないとも思います。

逆のケースとしては、カール・リヒターはバッハの聖地ライプツィヒからミュンヘンへ移っているように、ドイツの音楽界はナチス・ドイツから東西ドイツの分断への歴史は音楽家に相当深刻な影響を与えているのではと愚考しております。

望さん、おはようございます。
スウィトナーのモーツァルトで、39番の交響曲を聴きましたので、TBを送ってみました。
いつ聴いても、爽やかなモーツァルトです。

3,500円もしたCDだったことに気づきました。昔は高かったですね。涙がこぼれます。

mozart1889さん、コメントとトラックバックありがとうございます。

交響曲第39番のエントリー拝見しました。

かつてのLPやCDの高さと昨今の激安の格差はあまりにも激しいですね。当時のレコ芸などで評判になっていたもので、聴く機会がなかったものは90%以上あると思いますが、記憶に残っているものが超安値で目の前にあるとつい飛びついてしまいそうになります。スイトナーの10枚組みも欲しいのですが。

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