C.デイヴィスの『メサイア』
サー・コリン・デイヴィスは、モーツァルトとベルリオーズのスペシャリストというユニークなレパートリーを持ち、次第に多くの曲を録音するようになっていったように記憶している。小学館=フィリップスのモーツァルト全集では、最初期や未完成のものを除き、傑作、名作オペラが、ほとんどコリン・デイヴィスとコヴェントガーデン歌劇場によるものが収録されている。
私が高校生の頃、コリン・デイヴィスの名前は、以前も触れたことがあるがアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とのストラヴィンスキーの三大バレエの録音で一躍スターダムに乗ったのを記憶している。特に、『春の祭典』の録音は、鋭利な刃物のようなブーレーズとクリーヴランド管のものとは対照的に、骨太の豪快な演奏を繰り広げており、熱狂したものだった。その前後、彼は八面六臂の活躍で、シベリウスの交響曲をボストン響と録音し(小澤征爾が常任になる前は、コリン・デイヴィスが有力候補だったこともあったらしい)、BBC響やロンドン響とベートーヴェンの交響曲全集、コンセルトヘボウとはハイドンを録音するなど新譜が相次いで発売されていた。勿論、その前には、モーツァルトのオペラとベルリオーズの多くの管弦楽曲があったのだが。
そのデイヴィスが、その後手兵となったあのクーベリックのバイエルン放送交響楽団と収録したのが、このヘンデルのメサイアで、録音は1984年10月から11月、ミュンヘンのヘラクレスザールでとある。
ソプラノは、マーガレット・プライス、アルトはハンナ・シュヴァルツ、テナーはスチュアート・バロウズ、バスがサイモン・エステスで、当時のスター歌手達を起用したものだ。合唱は、バイエルン放送合唱団が務めている。
何を隠そう、このCDが私の『メサイア』入門で、たまたま帰省帰りに立ち寄った長野市のクラシックレコード専門店でこのCDを見かけ、顔ぶれが顔ぶれだったので、カール・リヒター盤のようにドイツ語での歌唱かどうか心配になり、店主に英語歌唱かどうかを確認したほどだったのを思い出す。
ドイツ生まれで、イタリア修業を経て、イングランドで活躍して没したヘンデル(ハンデル)の音楽を、イギリス生まれの指揮者が、ドイツの(南部の)交響楽団を指揮するという、ちょうどクロス関係のような再現が行われたものだが、メサイア入門としては、非常に穏健で、ところどころエステスの独特の歌唱はあるものの、モダンオケによる比較的大物指揮者のメサイアとして今となっては貴重なものかも知れない。参考記事として、ヘンデル「メサイア」(ガーディナー指揮)があるが、ちょうどこの頃からバロック音楽はピリオド・アプローチが主流になる時期にあたり、次第に現代オケを振るスター指揮者たちがバロック音楽を演奏しなくなってきた時期にあたるからだ。
12月22日は2007年の冬至にあたり、一年で最も夜の長い日になる。北半球では太陽の出ている時間が最も短く、緯度の高いヨーロッパでは太陽が本当に衰えたように感じられたのだろう。一陽来復とも言うが、冬至 midwinter は、特に古代人にとって太陽の力が復活してくれるかどうか毎年心配の種だったのだろうと思う。この冬至の祭りが、その後ヨーロッパのキリスト教化につれて、いつの間にかクリスマスにつながったという話を聞いたことがある。ケルト、ゲルマンなどのヨーロッパ古代とローマ帝国によるキリスト教の布教とが相俟って現代のヨーロッパ世界が形作られているのだろうと思うが、この西洋の影響力が強まったルネサンス期と大航海時代以降、いつまでヨーロッパ中心の段階が続くことだろうか。
音楽とは直接関係ないが、そんなことを思ってしまった。
なお、このメサイアが初演されたのは、アイルランドのダブリンにおいてで、そのことは大分前に記事にしたことがある。日韓と英愛の平行関係 と メサイア初演
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