ベートーヴェン 『ミサ・ソレムニス』 バーンスタイン コンセルトヘボウ管
コンパクトディスク(CD)は、私が学生の頃に発売された。当時住んでいた東北地方の都市でもオーディオメーカーと音楽ソフト業界によるオーディオショーのようなものが開かれ、音楽好きの友人と聞きに行ったことを覚えている。それまで聞きなれたLPを初めとするアナログオーディオやホールで聴く生の演奏に比べると、雑音はないが突き通すような硬質な音だという印象を持ったことを覚えている。発売直後は、CBSソニー系のソフトが多く、4000円以上の定価が付いていた。
発売当時はハードもソフトも高価で学生の身には簡単に入手できる値段ではなく、ようやく自分で購入できたのは、就職して一番最初の寸志程度のボーナスをもらってからだった。そのとき購入したCDプレーヤーはヤマハの製品で、当時ヤマハのオーディオはスピーカーもアンプも楽器メーカーらしく誇張のない素直な音質だといわれていたことが購入の決め手になった。そのときに同時に求めたCDは何枚かあるはずだが、確実にそのときの購入だと覚えているのは、バーンスタイン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団によるベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』とマゼールの『ドン・ジョヴァンニ』だった。大曲とオペラを裏返すことなく聴けるというCDのメリットが憧れだった。
さて、それまであまり縁がなく聴く機会がほとんどなかった『ミサ・ソレ』だったが、当時大活躍だったバーンスタインがVPOとのベートーヴェンの交響曲全集に引き続いて、今度はACOと素晴らしい録音をしたという高い評判で既にLPで発売されていたものだったが、全曲が長いためなかなか全部がFMでかかることもなく、憧れのCDだった。また、当時はソフトが高かったため、一曲一枚主義が基本で、実家でLPで聴けるものは原則として買わないことにしていたため、自分にとっての基本ライブラリー的なCDをLPの曲目とダブリで買い始めたのは大分後になってからだったこともあり、LPで持っていないものから買い始めたのもこのCDを求めた背景だ。
自分のホームページに、簡単で小生意気な感想は下記のように書いてあるが、久しぶりに聞きなおしてみた。
☆ミサソレムニス バーンスタイン/コンセルトヘボウ (413 780-2) 1978年録音
これも発売当時大変話題を呼んだ録音である。この録音が全曲初体験。名曲、大作であるが曲としては全体のプロポーションがよくないためあまり好きではない。グローリアの膨大なエネルギーは後期のベートーヴェンに特有のものか、大フーガやハンマークラフィーアのフーガに共通する。またサンクトゥスの優美なヴァイオリンのオブリガートは美しい。宗教的なことに言及すると、ユダヤ系のバーンスタインは「カトリック的な様式の」ミサ曲の演奏に際して宗教的な戸惑いはないのだろうか? 宗教的に無節操な日本人の言うことではないが。
この『ミサ・ソレムニス』をを聞くのも久しぶりだ。というよりも、この演奏のほかは他の録音ではほとんど聴いたことがない。だから今のところ比較を絶した唯一に近い『ミサソレ』なのだが、今回ゆっくりとステレオ装置で聴いてみてもどうも相性が合わない感じだった。
違和感の一つは、ソプラノのエッダ・モーザーの発声。ちょうど同じときに購入したマゼールの『ドン・ジョヴァンニ』でドンナ・アンナを歌っているのも彼女で、大変評価の高いソプラノではあるが、どうも自分の好みではないようだ。
また、この曲の録音が、解像度が低く感じられるのも残念だ。ホールトーンを取り入れすぎなのか全体的にもやついており、音像がはっきりしないように感じる。また、音響のバランスがあまりよくないようにも思う。
それでも、ベネディクトゥスでのソロのオブリガートを奏でるヴァイオリンは非常に美しいもので、ACOの名コンサートマスターとして知られたクレッバースがそのソロを務めて、大変美しい音楽になっている。また、アニュス・デイに「戦争交響曲」的な描写的な戦闘場面を音楽で表現する部分があるが、印象に残る。
発売当初は、大変評判になったものなので、ブログなどで多数言及されているかと思って検索してみたが、意外にもこの演奏についての感想や評論はほとんど見当たらなかった。
余談だが、あのフルトヴェングラーは、この曲を若い頃は何度か指揮したというが、意外にもこの曲の録音を残していない。
ベートーヴェンが晩年に至って苦心惨澹して完成し、最も自信を持っていたという傑作ということで、他の演奏も聴いてみたいものだ。評判が高いのはトスカニーニやクレンペラー、ベームのものだそうで、最近のジンマンの指揮のものやガーディナーなどのピリオド・アプローチも興味深い。
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