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2007年11月17日 (土)

1789年 フランス革命 と ヴィーンでのモーツァルトの人気凋落に関係はあるか?

【フランス革命】 

1789年から1799年にかけて、ブルボン王朝の失政、啓蒙思想の影響、第三身分の台頭、下層民衆の行動力の形成などによって起こった、フランスの市民革命。

ブルボン王朝の失政をたて直すために召集された三部会が国民議会へと発展。

1789年7月14日のバスチーユ牢獄襲撃事件。

それを契機に、立憲君主制をとる1791年憲法が成立。
新しく成立した立法議会は共和派の進出がめだつ。

1792年、共和派のジロンド派内閣はプロイセン、オーストリアの干渉に対し
対外戦争に突入。

1792年9月立法議会にかわった国民公会は共和制を宣言。
1793年国王ルイ16世を処刑、山岳派の独裁による恐怖政治が布かれた。
1794年テルミドールの反動により革命政府は解体。 1795年総裁政府が組織されたが政局は安定せず。
1799年ナポレオンの軍事独裁により革命は終わる。

古典的な市民革命として世界各国の政治、社会、精神生活に強い影響を与えた。

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先日2週連続で、フランス革命時のフランス王妃マリー・アントワネットのドキュメンタリー仕立てのドラマがNHK教育テレビで放映された。約1年前に放映されたものの再放送だったようで、ところどころ見覚えのあるシーンが出ていたが、ヴェルサイユ宮殿などでのロケを多用して、衣装・調度などの細部までにも神経を使い、また歴史的な人物を演じる俳
優たちも、肖像画で現在でも見られるそのイメージに相当近い人たちがキャスティングされるなどフランスのテレビの相当力作のようで、見ごたえがあった。(地球ドラマチックhttp://www.nhk.or.jp/dramatic/backnumber/84.html )

日本人の女性にとっては池田理代子の『ヴェルサイユのバラ』により非常に親しい歴史的事件と登場人物ではあるようで、その影響だろう、妻も『首輪事件』など小さいスキャンダル的な事件について細かく知っていた。(私が購入したシュテファン・ツヴァイクの評伝『マリー・アントワネット』や週刊誌に連載していた遠藤周作の『王妃マリー・アントワネット』なども愛読していたようだ。)

さて、1789年7月14日、バスチーユ監獄が襲撃されて、フランス革命が引き起こされるのだが、その勃発後も、上記の辞典の記事のように、ルイ16世とその家族は数年の間はチュイルリー宮殿などに軟禁されて生命を保っており、逃亡事件もそれゆえに引き起こされ、またそれがきっかけで王夫婦のギロチンによる処刑につながったのだが、周辺のヨーロッパ諸国、特に王妃の母国である神聖ローマ帝国(オーストリア)では、王侯貴族層は相当の衝撃が伝わったものだろう。

モーツァルトの伝記には、このフランス革命の余波についてはあまり印象的な記述は見られなかったように記憶している(私の認識不足かも知れないという可能性が大きい)が、まさに同時代の大事件の頃がモーツァルトの短い生涯の最晩年にあたっており、分けても1789年から1790年はモーツァルトにとって非常に寡作な年となっている。この時期は彼の生活が窮乏した時期にちょうどあたっている。

モーツァルトは、グルック亡き後の神聖ローマ帝国の宮廷作曲家として約5分の2の俸給800グルデンで雇われているので、宮廷そのものがモーツァルトを弾圧したということは、表面的にはないように思われるのだが、モーツァルトを持て囃したヴィーンの貴族たちは、例のバッハ、ヘンデルマニアのヴァン・スウィーテン男爵を除いて、予約演奏会にもまったく参加しなくなったというのは、単にモーツァルトの音楽が対位法や多彩な転調により深化し複雑化して「難しくなった」ことだけによるのだろうか?ランドンの著書にもあったように、彼の傑作オペラの題材が、貴族たちを刺激したということも考えられる。庶民が貴族をやっつけるボーマルシェの原作のフィガロは、演劇としては帝国内での上演を禁止されていたほどの挑発的な内容だったし、ドン・ジョヴァンニはその後のベートーヴェンが音楽の魅力は評価したが、その性的に不道徳な題材に反発したように、一般の教養ある階層には不評だったのかも知れない。また、同様に恋愛問題として遊戯的に過ぎるとも言えるコシは、ヴィーンの上流階層の実話をモデルにしたものとも言われ、もしそれが事実なら際物として敬遠されたということもありうるかも知れない。(まさにロココの発信地のルイ15世時代のヴェルサイユでは逆に受けたのではなかろうか?)

