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2007年12月 1日 (土)

シュナーベルのベートーヴェン ピアノソナタ全集(EMI)

Schnabel_beethoven_1_32 シュナーベルのベートーヴェンのピアノソナタは、以前から聴きたいと思っていたが、店頭ではなかなか入手できないでいた。それが、最近開店したばかりのブックオフをクラシック系のCDはどんなものがあるだろうかと覘いてみたところ、輸入盤のEMI8枚組みセットが陳列されており、すぐに購入し、早速聴いてみた。

これが1930年代の古臭い録音、演奏だろうか?ブラインドテストをしてみたら、録音はモノで帯域も狭めなので少し古い録音だとは分かるかも知れないが、SP特有のスクラッチノイズはほとんど聞こえず、またピアノの音色には高中低域ともつやと存在感があり、むしろ最新録音よりも美しく聞こえることもあり驚いた。(EMI盤の1枚目、第3番 作品2-3の第2楽章、第3楽章など)。ポータブルCDで聴いても、ステレオセットで聴いてもその音の魅力は現代の最新録音に勝るとも劣らないように聞こえる。音楽としての実質が伝わるかまぼこ型の周波数特性のためかも知れないとも思ったが、意外だった。

有名曲では、『熱情』の終楽章が凄い。全体的にシュナーベルの採るテンポは速く、ハンマークラフィーアでは第1楽章など不可能といわれるテンポに挑戦しているが、熱情の第3楽章でも、コーダのギア切り替えでさらに速くする部分など充分に音としてはなりきっていないが、迫力ある音楽になっているのに驚かされる。

シューベルトの第21番でも感じたが、シュナーベルの音楽は生気が溢れているのが特徴に思われる。戦前から聴き継がれた「聖典」とも言われる歴史的な録音で、長らくその精神性の深さが称揚されてきたものだが、70年後の現在聞いてみると、むしろ精神性という不確かなものよりも、ベートーヴェンの音楽の持つムジチーレンの楽しさが伝わってくるかのようだ。

なるほど、このような演奏解釈の土台(ベートーヴェンからチェルニー、レシェティツキーを経てシュナーベル。チェルニーの弟子としては、リストの系譜もあり)があって、その後のベートーヴェン演奏の系譜があることを知ることができる。温故知新とはこういうことを言うのかも知れない。

これはさすがに以前から語られてきたことだが、速いテンポにより細部の細かい音符が精緻に再現できていない点は結構多く、またロングテイクで細部の修正なしのためだろう、ミスタッチもそのまま収録されていたりもする。それに、簡単なソナタ(ソナチチネ・アルバム所収)では、勢いに任せた弾き飛ばし的な演奏も聞こえたりもする。そういう点では、現代CD時代の一点一画をゆるがせにしない精密な録音には譲るが、ベートーヴェンの音楽を大づかみ(といっても細部も充分美しいが)で聞かせてくれるのはこのシュナーベルの演奏が最右翼かも知れない。

順序が逆だが、これを土台に、バックハウス、ケンプ、ソロモン、ナット、R.ゼルキンアラウグルダブレンデル変奏曲)、バレンボイム(EMI, DG)、ゲルバー、ポリーニ、リヒテル、ギレリス、ヴェデルニコフ、アシュケナージ、ホロヴィッツ、ルビンシュタイン、グールドなどなどのベートーヴェン演奏を味わうのはまた楽しみだ。

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ディスク音楽04 独奏」カテゴリの記事

コメント

興味深い記事でした。シュナーベルの演奏は、BlueSky Label などで聴くことができますが、PCオーディオの小型スピーカから、1930年代の録音が流れると、なぜか新鮮です。いつも聴くには、せめてステレオ録音であってほしいのですが、こういうテーマで参考にするには、じゅうぶんに役立つレベルですね。ジョージ・セルが共演するピアニストを調べて見ると、セル側からオファーした人はなぜかシュナーベル門下が多いように思え、どういう関係があったのか、興味深いです。

narkejpさん、こちらにもコメントトラックバックありがとうございました。ベートーヴェンのテンポの問題は尽きせぬ興味がありますね。

200年前のデジタルな数字データにどう向き合うか。モーツァルトの時もそうでしたが、ちょうど200年前の1811年、「大公トリオ」を作曲した年にあたるようです。

シュナーベルとジョージ・セルのつながりは?と調べたところ
http://www.h6.dion.ne.jp/~socrates/schnabel.html
に、渡米後のシュナーベルとセルの共演盤があることが掲載されていました!

カーゾンもフライシャーも(リリー・クラウスも)シュナーベルに師事していたんですね。ご教示ありがとうございました。

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» ベートーヴェンの速度表示は「無茶」だったのか [電網郊外散歩道]
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