西行と玉藻前
先日、DS文学全集の岡本綺堂の『玉藻の前』を読了した。この小説では、那須の殺生石と化した九尾の狐の前身である玉藻の前(たまものまえ)が、関白藤原忠通に仕えたとされていて、彼女を妨害する側として、忠通の弟である 悪左府頼長と信西(通憲)が登場する。
現在、朝日新聞で連載中の夢枕獏の『宿神』は、当初の私の予想とは異なり、西行を主人公として小説になっているが、ちょうど上記の忠通が非常に策謀に長けた宮中政治家として描かれている。
普通、忠通が温和な関白であり、頼長が悪左府と呼ばれるほどの策謀家だったとされるが、夢枕の小説では忠通を相当批判的に書いているのが面白い。西行が待賢門院璋子(たまこ、しょうし)を思慕していたという設定であるので、璋子に対立する美福門院得子(なりこ)側の忠通側を批判的に見ているのかも知れない。もちろん、悪左府とされる頼長や信西は、保元の乱の敗者側であり、敗者側からのこのような解釈もありうるだろう。(後日訂正:信西は保元の乱の勝者側でした。)
いずれにしても、この保元の乱の前哨戦とも言うべき時代は、関白家と天皇家の親子兄弟の複雑な人間模様が非常におどろおどろしくまた興味深い。そこに、庶民が中国伝来の妖狐伝説を付会したものが『玉藻の前』伝説だろうか。(モデルは、上記の美福門院とされる!)
岡本綺堂の小説は、今回『半七捕り物帳』『玉藻の前』と初めて読んで見た。後者は構成的に前半部の面白さに比べて少々尻すぼみ的なのが残念だったが、特に『半七捕物帳』は、WIKIPEDIAの解説にあるように、現代作家が書いたものと言っても信じてしまうほど文章が明晰であり、感心させられた。
P.S. 早速、光文社時代小説文庫で出ている本を数冊購入した。
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