当時の人気は誰に向かっていたのだろうか?例のサリエリなどだったのだろうか?

ともあれ、もしかしたらという限定付きではあるが、フランス革命の余波がヴィーンの貴族層に与えた影響とその反発が、モーツァルトの凋落に影響し、その死に際して村八分のような新聞の扱いにも影響を与えたという可能性があるように思える。ランドンの著書では、モーツァルトの急激な凋落の理由は、ヴィーンの膨大な古文書(日本では江戸時代の寛政の改革の頃)に埋もれているかも知れないというが、フランス革命の余波がヴィーンの貴族層に与えた影響とその反発についてもっと知りたいと思う。(小学館のモーツァルト全集の書籍には、18世紀について詳しい連載があったので、後世に与えた影響では18世紀最大の事件でもフランス革命について当然詳細な記述があったと思うが、当時はそのような観点からは読んでいなかったので、あまり印象に残っていない。)

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コメント

同感です。啓蒙専制君主は、「後宮からの逃走」に見られるように、自分達をおちょくる者もにこやかに許容するポーズを示すことによって、その啓蒙性を誇示していたと思います。フランス革命は、たぶんそれを打ち砕いたのでしょう。
モーツァルトは、宮廷に対し、かなりきわどい挑発を続けていたので、深刻な影響を受けたものと思われます。市民階級に立脚することを宣言したベートーヴェンは、その意味でも革新的だったのでしょう。

narkejpさん、コメント、トラックバックありがとうございました。

フランス革命の直近の原因の一つとして、世界的な飢饉が挙げられています。これは、火山の噴火によるものだとされており、1783年の浅間山の噴火(天明の大噴火)の影響ではないかという説もありました。しかし、日本では1782年から天明の大飢饉が始まっており、また、アイスランドのラカギガルの割れ目噴火による影響の方が強いとされているようです。しかし、浅間山の噴火の影響も決して無視できるものではなく、天変地異が政治に大きな影響を与えた例として興味深いものだと思います。

啓蒙専制君主というのは面白いですね。啓蒙と専制は両立しないようにも思われますが、実際には存在した。そこへボーマルシェの革命的な反貴族の理念を(薄められたとはいえ)受け継いだ歌劇を、啓蒙専制君主の元で繰り広げられたことが逆に奇跡的だったのかも知れないと、あの「アマデウス」を見ながら感じておりました。マリー=アントワネットもプチ・トリアノンの小劇場で、『フィガロの結婚』を上演し愛好していたというのですから、また驚かされます。盲目的な権威への反発の称揚は身分の上下を問わずに刺激的だったのでしょうか?それにしても、『フィガロ』は面白いですね。

モーツァルトが意識してフランス革命へのシンパシーを表明していたのかどうかは分かりませんが、フリーメーソン的な友愛主義の影響によって、自然とそのようなものがほとばしっているのかも知れないとも思われます。

モーツァルトの人生は短いですが、その多くの傑作と相俟って本当に興味深いものがあります。そして、たった14歳差ですが、ベートーヴェンはまた違う世代(ナポレオン戦争とヴィーン体制)で、これまた面白いですね。

地球ドラマチックは、来年4月からはTBSが「悪魔の契約にサイン」の後継番組として放送するそうです。

杉田平和町さん、情報ありがとうございました。

ただ、NHKの番組をTBSが引き継ぐ?などということがあるものでしょうか?内容的にも教育テレビならではのものなので、とてもTBSがこのような番組をゴールデンタイムに放送するとは思えないのですが・・・

〔地球ドラマチックは、来年4月からはTBSが「悪魔の契約にサイン」の後継番組として放送するそうです。投稿: 杉田平和町 | 2008年12月 7日 (日) 14:23〕

についての続報。

よく訪問させてもらっているブログにも、まったく同じ内容のコメントが書かれているのを見つけた。そのコメントに対しては、「……水を差すようですが、ガセでしょう。この人方々で同じようなことを発言してます。」というコメントがついていたので、グーグルで「杉田平和町 地球ドラマチック 悪魔の契約」で検索すると大量に見つかった。

不思議なコメントである。

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