映画『真珠の耳飾りの少女』(2003年イギリス)
9/26からフェルメールの『牛乳を注ぐ女』が国立新美術館で公開されているが、前景気を煽るためにかNHKのBS2で表題の映画が9/24に放映されていたのをビデオに収録しておき、急に11月ごろの気温になってしまった9/30の日曜日に家族で鑑賞した。
子どもたちも以前一緒にブリヂストン美術館に見に行ったルノワールだとか、この春に見たレオナルドだとか、ゴッホ、ピカソ、ダリなどの画家の名前を知っているが、このフェルメールは(最近買った世界史年表にも名前が出てこないので学校教育ではあまり教えられないようで)知らなかった。
2000年にこちらに引っ越してきたばかりのとき、上野の国立西洋美術館でちょうどフェルメールとレンブラントとオランダの画家たち展に家族で出かけて見た『恋文』が初めて生で見たフェルメールだったが、幼かった子どもたちをつれていったのだが、さすがにまったく覚えておらず、そのときに買った展示目録やフェルメール特集の「週刊美術」を出してきて見せたが、それほど興味を引かないようだった。私自身もフェルメールを知ったのは、ようやく20代になってからで、インターネットにつないでダウンロードした『デルフトの眺望』を壁紙にしていたこともあった。
さて、この映画だが、日本語版も出ている小説(白水社)を元にした映画だという。印象的な『真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)』のモデルが誰かを探ったフィクションであり、歴史上の有名人の伝記的な疑問を解き明かそうとして独自の想像を働かせたという点では、ベートーヴェンの不滅の恋人を扱った『不滅の愛』に通じるものがあった。
さて、フェルメールは、日本で言えば江戸時代の初期に活動したオランダの画家で、映画ではその生涯をすごしたデルフトの運河界隈の情景を巧みに再現しているようで、興味深かった。この頃のオランダは鎖国していた日本と長崎の出島を通じて交渉を持っていたということを子どもたちに話しながら見た。そう考えると港の船や商店などもまったく縁のない時代や場所ではなく思えたから不思議だ。
映画では、フェルメール家の年配の召使いが、『牛乳を注ぐ召使い』とそっくりだったり、フェルメールの妻が『手紙を読む青い衣の婦人』と同じ妊婦だったり、『真珠の<<首飾り>>の婦人』はパトロン夫人がモデルだったり、『合奏』そのままの場面のヴァージナル(ハープシコード?)がフェルメール家に置かれていて画家と夫人が演奏を楽しんだり、『水差しを持つ若い女性』をアトリエで描いていたりで、ところどころフェルメールの絵そのままの映像が非常に美しかった。また、屋根裏部屋での絵の具の調合の場面では、ラピスラズリや墨などの色素をすりつぶしたりと亜麻仁油と調合するなどの技術を習得するためにこそ画家の弟子入りが必要なのだろうということがなるほどと思わせるようによく描かれていて面白かった。
また、新教国であるはずのオランダだが、フィクションの若い召使いグリートの家やそのボーイフレンドの肉屋はプロテスタントであり、フェルメール家やそのパトロンは贅沢な食事を楽しむなどカトリックであったようで、その差異も丁寧に描かれていた。庶民のレベルでは共存していたようだ。
フェルメールが用いたと想像されているカメラ・オブスクラは、ディズニーシーのフォートレス・エクスプロレーションにも実物が置かれていたが、この映画でもレンズ付きのものが再現されていた。望遠鏡を発明したホイヘンスがちょうどフェルメールの同時代人であり、フェルメールはいち早くレンズを用いた機械を入手したという設定だろう。
その生涯の詳細があまりわかっていないフェルメールの残した印象的な『少女』のモデルとしてはフェルメールの娘ではないかと言う説も唱えられているが、自分の娘にあのような清潔とは言え、いわゆるコケットリーを持たせることはありえず、むしろ原作の小説、この映画の唱える説が相当蓋然的であるように思った。
この映画の主人公である『少女』を演じたのは、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年作品でコメディに分類されるのだという!)での物憂げな演技が印象に残ったスカーレット・ヨハンソン。ファミリーネーム的には恐らく、スカンジナビア系の出身だと思うが、『少女』に瓜二つというわけではなく、『少女』の微笑よりも、堪える女性を感じさせた。台詞の少ない抑制的な演技がなかなかだった。
なお、映画と小説のエンディングは少々異なるらしい。またアメリカではR指定というだけあり、少々小学生には早い恋愛シーンもあった。
フェルメールの作品は、その細部までの細かい書き込みのため、画像では比較的大きく拡大されて紹介されることが多いのだが、意外にも非常に小さい。
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